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第4章 アザミ色の美形と美少年のダブルパンチ

 私と美少年に向かって飛んできたのは、痛いほどに強い光だった。眩しさに顔を腕で覆うが、時すでに遅し。ダイレクトに光を受けた視界は真っ暗になり、なにも映さなくなった。美少年のハニーブロンドも、オレンジの明かりも、なにもかもが。

 そんな中、近くでなにかが動く音がして、体に緊張が走った。見えない、正体を掴めない。そのことが、私の胸の内に恐怖として渦巻いた。

「こんなところにいたのか、レオー」

 響いたのは、やけに感情のない固い声。

ゆっくりとこちらに近づいてくる音が、ふと私の少し手前で止まった。

「ズィゴス兄!」

 ・・・ず、ずい?

 聞きなれなさすぎて、一度では聞き取れなかった、舌を噛みそうな言葉。それは、どうやらこの部屋に新たに現れた人物を指す言葉のようだ。

「ここには入るなと何度も言っているだろう。(パレルソン・)産物(ペリウスィア)世界(プロエレスフィ・)遺産(クリロノミア)はまだお前のものではないのだから」

「ケチ! 別に悪いことしようと思って入ったんじゃないもんっ」

 思わず「子どもかっ」と言いそうになる返しをする美少年。その頃になって、私の視界はやっとクリアーになってきて、数度のまばたきの末、そろそろと腕を下した。

 そして、ほんの数メートル先に立っていた美形の男性を視界におさめて、飛び上がった。

 そこにいたのは、私よりほんの少し身長の高い、細見の男性だった。まっすぐクセのない髪は、銀のように滑らかな光りを放つ紫がかったアザミ色で、腰まで長さがある傷んだ様子は一切見られない美髪だ。

 服装は、なんだかよく分からない長ったらしい布を巻いている。

 そして、やや細く切れ長の目は、アメジストをはめ込んだかのようで、その宝石が私とかち合った。

「・・・レオー、この方は?」

「え? 分かんない」

 訝しげに発せられた声は、美少年の無邪気な声で跳ねのけられてしまった。しかし、そんなことはこの美形は気にしないらしい。軽く息を吐くと――私は諦めの溜息だと解釈した――こちらに向かって口を開いた。

「そなた、名前は?」

「わ、私は、天音 静」

「アマネ? シズ?」

 美少年と美形にはさまれるというまさかまさかの状況に脳の情報処理が追いついてこない。そしてまた、私を混乱させる分子が増えた。

「アマネ? アマネっていうの?」

 無邪気の塊のような笑顔を向けてくる美少年が、私の腕に飛びつき、エメラルドを好奇心いっぱいに光らせて覗き込んできたからだ。

その近さたるや、私の二の腕に顎を乗せていて、呼気すら感じ取れる距離だった。

「あ、天音は天音だけど、それは名字であって・・・」

 まさかそんな興味を示されるとは思いもせず、そしていくら少年とは言え、頭に“美”のつく男性がこんな近距離にいるという経験が私にはなくて、しどろもどろな回答になってしまった。

「じゃあ、シズ? シズって呼んでいい?」

 これまた無邪気全開の笑顔で尋ねられ、「ええい、どうにでもなれ!」と首を縦に振った。

 そんな私と美少年のやり取りを、美形さんはじっと見ていたらしい。さらに「ねぇねぇ、シズは身長すっごく高いよね。どうしたらそんな高くなれる? 僕にも教えて!」と聞いてくる美少年の脇の下に手を入れると、そのまま宙ぶらりんと掬い上げた。一見して細見と思っていたが、それなりの筋肉は持ち合わせていたようだ。

「レオー、私の話を聞いていましたか?」

「え、なんだっけ?」

 こてんと小首を傾げる美少年に、またも軽く息を吐く美形さん。心なしか眉間にシワが出来ているようにも見えた。

「ここは立ち入り厳禁の禁断(タブ・)書斎(ヴィヴリオスィキ)。レオーにはまだそれを受け入れられる器はありません」

「だからー、悪いことするために入ったんじゃないもん。それなら問題ないってルピオスが言ってたよ?」

「あの人はまた、勝手な自論を・・・。とにかく、出ますよ」

 美少年を持ち上げるその姿は、まるで悪戯をした飼い犬かなにかを叱るときの姿のようだった。自然と笑みがこぼれるようなあたたかな光景。だが、くるりと踵を返した美形さんに、慌てて私もその背中を追いかけた。

そして、改めて今自分がいる状況に驚かされた。

てっきり隣りの会社かなにかの倉庫に運ばれていたと思っていた私だが、明らかにそうではなかった。というより、この部屋の高さ・規模が私の仕事場であるビルのフロアを優に超えていたからだ。

(これ、私の部署何個分の広さよ?)

 薄暗い中、ぼんやりと見える輪郭と触れる手の感触だけで歩いていたから気づかなかったが、どうやらあの美形さんがこの部屋に入った瞬間に電気が点いたらしい。部屋の隅々まで明るく照らされている。らしいというのは、つまり、電灯・電球なるものが一切見受けられないからだ。なんと不思議極まりない光景だろう。

そして、この広い部屋に所狭しと並べられた棚、棚、棚。それはすべて一見するに本棚であったことも、私に衝撃を与えた。

あの、触れたら冷たい金属の感覚だったものも、すべてが本の背表紙で。明るくなったこの状況で見てみると、そのどれもが私では読めない異国の言葉で書き記されていた。といっても、英語でもドイツ語でも、たまにテレビでお見かけする外国語講座なんかで紹介されているロシア語、アラビア語などとも違う。もちろん、日本語とも。

(一体、ここはどこなんだろう)

「ズィゴス兄ー、離してよーっ」「レオー、静かになさい」そんな会話を聞きながら、今さらになって気が付いた。

 私は、もしやとんでもない場所にいるのではないか、と。

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