其ノ四 ~琴音ノ悲哀~
琴音、何があっても……泣いてはいけないよ。
おばあちゃんはいつも、私にそう言い聞かせた。その度に、私は決まって「はい、おばあちゃん」と応じた。
どうしてそう命じるのか、私はとても気になっていた。だけど、理由を尋ねてもおばあちゃんは教えてくれなかった。だからいつしか、私はおばあちゃんの言い付けに返事をするだけで、理由を問うのをやめていた。
とても小さい頃、両親を一度に失った私にとって、おばあちゃんはただ一人の家族だった。だから私はおばあちゃんの言葉を守って、どんな事があっても泣かないように努めて来た。それが、私に出来る唯一の恩返しのように思えたから。
けれど、私が泣かなかったのは、必然的な事だったのかも知れない。
あの日の事は、よく覚えている。とても小さかった頃の事だけど、鮮明に。
まだおばあちゃんに引き取られる前の頃――冷たくなったお父さんとお母さんを見た時、私は沢山泣いた。
周りの人の目なんて気にせず、ずっとずっと……何分も、何時間も泣き続けていたのかもしれない。
涙声で、お父さんとお母さんを呼んだけれど、二人共もう私の声に返事をしてくれなかった。返事をする所か、私の顔を見てくれることすら無かった。
大好きなお父さんも、お母さんも、もう居なくなってしまった――そう実感した時は本当に悲しくて、辛くて、胸が張り裂けそうな気持ちになった。
私の涙はきっと、あの時枯れ果ててしまったんだ。一生分の涙を、私は流し切ってしまったんだ。
だから、もう私は泣く事は無い。流す涙が無いのだから、泣く事は出来ない――そう思っていた。
だけど、その考えは間違いだった。
両親の死から何年も経った頃に、あんな形で私は再び涙を流す事になるなんて――思ってもいなかった。