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時は過ぎ、授業も終わり、私は帰りの馬車に揺らされていた。
ええと、サロンのレイアウトだっけ?ルシッサに半ば強制的にその役を押し付けられたが、やるんだったらやりきる。それが私だ。
あの教室は狭い。しかしそれは貴族である私たちが見ての感想。実際あの教室は前世で例えるなら、四十人の生徒(の机や椅子、ロッカー含めて)がきっちり入る教室程の広さ。やろうと思えばいくらでもレイアウト可能。
腕がなる。
まずはどんなサロンにしたいかだ。これは私以外の意見は取り入れないものとする。因みに私は「妖精」をテーマに作りたい。具体的に言うと、妖精がやって来そうな部屋を作りたいのだ。
我が学院の庭園こそやって来そうな気がするが、私の目的はそこでご飯を食べること。なんども言うようだが、規則破りでも私や罰することはまず不可能。しかし元秩序やらを守る日本人の私。あまり権限を振りかざすようなことはしたくない。
そうと決まれば早速品集め開始。家の中を漁り、テーマにあったそれらしい素材を収集。うふふ、明日が楽しみ!
◇◇◇◇◇◇
「…こんなものかな」
次の日私は朝早くに登校した。何人かの使用人を連れて。まるで昨日のゼルダのようだけど。
他の生徒が登校してくる前に、セッティングを終わらせたかった。使用人達は手際良く作業をし、なんとか部屋のセッティングは終えた。うん!いい感じ!
壁紙は白。床には赤い絨毯。天井にはシャンデリア。唯一一つの窓には赤色のレースのカーテン。ソファーは元からあった白いものを使う。ローテーブルにはエスニックな、東洋から取り寄せた布を被せた。少し大きめの冷蔵庫、食器棚も置いて、食についてもばっちり。そしてあのロッカー様は健在。使用人達は場違いで、浮いた存在となったロッカーを退けないか?と言ってきたが、却下。ヒロインの逃げ道を無くしてやるほど、私は鬼じゃない。さぁこい!ヒロイン!
◇◇◇◇◇◇
「へぇ…やるじゃん」
使用人達を帰らせて間も無く、ゼルダがサロンにやってきた。鞄を持っているところを見ると、登校して真っ先にここへやって来たのだろう。
「おい、壁に掛けられたアレ、なんだよ」
ゼルダが言ったのは、この空間を囲むように掛けた華入れだ。他にも花瓶なども置いてある。しかしそれらには、何も飾られていない。これにはきちんと意図がある。
「ルシッサが来たら、説明するわ」
◇◇◇◇◇◇
一時間目の授業開始の鐘が鳴る。それと同時にルシッサがサロンにやって来た。堂々と授業をサボる私たちであった。一年生からこの調子で大丈夫だろうか。と思ったが楽しいことはしたもん勝ちだ。
ルシッサがソファーに座ると、ゼルダが先程のアレについて説明を要求した。
「あの華入れにね、私達の魔法で作った華を飾りたいの」
普通に買ってもよかったのだが、魔法で作った華は、最低でも一年は美しい姿のまま保たれる。それに私達専用の空間なら、私達の華でここを飾りたかったのが一番の理由。
「いいね、それ」
ルシッサは早速両手を目の前に出した。そして目を閉じる。すると腕からスルッと、鈴蘭が生えた。それを刃物で刈り取る。ルシッサはその鈴蘭をローテーブルに置き、また鈴蘭を生やす。
とても地味な作業。しかしこれが、この世界で言われる魔法だ。本当に地味。
因みに魔法は作る華は、大きく、形美しきものが作れるほど優秀と言われる。大体そのような華を子供のうちから作れるのは、クリサンセマムの私達だけだろう。
ルシッサに続いて華を作るゼルダ。その腕から出来た薔薇は大きく、目が覚めるような赤。もちろんルシッサの鈴蘭も大きく美しい。
私はというと、まぁ子供にしてはいいんじゃない?程度の百合の華。うん、二人と並ぶと恥ずかしい。
私たちは何度もこの地味な作業を繰り返し、一時間目終了の鐘が鳴る頃にサロンを華いっぱいにした。頑張った。本当頑張った。結構体力いるのよね、これ。
私達は疲れ果て、次の授業はサロンで寝てしまった。こういうところ、やっぱりまだ子供なんだよね。
◇◇◇◇◇◇
三時間目の授業からはきちんと受けた。馬鹿にはなりたくないからな。
しかし、このサロンがあんな事になるなんて、今の私は思いもしなかった。
「攻略キャラ」
名前・ゼルダ・ローズ
性別・男
階級・クリサンセマム
趣味・お菓子作り
ゲームでは、俺に近づくなオーラ全開な俺様キャラだったが、リアルそんなことはなかった。リリィはこれからそうなるのかな?と思っているが、どうなんだろう。
サロンを作ろうと提案したのは、実は趣味で作ったお菓子を食べてもらいたかったとか。