アイスが好き
友達からのリクエストを重ね合わせて書きました。
低クオリティーですが暖かく読んで下さい。
アイスが好き。そういうと、誰からも共感される。
つまり、好きなものという観点では無難な選択だという事だ。
『他人に合わせて、自分の考えなんて持たなければいい』
それが私の見出した世界の真理だった。
自分の欲求を通そうとすると、何かしらのリスクを伴う。
例えば、他の人間と口論になるとか
時間が掛かるとか
お金が掛かるとか
それなら、欲求など最初から持たず、周りに流されていればいい。
幼いながらも小学生だった私はそう思った。
少し成長して、大人に媚びると言う技術を覚えた。
媚びると言ってもそんなあからさまではない。
嫌われない程度にそこそこ媚びるのだ。
あまり大人ばかりに媚びていると今度は周りから反感をかう。
それは、いただけない。
高校生になって、人との付き合い方を少しだけ学んだ。
笑顔で流すという技術を習得した。
でも、習得すると同時に、大きなリスクも犯した。
「それって違うんじゃない?」
その時隣の席だった男子。私のことになどまったく興味はないと思っていたのに。
「何のこと?」
「周りに合わせてればいいって言う考え方だよ。それじゃあ、君は何が楽しみで人生を生きているんだい?」
急に問われて考えた。人生においての楽しみ? そんなこと今まで考えたこともなかった。
「美味しいもの食べる」
「それ自体欲求じゃないか」
「綺麗な景色を見る」
「君は、それが欲求じゃないというのかい?」
言う事全てに的確に返されていらっとする。
「じゃあ、彼方は何が楽しみだというの?」
「僕? 僕は生きる上で何でも楽しみだよ。もしかしたら、明日、いや、今日の放課後でもいい。何か起きるかもしれないだろう?」
それから、私の人生は変わった。
平和に無難に、何事もなく平凡に暮らせればそれでよかったのに……
どういうわけかその日から、事故にあったり、上から物を落とされたり、下駄箱に靴がなかったり……
いい事なんて一つもなかった。
「ただいま」
災難な学校を終えて家に帰る。
中から知った声が聞こえた。
「どうするのよ! これから……あなたが会社を首になるなんて―――」
「俺にだって分からないんだ! いったい何が起こったのか……」
どうやら私の災難は、学校だけではなく家にも及んでいるようだった。
「やあ、これでやっと君は僕のものだね」
元から両親の事なんて信用してはいなかったけど、まさかここまでするなんて思っていなかった。
お金がないからって娘を売るなんて―――
「隣の席の―――」
「一目見たときから気になってたんだ。可愛い顔してるよね」
「変態」
「いやいや、今の状況分かってる? 君」
「私を買ったのって彼方だったの?」
私が言うと彼はにやりと笑った。
「北条薫、好きな食べ物はアイス、好きな色は水色、血液型A型、誕生日は7月7日、星座はかに座」
「やっぱり、変態ね」
冷えた眼差しを送ると、彼は顔を真っ赤にして……
「やっぱり、分かってないみたいだね。君は僕に買われたんだよ? つまり、君をどうしようと僕の自由って事」
「監禁なんて立派な犯罪じゃない!」
「監禁―――そうだね。間違ってはいないかな……でも、これは正式な取引だったんだ。僕がお金を渡して、君の両親はその見返りとして、君を渡した。つまり、君は商品ってわけだね」
「私は物じゃないわ!」
「―――人間って言うのはね、お金のためなら大抵の事はなんだってやるんだよ」
「私は―――これからどうなるの?」
「そうだな……取り敢えず、僕の玩具になってもらおうかな」
「分かった。それでいいのね」
「そうそう……って、承諾しちゃうの?」
「今更つべこべ言っても仕方なし……夢があったわけでもないから、別にいいよ」
「いいね、そういうの嫌いじゃないよ」
彼の笑みに、少しだけ胸が跳ねたのは―――きっと私の気のせい。