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きっと、それは  作者: 篠宮 楓
第4章 女心/子供心/男心/大人心
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30

眉を顰めて沢渡を見る唐沢の目は、嫌そうに眇められている。


「さっきこの制服を一緒に見たんだから、ホントは気付いてましたよね? なのにそれを隠して行動するって事は、後ろめたい事があるってことですよね!?」



興奮したように責める言葉を投げつけてくる後輩に、沢渡は呆然と立ち尽くした。


……なぜ、私はコノヒトに責められてるの?



唐沢は、圭介や翔太の言うなればファン。

それがミーハー精神で成り立っているとはいえその二人と一緒にいる由比を、快く思わないはず。

だから、もし唐沢にばれても大丈夫だと、そう思ったのに……



「さっき、ゆいを見ました。社会科準備室で、遠野先生と翔太くんとご飯食べてました。凄く二人が大切にしてるのがわかって……」


何? なんなの? 何が言いたいの?


「確かに遠野先生と翔太くんに憧れる気持ちはありますけど、嫌がらせの片棒を担ぐほど嫌な女になりたくないです」

「嫌がらせ……?」

「なんで疑問系? 嫌がらせ以外の何があるんですか? こんな幼稚な嫌がらせ、さっき気がつかなかったなんてホント自分でも信じられない!」

「ちょっ……」

唐沢は興奮しているのか矢継ぎ早に文句が口を出て、沢渡に話させない。

その勢いのまま、叫んだ。


「認めたらどうですか? 人の事巻き込んだのにっ。それとも偶然って言い通す気ですか?!」


嫌がらせ?――


ただ、私は……翔太くんの隣を歩いて欲しくなかっただけ……

だって、私の方が釣り合うでしょ、う?




沢渡は今まで向けられた事のないその怒気を含んだ視線に、思わず困惑したままの笑みを浮かべた。

「そんなこと……」

「ないって言えるんですか? なんかもう、本当に嫌だ。さっきまで翔太くん達のことで盛り上がって楽しんでたのに、なんでこんな事させたんですか?!」

唐沢にしてみれば、ただ紙袋を預かっただけ。

ただ、それを届けるように言われただけ。

その前後については関係ないとはいえ、気分のいいものじゃない。




唐沢は寄りかかっていた机から重心を戻すと、沢渡の前まで歩み寄って足を止めた。

陸上部に所属している彼女は、沢渡よりも背が高い。

沢渡はこの後輩から感じた事のない威圧感を、全身で感じていた。


「私も片棒担いじゃったから、誰にも言いません。ていうか言えません。でも、もうホント話しかけないで下さいっ」


泣きそうな声でそう叫ぶと、唐沢は部室から足早に出て行った。



大きな音を立てて、ドアが閉まる。



沢渡はびくりと肩を震わすと、その場にへたり込んだ。







「あっ」


部室を飛び出した唐沢は、すぐ近くの壁に寄りかかっていた翔太に気付いてその場に立ち竦んだ。

翔太はにっこりと笑うと、指先を振って唐沢を呼び寄せる。

何でここにいるのかとか、もしかして話を聞かれていたのかとか、そんな事が頭を過ぎったけれど、唐沢はぎゅっと手を握り締めて、竦んだ足を懸命に動かして翔太の傍に歩いていった。


悪いことをしてしまったのは、自分なのだから。

知らなかったとはいえ、やっぱり片棒を担いでしまったのは自分なのだから。


そう心の中で繰り返しながら。



そんな唐沢を見遣りながら、翔太は小さな声で一言言い放った。


「大体聞こえた」


唐沢はその言葉で足元から凍りついたように、体が固まった。

けれどそれじゃいけない、と、意を決してがばっと頭を下げる。

「言い訳はしませんっ! 本当に、すみませんでしたっ」

少し大きな声になってしまった唐沢に、翔太は指先を自分の口に当てて声を落とすように伝えた。




それから知っている事を全て話させると、しばらく考え込んだ後翔太は小さく頷いた。


「そっか、うん、分かった」


それは微かに笑んでいて、一言も責められないこの状況に唐沢は罪悪感で一杯になる。

「あのっ、本当にすみませんでしたっ」

再び頭を下げると、くすりと笑い声が聞こえてきて思わず顔を上げた。

「いいよ。何も知らずに手伝わされちゃったんでしょ? さっきそう聞こえたよ」

「……それは、そうですけど」

「言い訳もしないし、潔いし。由比だって怒らないよ、君なら」

そう言われて、社会科準備室で見た由比の姿が思い浮かぶ。

大人しそうだけど、楽しそうな人だった。

呼び捨てにした私達を責めた翔太くん達から、庇ってくれた。

つい興奮が先立って、言いたいことだけ言って出てきてしまったことを思い出す。



「あの、」


話は終わったとばかりに歩き出そうとした翔太に、唐沢が慌てて声を掛ける。

何? とでも言うように、翔太が振り返った。


「あの、さっき庇ってくれてありがとうって、ゆいちゃんに伝えてください」


さっき? と首を傾げてから思い当たったらしく小さく頷くと、ぶふっと噴出した。

「え、あの?」

笑う様な場面じゃなかったはず。


呆気に取られた唐沢に、翔太は口元を掌で押さえながらうんうんと頷く。



翔太としては、年下にまでちゃん付けされているのが面白かっただけなのだが。


「分かった、伝えておく。じゃ、もう気にしなくていいから、学祭楽しんでね」

人好きする笑顔を向けて、翔太はひらひらと手を振った。

唐沢は元気よく返事をすると、もう一度頭を下げて校舎のほうへと駆けていった。






その後姿を見ながら、翔太は視線を部室棟に戻す。

まだ、沢渡は出てきていない。


盗み聞きした二人の話、詳しく聞いた唐沢の話。

分からない部分は想像するしかないけれど。


ただ――


ただ、これだけは分かった。




由比が嘘をついた事。


そして……





犯人が、沢渡、だということ――




さくさくと、沢渡の回を過ぎ去ろうと、懸命な篠宮です(笑

だってもー、書いててイライラとムカムカと。

書いてる本人なのに(笑


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