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きっと、それは  作者: 篠宮 楓
第4章 女心/子供心/男心/大人心
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「ちょっ、翔太! これ! これ取りたいっ」

ちょっと持ってて、と、手にしていた紙袋をそばにいる翔太に押し付ける。

勢いのままそれを受け取ってしまった翔太は、呆れたような声を上げた。

「またぁ? ねぇ、いい加減にしないと帰る時大変になるよ、これ」

「その時は、こっそり圭介さんの車に積んでおく!」

「誰が」

「翔太が!」

はぁ、と盛大な溜息が聞こえてくるけれど、無視無視!

「ついでにこれも、そこんなか入れといて」

持っていたミニバッグを、翔太の持つ紙袋に突っ込む。

お財布と携帯しか入っていないけど、邪魔なのよね!



紙袋を脇に抱えて肩を竦める翔太を尻目に、私はしゃがみこんで係りの学生さんに百円玉を渡した。

「一回、よろしく!」

「はいっ……て……っ!」

他のお客さんとしゃべっていた学生さんは百円を受け取りながらも、視線は私の後ろ。

確実に見られている翔太は、そんな視線どこ吹く風で私の横にしゃがむ。

私達の目の前には、お菓子の掴み取り。

好きなものを積み上げて、それを崩さずに持ち上げてザルに乗せられたらOKらしい。

「翔太もやろうよ。童顔でも、私より手はでかい」

私の言葉にむっとしたのか、口を尖らせて紙袋を床に置く。

「童顔関係ないし。まー仕方ない。じゃ、俺も」

途中から受付の学生さんに言葉を向けたらしく、呻き声のような返答に苦笑しつつ翔太は百円を手渡した。


長袖シャツの袖を捲り上げながら、大きな箱に入っているお菓子を二人で物色する。

「いい、翔太。ポテチとベ○ースター、スナック系重要。あとクッキー系ね」

「そのこころは」

「スナック系は食事の材料、クッキー系はお菓子作り」

「メニューとしては」

「……もんじゃに揚げ物、サラダのトッピングetc。お菓子はチーズケーキにティラミス!」

「まかせろ!」

きっと今私達の後ろには、燃え上がる炎が見えるんじゃなかろうか。


箱物を下から積み上げて最後に小袋をのせる。

うーふーふー。見ていなさい、スーパー開催詰め放題常連のこの私の腕を!

さほど手の大きくない私でも、指を上手く使えば結構持てるものなのさ!


指がつりそうな感じで積み上げたお菓子を両手で掴むと、ゆっくりと受付の学生さんの目の前にあるザルに動かしていく。

息が止まりそうな緊張感の元、ゆっくりとそこに置くとザルの中でぐらりと崩れた。

「あっ!」

思わず小さく叫び声をあげてから、若干上目遣いで学生さんを見上げる。

「こっ……ここで崩れてもセーフよね?」

さっきから全く言葉を発さない学生さんを見上げて問うと、弾かれた様に頭をぶんぶんと縦に振った。

「セーフだよ! おねーさん今のとこ、一番!」

「やったねっ」

ざらざらと、ザルの中のお菓子をビニールに入れて差し出してくる。


それを受け取って横にずれると、翔太がこれでもかと言うほど両手を駆使してお菓子を持ち上げていた。

「おぉっ、翔太頑張れ!」

「ちょ、黙ってろって……」

指の隙間から小袋が落ちそうになっているのをはらはらしながら見守っていると、案の定、ザルにたどり着く前に一つ下に落ちた。

「あー、何やってんのかな翔太はー」

ザルに手からお菓子を落とすと、翔太はうるさいなぁと不貞腐れた声を出す。

「こんなに取ったのに文句かよ」

「だって落としたし」

二人でぶーぶー言い合っていたら、ザルの中身をビニール袋に入れていた学生さんが苦笑しながらさっき落ちた小袋をひょいっとビニールに入れてくれた。

「内緒」

指を口に当てながらそれを渡してくれた学生さんに、満面の笑みを向ける。

「ありがとー。やったね、翔太」

「どうも」

ビニール袋を受け取りながらお礼を言う翔太に、学生さんがおずおずと口を開く。



「遠野の、彼女?」



「違うし」



私が即答すると、翔太はビニール袋を紙袋に纏めながら、はぁ……と溜息をついた。

「まぁ、こんな感じ?」

肩を竦める翔太に、なぜか興奮する学生さん。

多分、同じ三年生なのだろう。

きらきらと目を輝かせながら、まじかーとか呟いてる。


「翔太、その曖昧な返答よそうよ。学祭終わったら、微妙な噂が流れるよ」

「微妙な?」


その場を立ち去りながらちらりと教室を見ると、好奇心満載な視線がビシバシと……。

「翔太が絶賛片思い中とかさ。ちゃんと否定しないと、もてなくなっちゃうよ」

さっきから同じ様なことを行く先々で聞かれるんだけれど、やっぱり同じ様な答えを返してるんだもの。

そうこそこそと伝えると、大きな溜息を吐かれた。


「ここまで人の言葉を流せる性格って、どうすれば成立するんだろ」

「はぁ?」



首を傾げつつ廊下を歩きながら、増えた紙袋を前で抱える。

重みでそこが抜けそう。

幸せの重み~、食費が減る重み~。



鼻歌でも歌い出しそうな気分でずれてきた紙袋を持ち直すと、翔太が階段を降りるように促してきた。


「一度圭介の車に置いてこよう。これじゃ、身動きが取れない」

「はは、確かに」

トントンと音を立てながら、階段を降りていく。

「鍵は?」


「スペア持ってるからへーき。ていうか、由比、もう恥ずかしくないんだ。制服」

「自分でごり押しして、いきなり何」

いきなり変わった話題に少し眉を顰めると、その剣呑な雰囲気に翔太が視線を逸らした。

「いやぁ、だってもう、満喫してるみたいだから」


満喫って……


「その、いかにも私が着たくてこの格好してるように言わないでよ。ちょっと変態な道に足を踏み入れた翔太の為に着てるのに」

「変態な道って何それ」

「変態でしょー、充分。社会人にこんなの着せて。でもまぁ、普段髪も下ろさないし眼鏡も掛けない。これなら外で会っても誰にもばれないかなーと思ったら、諦めついた」

制服着るのも久しぶりだしねー、と笑うと、丁度一階について昇降口に向かって歩き出す。

じめりとした暑い空気が、開放されたドアから漂ってきて。

それに顔を顰めながら翔太の後についていくと、視線だけ私に向けた翔太がくすりと笑って口端をあげた。


「充分、楽しんでるじゃん。制服着るの」

「……わけないでしょうが」

まぁ、ちょっと楽しいかもしれないけど……

「ほら、楽しそう」

地面に下げていた視界に、ひょこっと翔太の顔が割り込んでくる。

その顔は、腹黒系の笑顔で。


ふぃっと視線を逸らして、口を開く。

「……どーせ着てるなら、楽しまなきゃ損じゃない」

体勢を戻した翔太は、くすくすと笑いながらついてくる。

「楽しんでるんじゃん、やっぱ」

自分で着せたくせに、何さ、その言い方は。

なんとなく面白くない状況に、目に映ったベンチに直行する。

スタスタと歩調を速めた私を、翔太は余裕の歩幅で追ってきて。


あーっ、なんだかむかつくんですが!



むかむかする感情そのままに、どすりとそのベンチに腰を下ろした。

そのまま、目の前に立つ翔太を見上げる。

「おねーさんはここで待ってるので、翔太くん、いってらっしゃい」

「え?」

驚いたように聞き返されて、私は口端をあげて目を細めた。

「こんな格好させた罰! 荷物置いてきて、私ここにいるから」

「え、いや。それは……」

「なぁに? おねーさんのお願いが聞けないの?」

ごり押しするように強い口調で言うと、翔太はどこがお願いだよ、とぶつぶつ言いながら私の持っている荷物を片手で取り上げた。

「ちゃんとここで待ってろよ? 動くなよ? 眠るなよ? 落ちるなよ?」

「私の保護者ですか」

「すぐ戻るから」

そう言うと、全力疾走で校舎の裏へと走っていった。



うんうん、かわいいねー。




顰めていた表情を戻してほんわかすると、私の目の前に影が差した。

「……?」

翔太の後姿を見ていた私は、顔を正面に向ける。

するとそこには……


茶色い髪をふんわりとさせて、大きな目で私を見つめる美少女。

さっき、翔太のクラスで受付していた女の子が、にっこりと可愛らしい笑みを浮かべて微笑んでいた。

おぉぉ、目の保養がやってきた!


「ゆい、さんですか?」


一瞬苦笑しそうになって、それを押し止める。

もう、名前浸透してるわけですか。


「はい、ゆいですが」


同学年、もしくは年下と思わせねば。

意外と冷静な頭で問いに答えると、彼女は申し訳なさそうな表情で頭を下げてきた。

「あの、翔太くんが借りているそちらの制服なんですが」

……ありがとう! 翔太が借りてるって言ってくれて!!

私が率先して着てるわけじゃないからね?

そこんところ、4649←いつの時代だ(笑

「その……予約が入っていて、もう時間が過ぎてるんです」

「え!」

思わず叫んだ口を、両手で塞ぐ。

その声に少しびくりと肩を震わせた彼女は、両手を前で握り締めながら目を伏せた。

「本当に申し訳ないんですが、戻していただけないでしょうか」

「あ、ホント? じゃぁ荷物取ってくるから、少し待っていてもらえます?」

ベンチを立ち上がった私に、焦ったような声が掛かる。


「あの、本当に急いでいるので、すぐ着替えていただいてもいいですか?」

「え、でも今着替え持って無いし……」


圭介さんのところに行かないと……


すると彼女は足元においてあった紙袋を持ち上げた。

「代わりの服を持ってきてるので。ついてきてください」

そう言うと、紙袋を持って校舎に向かって走り出した。

「えっ、ちょっと待って!」

声を掛けるも、既に走り出した彼女は校舎内に駆け込んでいて。

一瞬だけ翔太の行った方に目を向けて、諦めて走り出す。




彼女の背中を追いかけながら、翔太に怒られそうだなーと内心溜息をついた。




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