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きっと、それは  作者: 篠宮 楓
第4章 女心/子供心/男心/大人心
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12

かなり必死な顔をしているのだろう。



廊下ですれ違う奴らが、怪訝そうな表情で俺を見ているけれど気にしていられない。

一階から順繰りに教室を覗く。

何事も無いように学祭を楽しむ生徒の姿。

――由比の姿はない。

「……由比」

思わず口に出た言葉に、ドクリと鼓動が大きくなる。




――翔太、すぐに帰るから……




大きくなる鼓動と同じ様にずきずきと頭が痛む。



……大丈夫


由比は……、由比は「  」じゃない



強く頭を振って、目の前のドアに手を掛けた。





「きゃっ」

「っ!」

自分のクラスのドアを開けた翔太の前に沢渡が丁度立っていて、ぶち当たりそうになって足を止めた。

「翔太くん、どうしたの?」

少し驚いた表情を浮かべた沢渡が、前からどいて翔太を見上げる。

内心舌打ちをしながら、いつもの顔を作り上げた。

「……僕と一緒にいた女の人、知らない?」

一瞬にして“自分”を作れる自分に、ある意味恐ろしくなる。



沢渡は少し首を傾げてから、困ったように眉尻を下げた。

「私は見てないけど……。いなくなっちゃったの?」

心底心配そうなその表情に、思わず目を細める。


俺と、似てる沢渡。

自分を演じられる……


「本当に、見てない?」

もう一度確かめるように問うと、うん、と頷いてまっすぐに見返された。

上目遣いの大きな瞳が、じっと翔太を見つめる。

「ねぇ、翔太くん。僕、なの?」

「え?」

よく分らない問いに反射的に聞き返した翔太に、沢渡は口を開いた。

「一緒にいた女の人には、俺って言ってたでしょう? なんで今は僕なの?」

くだらない問いに、苛立ちが募る。

そんな事、今聞いてる暇ないんだけど。

苛立ち紛れに息を吐き出すと、じっと沢渡を見下ろした。

「そんな事、沢渡さんに関係ない」

言った途端、沢渡の顔が歪んで頬が赤くなるのが見えたけれど、そこで会話を打ち切った。

踵を返して、廊下を駆け出す。



沢渡じゃないなら、誰が?

それとも、俺が心配しすぎなのか?


走りながら携帯を取り出してみても、由比からの着信は無く。

焦る気持ちを抑えながら、翔太は校舎内で由比を探していた。






――その頃、探されている由比は……



案の定戻ってこない女の子を半ば諦めつつ待ちながら、図書準備室の窓際にある椅子に腰掛けて、ぼーっと校庭を見つめていた。

そこに翔太の姿はない。

着替えている最中に、私を探しに校舎内に入ってしまったのだろうか。

心配してるだろうなぁ。

そう思いながら、自分の服装に目を落とした。

「でもねぇ……。さすがに、これじゃぁねぇ」


マイクロミニのスカート、元々自分が着ていたタンクトップ。

羽織っているのは、夏用の薄手のストールで。

うん、若い子なら外歩けるかもしれない。もう七月だしね。

でも……

「さすがに、私には無理だから」

はぁ、と溜息をついて窓枠に頬杖をついた。



翔太に連絡したいけど、それもできないし。

携帯とお財布を入れたミニバッグを、さっきのお菓子積み上げのとこで、紙袋に入れちゃったのよね。

しかもそれを翔太に渡したままだから、今頃は圭介さんの車の中かしら。

翔太がそれに気付いてくれればいいけど、気付かないまま携帯に電話してたらしゃれにならないよねぇ。

あーあ、怒られちゃうかなぁ。

とりあえず身動き取れないから、探してもらえるのを待つしかないよね。

一番怖いのは見回りに来るかもしれない、先生。

でもさっきの話だと圭介さんが午後は回るらしいから、一緒にいる先生にばれないように気付いてもらうしかない。



もう一度溜息をつくと、私は窓から空を見上げた。

そこには、七月のすっきりとした青空が広がっている。



「きれーだなー」



翔太がどんな状況か分らない私は、のんきに空を見上げていた。


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