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きっと、それは  作者: 篠宮 楓
第4章 女心/子供心/男心/大人心
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31

今回短いです。

きりがよかったので^^;


翔太の足取りは、軽かった。

心は重くても、動きは軽かった。

由比を、貶めただろう犯人をこんなに早く見つけられた事。

それは、翔太の心を軽くもし重くもする。


俺の大切な人を、くだらない理由で騙したこと。

それを隠して、自分に近づいてくるその傲慢さ。

どう追い詰めてやろうかと、冷静な部分が思考を早める。



けれど、その反面――



やはり、というか。

既に気づいていた事だったし、端から信じていなかったけれど。



由比が嘘をついていたことに、感情が冷えていく。


由比は、嘘をつける人間じゃない。

……由比は、“自分自身を守る為に”嘘をつける人間じゃない。


きっと、俺を守る為。

俺のことを考えて、嘘をついた。



そう信じられる程、翔太は由比を自分のテリトリーに入れていた。

仮にその考えが間違いでも、由比を責めることが考え付かないくらい。

それほど、翔太は由比から与えられていた。


“温もり”を。

近しい人から与えられる、“安心感”を。


圭介からしか感じる事が出来なかった……、否、圭介以外を受け入れようとしなかった翔太が、自ら求めて手を伸ばすくらい。



故に、それに気付く。



由比にとって翔太が、守るべきものなのだという事を。

弟、子供……

要するに肩を並べて同じ立ち位置にいるのではなく、保護する立場で翔太を見ている事を。


それは、……翔太にとって圭介と同じ存在だという事を――



どんなに好きだと伝えても、額面どおりに受け取ってくれない由比。

それは、翔太という存在を保護すべき子供だと思っているから。


「分かってるよ」


思わず、自分の考えに声を上げる。


「理解、してるよ」


最初から、そうだった。

男として見られていなかった。

それが新鮮で、嬉しくて。

見てくれで傍によって来る人が多かったから。

この顔の男じゃなくて、翔太という一人の人間を見てくれた事が嬉しくて。

由比に惹かれた。

だから自分に対して特別な感情を、由比に持って欲しかった。



自分を特別にして欲しい人には、そう見られない事に自嘲しながら。




ゆっくりと足を進める翔太の目の前に、何の変哲もない安普請なドア。

陸上部と書いてあるその部室には、主である部員達ではなく沢渡がいる。

唐沢に責められた沢渡が、どんな状況になっているのか想像はつく。

今までもてはやされて来た沢渡に、それを受け止められるだけの精神力が存在しているのか疑わしい。



けれど。



手を伸ばして、ドアノブに触れる。



放心していようが、罪悪感に打ちひしがれていようが。



「俺には関係ない」



手に力をこめて、ゆっくりとドアを開ける。

視界に入る、へたり込んでいる沢渡の後ろ姿。


同情も、何もわかない。

どこまでも冷えている自分の感情に、翔太自身、苦笑する。



……俺には関係ない。

沢渡が、今、どんな状況だろうと。


ねぇ……?



「沢渡さん」



自分でも聞いた事のない低く地を這うような声に、翔太は思わず目を細めた。



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