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そこはいつも行くスーパーよりも大きく、色々なものが揃っていた。
自分ちの買い物もしたくなったけど、さすがにそれはまずいかと諦めて。
カートを押しながら適当なお菓子や飲み物、軽食の類をカゴに入れて歩いていた時。
ふと気になる事を思い出して、隣を歩く圭介さんを見上げた。
「そういえば溝口先生が私に興味を持ってたって言ってたけど、どうして?」
私にとっては、初めて会った人なんですが。
圭介さんは二リットルジュースのペットボトルを片手で掴み上げると、ゴトンとカゴに入れる。
「弁当を、羨ましがられていたんですよ。弁当の彼女、噂の彼女って……、あ」
そこで何かに気がついたのか、ぽんっと手を叩いた。
「何で由比さんの事で生徒達が騒ぐのか、やっと分かった。そういえば、さっきの生徒達も噂の彼女っていってたなぁ……」
納得するように頷く圭介さんを、不思議そうに見つめる。
するとその視線に気がついたのか、もう一本ペットボトルをカゴに入れた圭介さんがカートを押して歩き出した。
「私と翔太が弁当を持ってくるようになったから、誰が作ったんだって噂になってたんだろうね。名前がばれてるのは、よく分からないけど」
そういえば圭介さんが所属している準備室でご飯食べてた時に乱入してきた子達、そんな事言ってたような。
噂の彼女だぁぁって。
「じゃあ、今回の騒動の原因は、私にあるって事だね」
「え?」
会計を済ませて袋詰めしながら、私は溜息をつく。
押し付けがましいかなとか思ったけど、そういう方面で迷惑掛けると思わなかった。
「私がお弁当を押し付けたから、そんな噂が流れたってことでしょ? 後先考えないことしちゃったんだねぇ。……うーん、来週からは止めた方がいいかな」
「関係ないよ、別に」
詰め終えた袋を持って、圭介さんが歩き出す。
慌ててその後ろを追いかけながら、車へと向かった。
「関係なくないよ、圭介さん。それに、圭介さんにとってはあまりよくないんじゃ……」
お弁当を作る噂の彼女が私だとばれて、私が高校生だと勘違いされているこの現状。
高校の教師である圭介さんの立場的に、まずいんじゃ……。
重い袋を軽々と片手に持って鍵を取り出した圭介さんは、私を助手席に促しながらドアを開けた。
「実際は高校生じゃないし、そんなプライベートまで口は出さないよ。さすがに学校もね」
荷物を後部座席に積むと、運転席に腰を下ろす。
「私は由比さんのお弁当を楽しみにしてるんだけど、これからもお願いしては駄目かな」
その姿はさっきと打って変わって、肩を落として私を伺う雰囲気で。
「怖い思いもさせてしまったし、無理強いはできないけど……」
怖い思い? って、あぁ……。
言われてやっと思い出すくらいのこと。
大体、怖い思いをしたわけじゃない。
熟睡してただけだもんねぇ。
私は両手を目の前で振ってそれを否定すると、頷いてシートベルトを締めた。
「圭介さんや翔太が喜んでくれるなら、食べてもらえると私も嬉しい。でも、迷惑に感じたらちゃんと言ってね?」
さ、駅までお願いします~と笑うと、しゅんとしていた圭介さんが穏やかに笑う。
「駅からは、気をつけて帰るんだよ」
過保護な言葉に苦笑を浮かべると、エンジンの掛かった車が動き出す。
ゆっくりと車線変更をしながら、そう言えば、と思いついたように圭介さんが呟いた。
「できれば夕飯を食べたいんだけど、残しておいて貰っていいかな? 二人は先に食べてていいからね。帰り、遅くなるだろうから」
後片付けは後日学生がやるとしても、見回りや確認もしなければならない、その後打ち上げもあると思えば帰りは遅くなるかもしれない。
そう続ける圭介さんに分かったと頷いて、思わず浮かんだ思考にくすりと噴出す。
それを聞いていたのか、何? と不思議そうに声を掛けられた。
「ん? だって今の会話って、まるで夫婦みたいなんだもん。私と翔太って、父親の帰りを待つ嫁と子供みたい」
先に食べててとか、その理由とか。
そう聞こえない? と笑って圭介さんを見ると、……なぜか顔が赤かったです。
……笑いたければ笑えばいいのに。
どーせ、私から翔太みたいに可愛い子供が生まれるわけないもんね!
そうむくれると、そーじゃなくてと溜息をつかれました。
なんだろう。
今日、一番のお疲れ顔を見ました。
翔太の扱い方がよくわかんないと思ってたけど、圭介さんの扱い方もよく分からないと首を傾げた私なのでした。