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七夕一人企画

星に願いを・2009

作者: 檀敬

 『空想科学祭FINAL』に合わせて、【七夕一人企画】の過去作品を一挙に公開!

 こちらの作品は『星に願いを・2009』で、二〇〇九年七月七日に公開したものです。

 年に一度だけ逢えるという、織姫と彦星。


 地上が雨でも、大気圏外では晴れている。もっとも空気自体もないから、雨とか雪は関係ないが。

 僕は今、大気圏外の地上四百キロメートルのステーションにいる。閉鎖空間で孤独なミッションと向き合っている。

「業務」と言うほどの仕事ではない。地上と月とのあらゆる通信のリレーション業務だ。大昔の「電話交換士」のように話すことはない。中継した通信をモニタリングして、そのデータを抽出する機械を監視するだけだ。

 仕事の内容は単純である。すべてのことは機械がやってくれるのだから。ただ、不測の事態に備えているだけだ。だが、正直に言わせてもらえば、時々退屈してしまうのも確かだった。


 しかし、今日は違っていた。

 時々モニターに意味不明な通信が割り込み、そのためにエラーが発生しているのだ。地上の基地やムーンベースに問い合わせるのだが、どちらもエラーや通信障害は発生していないと言う。エラーデータを送って確認してもらうのだが、確かにエラーであることは確認されたが通信路ログとの照合では確認できないと言う。また、エラーメッセージをマニュアルで問い合わてみるのだが、該当項目が見当たらないのだ。

 地上本部基地では、この事態を重く見て、僕の通信ルートはサブルートに変更された。もう一度、地上と月とのデモデータで検証された。だが、デモデータのため情報量が少ないせいか、全くエラーは検出されなかった。

 本部基地は、ハードの物理的故障と判断して、サブルートから予備回線扱いになった。間もなく静止軌道上からリペアラーが下りてきて、機械交換となる予定だ。

 全く通信をリレーしなくなったリレー衛星。

「これじゃ、只の馬鹿でかいデブリだな」

 僕はリペアに備えて、リレーションデータ装置の電源をオフにした。そして、リペアラー受け入れのための準備に入った。エアロックの起動と再点検、誘導装置のシーケンスチェックと、マニュアル通りに進めるには7時間はたっぷり掛かる。一つ一つこなしていくだけだ。

 リペアラー受け入れ準備を始めて三十分経ったところで、地上本部基地から連絡が入ったのだ。

「どうかしたのか? 回線が途切れているぞ」

 僕にとっては、寝耳に水の話だった。僕は経緯をもう一度、地上本部基地に報告した。

「そんな報告は入っていな……」

 突然、地上本部基地の連絡が途絶えた。それと同時に、リレーション装置の電源が入った。

 リレーション装置の電源は自動では入らないはずだ。専用電源で太陽電池パネルから供給されていて、それは手動で二系統のスイッチを操作しなければならない。

 つい一時間前に、僕はその電源を落としたはずだ。しかもスイッチには安全確認装置が付いていて、ロックピンを差し込んだはずなのだ。

「や……と、おめ……かかるこ……ができ……」

 僕はたじろいだ。

 リレーション装置から音声が出てきたのだ。リレーション装置はデジタル処理専用のはずだ。それがアナログな音声を再生するなんて考えられないのだ。そして、リレーション装置のモニタには人影がかすかに浮き出ていた。いつもならモニタリング情報の文字しか表示しないモニタに。

 僕は完全にビビっていた。

「あなたにお逢いしたかったのです」

 完全にハッキリと音声が再生された。美しい女性の声だった。それも飛びっきりウットリするような。

 そしてモニタにも美しい女性の姿が映し出されていた。長い髪を後でまとめて、どう見ても古代の服を着ている。だが、その表情はアルカイックスマイルを湛えて、僕をジッと凝視していた。

 僕はその視線に絶えられず、つい逸らしてしまった。

 リレーション装置は完全に改ざんされてしまったようだ。プログラム的に書き換えられた可能性が高い。

 しばらくすると、接近警戒アラームが鳴り響いた。

「警告、警告。接近する物体を確認。警告、警告」

 僕は反射的に、レーダーと船外ムービーを操作した。レーダーには、丸い物体が映し出されていた。かなり大きな物体だ。まるで百人乗りのスペースシップ・クラスだ。

 レーダー解析では、僕の乗っている衛星の軌道及び速度にシンクロをしているようで、ほぼ完了しているようだった。船外ムービーには、シルバーに輝く楕円球にしか映っていなかった。

 銀色に輝く楕円球は、だんだんと近づいているようだった。

「もうすぐ、もうすぐ、逢えます」

 モニタに映る女性にリップシンクして、音声が聞こえてきた。

『ガコーン』

 大きな振動と船体を伝わってきた音が鈍く大きく響いた。エアロックに銀色の楕円球が接舷したようだ。

 僕は息を呑んだ。そして、恐る恐るエアロックの方向へと進んだ。

 エアロックは既に完全に開いていた。 気圧調整とドアシンクロなどで、普通なら三分は掛かるのに。

 そこには古代の服を着た、髪の長い美しい女性が立っていた。

「あなた」

 リレーション装置から流れた女性の声と全く同じ声だった。

 そして女性は僕に駆け寄ってきて、僕に抱き付いてきた。

 その瞬間、僕は…。


「リレー衛星『七-七』はドップラー検知領域を出ました」

「消息不明のタグを設置して、追跡を終了します」

 地上の管制センターのオペレータは静かに報告した。

「どうしてこんなことになったのだろう」

 管制センターの指揮官は腕を組んで考え込んだ。

「ワッチの異常行動かと思ったのだが……」

「その後に軌道を逸脱したが、そんな能力は衛星自体にはない」

「そして、異常加速での太陽系からの離脱」

「6時間でドップラー検知領域を逸脱してしまうとは」

「一体、どんな加速が加わったというのだ!」

 地球では永遠に分からない謎となった。


 だが、ORIだけは知っていた。

 これでHIKOを永遠に自分のものにしたことを。

 最後までお読みいただき、ありがとうございます。

 よろしければ、感想などをお寄せいただけたなら幸いです。


 初出:ライブドアブログ『憂鬱』「星に願いを・2009」二〇〇九年七月七日

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