10
彼女に連れて行かれたのは、なんだか見覚えのある場所だった。
一番最初に来た、図書準備室。
「……うん、ここに来るなら圭介さんの方に行っても変わらなかった気がする」
ぼそぼそと溜息を吐くように呟くと、ドアの鍵を開けていた彼女が視線だけこっちに向ける。
「なにか?」
その声は、特に感情の入らないもので、私はそれに頭を振った。
「ううん、なんでもない。で、それに着替えればいいんですね?」
ドアを開けて、私を中に促す彼女が持っていた紙袋に視線を向ける。
彼女はその紙袋をドア横に置くと、私に空の紙袋を差し出した。
「はい。代わりの服はここに置いておきますので、制服を脱いだらこっちの空の紙袋に入れてください」
「んじゃ着替えるから……」
「お願いします。本当に時間が無いんで、制服脱いだら先にそちらを渡していただけますか?」
不自然な態度に、眉を顰める。
けれど彼女はひるむことなく、ただ顔だけは申し訳なさそうな表情を浮かべていた。
そんなに焦らなきゃいけない……?
まぁ、一着しかないって言ってたからなぁ。
なんとなく首を傾げながら、ベストを脱ぐ。
そんな私を見張るように見つめている彼女の視線に、思わず苦笑したくなる。
「そんなに見てなくても、すぐに着替えますよ」
そう言うと、少し頬を赤くして顔を背ける。
そこでドアを閉めていない事に気がついて、慌てて後ろ手で閉めた。
「すっ、すみません。ホント、その……焦ってて」
恥ずかしそうにうろたえるその姿に、少し前まで感じていた不信感がほんのちょっと薄れる。
うーん、思ってたのと違うのかな。
「うん、すぐだから。待ってて」
まぁ、相手は女の子だし。
そう思いながらブラウスを脱いで、手を出してきた彼女に渡す。
「ぬくいけど、ごめんなさいね」
脱いだばかりだからね、ごめんね」
「いえ、こちらこそ焦らせてしまって……」
彼女はブラウスを畳んで、ベストと一緒に紙袋に入れる。
そして持ってきた代わりの服の中から、ミニスカートを出してきた。
「先にこれ、どうぞ」
……差し出されたそれに、目が丸くなる。
「……これ?」
ミニっていうか……マイクロミニっていうか……。
ある意味、制服着るより恥ずかしいよ、これ。
手にとってマジマジと見ていたら、がばっと頭を下げられた。
「すみませんっ、慌てて持ってきてしまって! あの、すぐに代わりのものを持ってきますから!」
そう言われてもな……と思いつつ、とりあえず何も無いよりはいいか。
制服の下からそれを履いて、スカートを脱いで畳む。
「これでいいです?」
それを差し出すと、彼女は嬉しそうな表情でもう一度頭を下げた。
「本当に、ご迷惑掛けてすみません! すぐに戻ってきますので、このままここで待っていてください!」
そう叫ぶように言うと、スカートを紙袋に入れてドアを開ける。
なんか、動きが凄く素早くなったような?
「なるべく早くお願いしまーす」
「……」
閉める寸前、彼女が口端を上げていたのは気のせいだろうか。
彼女の雰囲気が、変わっていたように見えるのは気のせいだろうか。
ガチャリ
……気のせいじゃなかったようだ。
「なぜ、鍵を閉めるのかな?」
思わず呟いた言葉に、帰ってくる声はなく。
恥ずかしそうに頬を染めて私に謝っていた女の子の姿を思い浮かべる。
こんなことするようには見えなかったけど、勘は外れなかったなぁ。
「まぁ、嫉妬、なんだろうけどね」
翔太とクラスに受付に行った時、凄い目で見てたもんね。
私のこと。
なんとなく予想がついていた展開に、ドアの内鍵に手を伸ばす。
それは学校でよく見る極普通の鍵で、押し下げれば開く。
ガチャンガチャンと試しに開け閉めをしてみて、それは確認できた。
「……? 詰めが甘いというかなんというか……」
内側から開けられるなら、別に鍵を閉めていかなくても……
そう首を傾げながら、代わりの服が入っている紙袋を手にとって覗き込む。
「……」
一度視線を反らして、再度覗き込む。
うん、詰め、甘くないね。
下着が見えてしまいそうなほど短い、マイクロミニを穿いている私が紙袋から引き出したのは。
向こうが透けて見えるくらい薄いストールだった。