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きっと、それは  作者: 篠宮 楓
第2章 びっくりの法則
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リアル腹黒って。

初めて見た。






私の勤める会社は、雑貨の卸会社。

今は直接メーカーと取引している小売が多いけれど、古参のうちは信頼と正確さと細かい対応で安定した売上を保っている……入社時の社長談



三階建て+倉庫を有するうちの会社の一階、自動ドアをくぐって一番奥。

事務課がドアを並べてまして。

私の所属している総務課はこれまた、一番奥。

ドアを入って左端、そこに私のデスクがある。


いつもの朝のはずなのに。

溜息しか出ないのは、これいかに。


「なぁに? 朝っぱらからその辛気臭い顔。もう昼よ? あんたの大好きなご飯の時間なのよ?」

何度目かの溜息のあと、隣に座っている同僚があえて溜息に被せるように嫌~な声を上げた。

「……」

動かしていたボールペンを止めて視線だけ横に向けると、そこには綺麗な顔がしかめっ面になって向けられていた。

「その顔でこっち見ないでよね、なんか悪いものが移りそう」

「ちょっと桜、その言い方は酷くない?」

「事実を言ったまで」

――冷たい


「都築さん、上条さん。先にお昼は入ってもらえる? 私、カウンターにいるから」

「はい」

カウンターに座ろうとしている主任からの声に、二人揃って返事を返す。

総務は問い合わせやお客様の対応もするから、誰かが必ずいなきゃいけない。

私と桜はまだ入社したばかりだから、任されることはないけれど。


桜と連れ立って屋上に出る。

ぽかぽかな陽射しの中お弁当を広げると、昨日あったことを掻い摘んで話した。



「あら、羨ましい。いいじゃな~い。格好いい年上男性と、可愛い年下の子。ていっても、高三は子供とはいえないわね」

「え、そう? 子供でしょ、まだ」

高校生だし、十八歳だし。あ、まだ翔太は十七歳か。

桜は少し呆れたように、私の頭を撫でた。

その態度に首を傾げると、もっと呆れたように溜息をつかれた。

――なにさ……

「あのねぇ、由比。十八歳っていったら、ほとんど大人よ? 少し頭が子供の、体は大人なんだからちゃんと気をつけなさいね」

「それ圭介さんにも言われたけど、一応、私も気をつけてはいるし。部屋には上げなかったよ?」

胸を反らして得意げに言ったら、はいはい、とあしらわれる。

「玄関の中に入れて、ドアを閉めてる時点でアウト」

「はぁ? 隣に圭介さんいるのに? 何もないよ、いくらなんでも」

けらけら笑う私の頭を、桜に思いっきり叩かれました。

「なんか、そのケイスケサンとやらの気持ちが、凄く分かった気がするわ」


片手を気だるそうに振ると、桜は片付けたお弁当箱を持って戻っていってしまいました。

先行くわよ、と一言残して。



それを見送ってから、後ろのフェンスに背をもたせ掛けた。

視線を上げると、綺麗な青空。

所々に浮いている雲が……

「おいしそう……」

呟いてから、違う違うと自分で突っ込む。



「まぁ……、確かに」

からかわれただけとはいえ、あれはちょっとびっくりしたかな。

スーパーで首もとの匂いを嗅がれた時と、アパートの玄関で肩を引き寄せられた時。

いくら可愛い顔だからっていっても、私より背も高いし力も強いんだろう。

――でも、ねぇ……


シチューとサンドウィッチを頬張っている姿が、ふと脳裏に浮かぶ。


あれ見せられたら、子供としか思えないでしょ。

思わず口元がにやけてしまう。

ずっと一人暮らしだから、自分のご飯を喜んで食べてくれるのが凄く嬉しかった。

いつもは圭介さんがご飯作ってるのかな。

多めに作って持っていったら、喜んでくれるかしら。

でも……、押し付けがましいかな。


「――何、にやけてんの? 上条」

「へ?」


掛けられた声に目を開けると、目の前に突っ立って私を見下ろすでかい影。

無表情に思いっきり怪訝そうな色を浮かべたその人は。


「桐原、主任」


隣の課の、主任サマでございました。





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