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今回短いです。
きりがよかったので^^;
翔太の足取りは、軽かった。
心は重くても、動きは軽かった。
由比を、貶めただろう犯人をこんなに早く見つけられた事。
それは、翔太の心を軽くもし重くもする。
俺の大切な人を、くだらない理由で騙したこと。
それを隠して、自分に近づいてくるその傲慢さ。
どう追い詰めてやろうかと、冷静な部分が思考を早める。
けれど、その反面――
やはり、というか。
既に気づいていた事だったし、端から信じていなかったけれど。
由比が嘘をついていたことに、感情が冷えていく。
由比は、嘘をつける人間じゃない。
……由比は、“自分自身を守る為に”嘘をつける人間じゃない。
きっと、俺を守る為。
俺のことを考えて、嘘をついた。
そう信じられる程、翔太は由比を自分のテリトリーに入れていた。
仮にその考えが間違いでも、由比を責めることが考え付かないくらい。
それほど、翔太は由比から与えられていた。
“温もり”を。
近しい人から与えられる、“安心感”を。
圭介からしか感じる事が出来なかった……、否、圭介以外を受け入れようとしなかった翔太が、自ら求めて手を伸ばすくらい。
故に、それに気付く。
由比にとって翔太が、守るべきものなのだという事を。
弟、子供……
要するに肩を並べて同じ立ち位置にいるのではなく、保護する立場で翔太を見ている事を。
それは、……翔太にとって圭介と同じ存在だという事を――
どんなに好きだと伝えても、額面どおりに受け取ってくれない由比。
それは、翔太という存在を保護すべき子供だと思っているから。
「分かってるよ」
思わず、自分の考えに声を上げる。
「理解、してるよ」
最初から、そうだった。
男として見られていなかった。
それが新鮮で、嬉しくて。
見てくれで傍によって来る人が多かったから。
この顔の男じゃなくて、翔太という一人の人間を見てくれた事が嬉しくて。
由比に惹かれた。
だから自分に対して特別な感情を、由比に持って欲しかった。
自分を特別にして欲しい人には、そう見られない事に自嘲しながら。
ゆっくりと足を進める翔太の目の前に、何の変哲もない安普請なドア。
陸上部と書いてあるその部室には、主である部員達ではなく沢渡がいる。
唐沢に責められた沢渡が、どんな状況になっているのか想像はつく。
今までもてはやされて来た沢渡に、それを受け止められるだけの精神力が存在しているのか疑わしい。
けれど。
手を伸ばして、ドアノブに触れる。
放心していようが、罪悪感に打ちひしがれていようが。
「俺には関係ない」
手に力をこめて、ゆっくりとドアを開ける。
視界に入る、へたり込んでいる沢渡の後ろ姿。
同情も、何もわかない。
どこまでも冷えている自分の感情に、翔太自身、苦笑する。
……俺には関係ない。
沢渡が、今、どんな状況だろうと。
ねぇ……?
「沢渡さん」
自分でも聞いた事のない低く地を這うような声に、翔太は思わず目を細めた。