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きっと、それは  作者: 篠宮 楓
第4章 女心/子供心/男心/大人心
78/153

18

やっと最後で翔太登場

「じゃぁ聞くけど。今回は運よく私が見つけたからいいけど、そうじゃなかったら? 他の教師だったら、とりあえず職員室まで連れて行かれるよ? その間、確実にその格好のままで」

「それは……」

「それに見つけたのが、部外者だったら?」

私の声を遮るように、圭介さんは言葉を重ねる。

「熟睡していた由比さんに、何が起こるか想像できない?」

言い切ったような圭介さんの表情に、目を伏せる。


圭介さんの言いたいことは分かる。

分かるけど……。


「でも……、ほら。無事に圭介さんに発見されたわけだし。終わりよければ全てよしっていうでしょ? それに、もし部外者の人が見つけてくれたとしても、その人がどうにかしてくれたかもしれないし」

ね? と、なんとか雰囲気を変えようと笑いかけてみるけれど、それは無謀だという事を知る。


……あれ? 怒らせた?


なんだか、物凄い無表情……。

呆れでも怒りでもない無表情な顔で、私を見下ろす圭介さん。

思わず見上げていたら、それまで前で組んでいたはずの両腕が、私の顔の横を通って壁についた。

隅に追いやられているだけでも威圧感半端ないのに、両腕を置かれてしまうと余計に怖いんですが。

圭介さんの行動の意味が分らず、ただあまりの近さにじりじりと身体を反転させて壁と向き合った。

真っ白い壁が目の前に見えて、思わずほっとしてしまう。

無表情と合いあまって、冷気が漂ってきそうです。

「近い」

非難を含んだ声で言うと、それには何も答えない。

それどころか上体を屈めたようで、傍に感じる体温でゆっくりと顔が下がってくるのを感じて思わず壁に縋りついた。

……無防備だー、無警戒だーだのと周りから言われている私ですが。(本人としては反論あり)

この体勢は、さすがに恥ずかしいです。

そして、怖いです。


「部外者が……」

「……っ」


思ったより耳の近くで聞こえたその声に、びくりと肩が震えてしまった。


「男、だったら?」


どくりと、鼓動が大きく聞こえる。

顔に、血が集まっていくのが自分で分かる。


「あ、の。圭介……さん?」

「俺は嫌だ。こんな姿を誰かに見られるなんて、冗談じゃない」


横に置かれていた手が肩に触れて驚いた私が反対にずれると、当たり前だけどもう片方の圭介さんの腕に当たって。

そのまま肩を掴まれて、身体を反転させられた。

目の前には、圭介さんの身体。


その近さに、目の前から感じる体温とその匂いに。

状況を忘れて、感情が波立つ。


怖い。……怖い、ん、だけど。

そうじゃなくて……

固まったように動かない体とは対照的に、思考はぐるぐると駆け回っている。


「由比さん」

「……っ。は……」


呼ばれた名前に、喉から搾り出すように返事をする。


すると、ふ……と、圭介さんの雰囲気が変わった。

ゆっくりと離される、身体。

それでもおさまらない鼓動に、思わずYシャツの上からぎゅっと胸を押さえる。

頭の上で小さく息を吐き出す音が聞こえたけれど、それでさえ身体を震わせてしまいそうでぎゅっと手に力を入れた。

「由比さん」

一歩後ろに下がった圭介さんが、手を伸ばしてきた。

反射的に肩を震わせてしまった私の頭を、ゆっくりと撫でる。


「まぁ、皆が皆、馬鹿な思考を持ってるわけでもないから、助けてくれる部外者もいるかもしれないね。でも、身を守るためには、そういう状況を作らないのも大切なことだよ? 分った?」


いつもの圭介さんの優しい声に、強張っていた身体から少しずつ力が抜けていく。

「分った、けど。うん、気をつけるけど……。圭介さん、怖い」

はは、と軽く聞こえる笑い声に思わず睨みつけたら、ぽんぽんと頭を軽く叩いてその手を下ろした。

「怖がらせようとしたわけだから、そう思ってくれないと我慢したかいがない」

「我慢?」

「こっちのこと。さてと、本当に翔太に言わないつもり?」


さっきまでが何だったんだろうというくらいあっさりと切り替わった態度に、戸惑いながら壁に背をつけて口を開いた。

波立つ感情を自分の身体を自分で抱きしめるように両手に力を入れて、それを押さえつける。

「……はっきり言えば、後味悪いなって」

後味? と、不思議そうな声で聞き返してくる圭介さんに、小さく頷く。


「自分のせいで、翔太が怒るとか誰かが悲しむとか。だから、私のせいにしてでもいいから翔太を上手く誤魔化せないかなって思ったんだけど」

おさまってきた鼓動を感じながら、圭介さんに聞こえないようにゆっくりと息を吐き出した。

「由比さん……、お人よしも度が過ぎると身を滅ぼすよ?」

だいぶ落ち着いてきた私は呆れ返ったその声に頭をかきながら、まぁ彼女のことよりも、と笑う。

「私は翔太よりだから、何よりも翔太が悲しむのを見たくないって思うし」

「そう思ってくれるのは嬉しいけど……」

やっぱり頷いてくれない圭介さんに焦れて、縋るように圭介さんを見上げる。

早くしないと、翔太が来ちゃう。


「ね? お願い、圭介さん」

「……」


……あれ? なぜそこで、口を噤む。


目を見開いて私を見たかと思うと、圭介さんはそっぽを向いて息を吐き出した。

そして何かに気付くと、手をドアに伸ばす。


「圭介さん?」

「ん? 大丈夫」

大丈夫って、何が?


なんだろうと耳を澄ますと、すぐにその理由に気付いた。

物凄い勢いの足音が、近づいてくる。


「圭介っ」


ドアをけたたましく叩く音と共に聞こえた、翔太のその声は。

完全に息の上がった状態で。

圭介さんがドアに伸ばしていた手で、鍵を開けた。

その途端――


「由比!」


乱暴に開け放たれたドアが物凄い音を上げ、その横にいた私は驚いて小さく声を上げる。

すぐ視界に入ったのは、投げ出される白い紙袋。

思わずそれを目で追いかけていたら、両肩を思い切り掴まれてがくがくと揺さぶられた。

「何された?! 怪我は?!」

そこまで言った翔太がぴたりと止まり、何か信じられないものをみるように私を見つめた。

「……翔太?」

翔太は私の声に何も答えず、ゆっくりと圭介さんに視線を移して再び戻ってくる。

その顔は、真っ青で。

けど、すぐに真っ赤に変わっていく。


……器用とか、言ってる場合じゃないよね。これ。

お、怒ってるのかな?

怒ってるんだよね?

とりあえず、謝らないとまずいかな。

連絡無しで、いなくなったわけだから。



「え、と……翔太」


すると、私の言葉を遮るようにがばっと翔太が頭を下げた。


「ごめん、ごめん!」


「……は?」


何が? と、謝まられた意味が分らず、間抜けな声で聞き返した。


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