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きっと、それは  作者: 篠宮 楓
第5章 手を伸ばして、君が求めたものは。
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「桐原主任、お気を確かに」

「……巻き込んだお前が、何を言う」

へらり、と笑ったら頭を掴まれて追いやられた。



既に奢りが確定し、見た事もないくらい機嫌のいい桜と皆川さんに反比例して、ドアに近い場所で黙々とノートパソコンに向かう桐原主任は、眉間に皺を寄せたまま。

総務課に手伝いをさせている手前、急ぎの仕事だけなんとか片付けてやってきた(お詫びのペットボトル持参)桐原主任は、いきなりの奢れ命令に戸惑いつつ、しかし目の前の皆川さんの勢いに諦めたらしい。


さすが、皆川さんのご性格を把握していらっしゃる!

言い出したら、押し通す!

嫣然とした笑みと威圧感ばしばしで!

皆川おねーさま! て言う感じです!

桐原主任が言い返す事も出来ずに、無言で頷く姿を初めて見たよ!



皆川さんは既に目をつけているお店があるらしく、今は工藤主任に都合のいい日をメールで問い合わせ中らしい。


―― 一気に奢らせてあげれば、散財も一度で済むでしょう? 私ってなんて優しいのかしら


と、上から目線で桐原主任を見据えていたその姿は、“おねーさま”から“女王様!”に格上げされた瞬間だった。

ていうか、何回もに分けるのも辛いけど、一気にお金が出て行くのも辛くないですか……?

言わないけどね☆



しかも現金なもので、奢りでカニを食べられるという欲求を満たす確約をされた今は、仕事が進む進む。

桜でさえ、凄く楽しそうにノートパソコンのキーボードを叩いている。

……写真とりたいくらい(笑




桐原主任には悪いけど、なんだか楽しい状況に押さえきれずに口端が上がってしまう。

あ、でも桐原主任と一緒だから、会社からは離れたお店がいいなぁ。

なんて、のほのほとむふむふと脳内妄想で楽しんでいたら。



「お前は……」


ぼそっと呟いた桐原主任の声に、私は封筒に書類を入れていた手を止めて顔を上げた。

話しかけてきた割に、桐原主任はノートパソコンの液晶を見たままなんですけど。

「はい?」

とりあえず先を促そうと問い返すように声を上げると、少し気遣わしげな桐原主任が顔を上げた。

「お前は、それでいいのか?」

「は?」


あの、桐原主任。

あなたには珍しく、会話の内容が分かりません。

主語をお願いします。


……まぁ、そんな事は言えないので。


「……何がです?」

無難な言葉を返してみました。



桐原主任は、いや……だから、と口ごもる。

「その……、食べ放題を奢るだけで、いいのか?」

奢るだけ?

「……あぁ」

なるほど。お詫びがそれでいいのかと。



私はやっと納得がいって、いいんですよと笑みを浮かべた。

「だって、あのままだったら私が奢らなきゃならなかったんですから。ありがとうございます、お財布様」

しかもホントはお詫びで奢るとかそういうのうやむやにしようと思ってたから、肩代わりさせちゃって反対にスミマセンって感じ。

だって。

新人の給料に、食べ放題三人分はキビシイのです。



桐原主任は目元を緩めて、お前がいいならいいんだけど……と、呆れたように肩を竦めた。

「抹殺対象の次は、財布呼ばわりかよ」

「いいじゃないですか、役職持ち。私より給料高いですよね、役職持ち」

「今度は役職持ちかよ。名前で呼べ、名前で」

「名前?」

桐原主任なら、呼んでるよ? いつもは。

「桐原主任?」

試しに呼んでみると、じゃなくて、と突っ込まれる。

はて、んじゃあなんて呼べと? 桐原って呼び捨て? と、つい首を傾げたら、後ろから皆川さんの声が上がった。

「ちょっと、そこの振られ男。人前でいい雰囲気作ろうとしてんじゃないわよ、悟」

「お前に呼び捨てされる覚えはねぇよ」

「何、敗者復活狙ってんのよ。悟」

「うっせーな」


「へ、敗者復活って?」

よく分からない言葉が出てきて、思わず問い返すように繰り返した。

すると皆川さんに視線をそらされてしまったので、仕方なく桐原主任を見る。

「な……ん、だよ」

視線に気付いたのか少しうろたえた様に視線を彷徨わせながらも、桐原主任は私を伺うように目を合わせた。

その表情を見て、あぁ!、と手を叩く。


「皆川さんっ」


くるりと振り向くと、ニヤニヤ笑う皆川さんと目が合う。

「なるほど。桐原主任てば、まだ私に対して罪悪感満載な訳なんですね!」

「……は?」

ニヤニヤの顔が、一気に怪訝そうなものに変わりましたが、何か?


「可愛いですねぇ、こんな顔してまだ気にしてるなんて!」


ぐふふと笑うと、皆川さんの怪訝そうな顔が一気に笑いに転じた。


「そうね! そうそう、桐原ってば可愛いんだからぁぁ」

「ですよね~! 大体、大丈夫ですよ、桐原主任」

驚いたように目を見張る桐原主任に、思いっきり笑いかける。

「抹殺対象者になら、すぐに返り咲けますから!」

他に、その称号を贈りたい人はいない!

そう言って笑うと、桐原主任は机に一気に突っ伏した。


「抹殺対象者ーっ!」


もうすでに、”あはは”から”ぎゃはは”に笑い声が変わっている皆川さん。

うん、大人な女性の大笑いってなかなか見れないかも。


そんなことを考えながら首を傾げる私と、今の此の状況を呆れた様な顔で無視する桜と。

微かに聞こえた、桐原主任の溜息になんだか温度差を感じました。



――はて?


桐原、まだちょっと頑張ってる(笑

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