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きっと、それは  作者: 篠宮 楓
第4章 女心/子供心/男心/大人心
94/153

34

沢渡VSは掘り下げようと思いましたが、止めました。

うん、これ以上翔太のイメージが崩れることは止めておこう。

確実、保身です(笑


「うー、作りすぎたかな?」

自宅アパートに戻った由比は、いそいそと夕飯の用意を始め数時間。

ホームパーティーかよっ、と、どこぞのお笑いの人につっこまれそうな位の料理を作り上げた。

自分でも作りすぎって思うってことは、あの二人はもっと分かるよね。

豪華になりすぎた夕食を前に、思わず由比は苦笑した。


それはもう、絶対的にお詫びを兼ねているからの行動。

翔太にも圭介さんにも、迷惑を沢山掛けてしまったから。

特に翔太には、嫌な思いまでさせてしまった。

アパートに戻った時に送った帰ったよメールには、いつもどおりの返信がきたけれど。

圭介さんからも、普通に返ってきたけれど。

それでもなんとなく落ち着かなかった由比は、ホワイトボードに書いてあった夕食のリクエストを片っ端から作ってしまったのだ。



「これ、食べきれるかなぁ」

もし自分が食べるなら、二日は掛かるな。

しかも三食連続で。


ふむ、と腕を前で組む。

その時、隣の部屋のドアが閉まる音が聞こえた。

……翔太だよね、多分。

テーブルに置いてある時計は、七時前を指している。

さすがに、圭介さんはまだ戻らないだろう。



由比は視線を戻すと、もう一度作り上げたおかずを見て息を吐き出した。

「作ったもんは仕方ない。まぁ、明日の分として引き取ってもらえば捨てる事もあるまい……」

まるで職人のような口調になりつつ、隣にいるだろう翔太に向けて壁を叩いた。

“ととととん”

すると少し時間を置いて、

“ととととん”

と、叩き返してきた。


「よし。じゃ、戸締り戸締り」

その音を聞いて、戸締りを始める。

今のは「ご飯出来たよ、もってってー」の、合図。

あとは、“とんとん”で、「今から行くよ」とか。

いちいち顔出したり、メールしたりが面倒でそんなことになった。


汁物のお皿にラップを掛けながら、ふと、昼間に会った女の子を思い出す。

あんた、翔太くんのなんなのさ!

ていう感じで見られたけど、本当に隣人なんだけどなー。

あ、”仲のいい”を加えてくれると、私は嬉しいけどね。



その時玄関から、翔太の元気な声が聞こえてきた。

「由比、上がるよ」

「ん、どーぞ」

頭の中からとりあえず疑問を追い出して、笑顔で翔太を迎える。

廊下から姿を現わした翔太は、着替えて来たらしくジーンズとTシャツのラフな格好。

少し表情が暗いのは、学祭で疲れたんだろうか。

翔太はいつもよりゆっくりと台所に入ってくると、テーブルの上にある数々のおかずに目を見張った。

「凄い、どしたのこれ」


あー、やっぱりおかしく思うよねー。

私は頬を指先で掻きながら、えーと、と呟いた。


「学祭の打ち上げ? 的な?」

「なぜに疑問系」

苦笑いに表情を変えて、翔太がくすりと笑った。

「なんか後ろめたい感情が見え隠れ」

「……」


う……ばれてるしー、ていうかばれるよね。

うん、ここは素直が一番だ!


私は翔太の目を見て、がばっと頭を下げた。

「ごめんなさい! 今日は、本当に迷惑掛けました!」

もう、ホント色々と色々と!

いや、迷惑掛けられたところもあったけど、でもやっぱり私の方がかけた比重が大きい気がするし。

「……まぁ、焦ったけどな」

ぽつり、と翔太が呟いた。

頭を下げたままの私には表情は見えないけれど、それでもなんだか寂しそうに聞こえてくる。

視界に見える翔太の足をじっと見ながら、翔太の言葉を待つ。

「戻ってきて、由比がいなかった時、どーしようかと思った」

「ごめんっ」

「散々探してやっと圭介から連絡来て。服持って来いって言うから最悪な想像して。案の定準備室にいた由比は圭介のYシャツ姿で。……目の前が真っ暗になった」


うーあー、それは自分のせいじゃないけど、そうだよね。そう思うよね?

「ホントにごめん」

「しかも、溝口にまで見つかって……。どんだけ心配したか、分かってる?」

「うん、ごめん」

「服、取り上げられたんだろ?」

「うん、ほんとーにごめ……え?」

勢いで頷いてから、翔太の言葉にピタリと動きを止めた。


……背中が、うっすら寒い気がするのはなぜだろう?


「受付のとこにいた女に、制服、着替えさせられたんだろ?」

「う……え?」

人までばれてんですけど!

ちょっ、なんでっ!?

これは、誤魔化すべき? とぼけるべき? どーするべき?!


脳内ぐるぐるの状態でじっと固まっていたら、テーブルの向こうにいた翔太がいつの間にか目の前に立っていた。

足の指先が、ゆっくりと視界に入る。


「又、俺に嘘つく気?」



心臓が、跳ねた。


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