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きっと、それは  作者: 篠宮 楓
第4章 女心/子供心/男心/大人心
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うわぁ、可愛い。

顔を上げた女の子のその姿に、思わず瞬きを繰り返す。

ふんわりした茶色の猫っ毛、白い肌、大きな瞳。

嬉しそうに顔を綻ばす彼女は、お人形さんのようで。

今の自分の恥ずかしさを忘れて、少し見惚れてしまった。



「あれ、翔太くん。どこに行ってたの?」


可愛らしく小首をかしげる姿もはまってて、典型的美少女って感じ。

てーのに、翔太は何で赤くもならない。つまんないなぁ。

翔太は作っているほうの笑顔を浮かべて、机のノートに手を伸ばした。

「制服借りたから、名前書かせてくれる?」

「制服?」

不思議そうに呟いた彼女が、ふぃっと私の方に視線を向けた。


「……」


うぉっ、にっ睨まれた感じ……?

嬉しそうに笑っていた表情は変えないまま、その眼だけが私を見据える。

その怒りのような驚愕の様な色は、すぐに抑えられたけれど。

「……友達?」

翔太に視線を戻した彼女は、先ほどまでの笑顔に戻っている。


……ははーん、あれだね。

嫉妬な感じ?

そうか、この子、たぶん翔太のこと好きなんだなー。



翔太はボールペンを手に取ると、借り出しの欄に自分の名前を書き始めた。

「翔太くんじゃなくて、この人の名前を書いてくれないとダメだよ」

その声は、“この人”の部分だけ冷たく聞こえた気がするけれど。

うんうん、そうだよね。

好きな人が知らない女つれていれば、嫌な気分になるよね。

大丈夫だよ~、私はただの隣人。

翔太はその子の言葉に何の反応も示さず最後まで書き終えると、ペンを置いてもう一人の男の子によろしくと声をかけた。

「翔太くん!?」

咎めるようなその声に、歩き出そうとしていた翔太が振り返る。

「沢渡さんには関係ないよ、僕の名前を書いておけば大丈夫でしょう?」


ばっさりと切ったような言葉に、彼女の表情が固まる。


うわー、美少女は怒っても青くなっても可愛いねぇ。……じゃなくて。

すでに歩き出している翔太の腕を掴む。

「ちょっと翔太、そんな言い方ないでしょ?」

腕を引かれて振り向いた翔太は、いつもの表情に戻っていた。



「由比」



ニヤリじゃなくて、満面の笑みを浮かべる。

あえて言うなら、卵焼き出した時の表情。

いや、例えが食べ物で申し訳ないんだけど。


なんだか翔太の様子がおかしい感じがするけれど、まぁそれは横においといて。

「何、意味深な発言にしてんのよ。普通にりんじ……」

「違うって言ってんのに、ホント由比はちゃんと聞かないんだから」

隣人と言おうとした私の言葉を、翔太が遮った。

「は? 違う?」

意味が分からず聞き返すと、翔太が爆弾を落としやがった。


「普通のじゃなくて、好きな……」


「わぁっはっはっ。さ、行こっか翔太」



今ここでいう言葉じゃないでしょうっ!

隣のおねーさんを好きとか、恋愛感情じゃないそういうものでも、今言われたら絶対誤解される!

可愛い子に、恨まれたくないからねっ。

誤魔化しながら背中を叩いたら、あいてっと笑いながら翔太がドアへと踵を返した。

「受付に来ただけだから。もうここはいいから、他のクラス回ろうよ」

「そんなもの、持ち出すときに名前書いてきてよねっ」

会わなくてもいい人に、この姿を見られたくないわっ。


はいはい、と笑いながら歩く翔太の後ろを追いかける。

その時、微かに聞こえた呟きに振り向いた。

それは受付の女の子の声で。



「ゆ……い?」



私の名前を呼ぶ、声で。

私は思わず首を傾げながら、瞬きを繰り返した。

あまりにも、呆然とした、表情だったから。

大きく見開かれた瞳は、私を映していて。


「行くよ、由比」


足を止めてしまった私の腕を、翔太が掴んで教室から出て行く。

それに引きずられるように歩く私の目に映ったのは、クラス中の生徒がじっと私達を見ている光景だった。


がらり、と音がして目の前がドアで塞がれる。

廊下に出た翔太が、教室のドアを閉めたらしい。

視界がドア塞がれて、一瞬の後。



「きゃぁぁぁぁっ!!」



物凄い叫び声に、私はマンガのようにドアから飛びのいた。

叫び声の元は、ドアの向こう。教室の中で。

その叫び声には、複数の男女の声が混じってて。

私はあまりの驚きに、ドアと翔太を交互に見やった。


「ちょっ、翔太っ? ねぇ、なんか凄いんだけど……何、どうしたの? このクラス」


翔太は、さぁ? とでも言うように笑って肩を竦めると、私の腕を引っ張って歩き出した。

その振動でずれた伊達眼鏡を直しながら、その後ろをついていく。

「なんか誤解されたんじゃないの? やっぱり翔太、もてるのねぇ」

「そんなことないし」

階段まで歩いて私の腕から手を外した翔太は、手すりに手を置いてパンフを差し出してきた。


あ、やっとパンフだ。

ていうか、私に制服着せたくて黙ってたわけね。自分のクラスの出し物。

知能犯め。

絶対、面白がってるなー。


……じゃなくてっ


自分に裏拳しながら顔を上げると、翔太はパンフをこちらに差し出したままにっこりと笑った。


「何見る?」

「いや、何って……」

パンフを受け取りつつ、釈然としないまま眉を顰める。

「わざわざ私連れて、クラスに行かなくてもよかったんじゃ……」


あの受付の女の子、絶対誤解したよー?


そう続けると、翔太は関係ないしと笑う。


「俺の好きな人、見せびらかしに行っただけだから」

「またそう言う事……。泣くよー? 翔太の事、好きな子」

パンフを捲りながら、ふぅっと溜息をついた。


あ、焼きうどんだ。食べたいかも。チョコバナナはベタだね。

既にお昼時と言う事もあって、目に付くのは模擬店ばかりで申し訳ない(笑

じゃなくて。


翔太は手すりに背を預けながら、別に、と目を細める。

「それよりも、由比が本気にしてくれない方に泣きそうだよ」

その姿は拗ねている犬のような、可愛い顔の翔太にはまってて。

あまりの可愛さに、パンフ片手に思いっきり頭を撫でた。

「まーた、翔太ってば可愛いんだからっ! 分かってるって。はいはい、おねーちゃんも翔太が好きだよー」

その可愛い顔は、ホントお得だねっ!


「ほら、本気にしない」




溜息と共に呟く翔太を、もう一度思いっきり頭を撫でてあげた……ら、余計拗ねられた。


思春期の子供の扱い方が、よく分かりません。おばちゃんには。






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