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きっと、それは  作者: 篠宮 楓
第4章 女心/子供心/男心/大人心
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11

「……あれ?」


駐車場から駆け足で戻ってきた翔太が目にしたのは、誰もいないベンチ。

思わずその場に立って、辺りを見渡す。

トイレ?

首を傾げながら、ベンチに腰を掛けた。

どこにも行くなって言ったのに。

背もたれに体重を掛けながら、目を瞑る。

走った事で上がった呼吸を整えるように、大きく息を吐き出した。


脳裏に浮かぶ、由比の制服姿に思わずにやけそうになって片手で口元を覆う。




やばいなー、こんなに楽しいと思わなかった。


ある意味、ちょっとしたお遊びのつもりだった。

由比に来て欲しいと思った時、一番の心配事は学祭後に何かあったら困るというもので。

圭介はいわずもがな、圭介の弟としての自分とも仲がいいと知れた時、由比に文句をつける人間が出たら面倒だとそう思って。

変装でもさせるかなーと、でもどーやって言いくるめるかなーと考えていた時。

上手い具合に自分のクラスの出し物が、衣装貸し出しという、なんともやる気のあるのかないのかわからないものに決まった。

まぁ既製服以外にも作るとか言い出したから、結構大変な準備だったけれど。

その中で、たった一着、うちの学校の制服をクラスの人間同伴を条件で貸し出すことになった。



目をつけたのは、言うまでもない。



自分より、年上の由比。

絶対にありえないシチュエーションに惹かれたのが、理由の大半を占めるのは……否めない。

うん、ごめん。

制服の由比と学校を歩いてみたかった、かなり邪な理由。

でも、それによって普段スーツを着て会社に行っている由比に学校の奴らが会ったとしても、イコールにならないだろうと踏んだのだ。

現に、いつも結わえている長い髪を垂らして眼鏡を掛けた由比は、童顔もあいあまってどこから見ても高校生に変身した。

ある意味、クラスの奴らより幼く見えた。



あの姿を見たとき、自分の目論見が上手くいった事に内心ガッツポーズ状態だった。

圭介も由比を見て驚いていたけれど、かなり喜んだと見た。


うーん、コスプレってある意味男のロマンだよなー。

あ、お前だけだとか突っ込まないでくれよな。

圭介も、生徒と先生状態体験できて喜んだはず。

さすが、俺!



……邪な理由だらけだな、こりゃ。




思い浮かべる内容に苦笑しながら、腕時計に目を落とした。

デジタルの数字が表示するその時刻に、思わず眉を顰めた。

「……どこ行ったんだろ」

自分が戻ってきてから五分は経っている。

辺りを見ても、由比の姿は見えない。

翔太は首をかしげながら、ズボンのポケットから携帯を取り出すと着信を確認した。

そこに、由比からのものはメールも含めて無い。


……トイレにしては、遅いよな



なんとなくよぎった不安に、思わず立ち上がる。

まさかと、思うけど。

なんかされてたり……とか、しないよな?

由比の番号を出して発信ボタンを押してみる。

耳に当てた携帯からは、無機質な電子音のみが響いていて。

コール音が鳴っても、全く出る気配が無い。


「……え、ちょっと待て」


浮かれていた気持ちが、すぅっと足元へと引いていく。

貧血のような状態で、ふらつきそうになる身体をベンチの背もたれを掴んで何とか支えた。

どくどくと耳障りなほど、自分の鼓動が頭に響く。


……まさか?


脳裏に浮かんだその単語が、思考を侵食していく。




――翔太




微かに聞こえた記憶に染み付く声に、思いきり目を瞑った。



……まさか……





思い出したくない記憶が、微かに浮かび上がってそれを頭を振る事でかき消す。

「とりあえず……探さないと……」

言葉に出して冷静になろうとしたけれど、余計不安を掻き立てられててしまい舌打ちをしながら駆け出した。




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