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きっと、それは  作者: 篠宮 楓
第4章 女心/子供心/男心/大人心
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「ほぅ、ついたー」

バス停から歩いて、ほんの少し。

見覚えのある、正門の傍に立った。


翔太と圭介の通う高校に、到着。



翔太たちの高校の学祭は、珍しく七月の初めに開催される。

この後すぐに期末考査なんじゃないかと思いつつ圭介さんに聞いてみたら、案の定、二週間後から突入だそうだ。

翔太たち学生は大変だねって言ったら、生徒の面倒を見ながらテスト問題を作らなきゃいけないのもなかなかのものだよ? と、珍しく言い返されてしまいました。

笑顔だったけど。


――うん、疲れているようです。



結構引くよ。

笑顔だけど、目の下のクマって。

学生の頃は気づかなかったけど、先生って大変なのねぇ。


圭介さんに許可してもらってから、用事のない土日はほとんど、平日は私が帰るのが早ければうちでご飯を食べるようになった。

それによって、変わったこと。

うちのリビングに、ちっちゃいホワイトボードが置かれるようになりました。

予定表です(笑

一緒にご飯を食べられる日に丸を書く。

ついでに、ご飯のリクエストや献立を書き込んだりもする。

ドタキャンになりそうな時は、メール連絡になってます。


楽しそうに書き込む翔太の姿が面白くて笑ったら、リクエストを物凄く書かれてしまったけど。

玉子焼きは外さないらしい(笑

圭介さんも翔太ほど見えないけれど、やっぱり楽しそうで。

なんというか、おままごとみたいだなって思う。

家族ごっこというか。


本当に家族じゃない私を受け入れて、“ごっこ”をしてくれる二人に本当に感謝。



そんなことを考えながらジーンズのポケットから携帯を取り出して、翔太にメールをする。

到着を知らせるメールだったのだけれど、すぐに折り返し電話が来た。

{由比? 今どこら辺?}

「正門前。どこに行けばいい?」

そう。未だに翔太のクラスを、教えてもらえないのだ。

一体、なんなのか。

そこまで隠したいクラスの出し物って、なにさ。


翔太は歩きながら電話をしているのか、微かに足音が聞こえてくる。

{そのまま校舎の中に入って、五階の右端から二つ目の教室に入っててくれない?}

「右端から二つ目の教室?」

なんで……と口にしたときには、すでに電話は切れていた。

……一体なんなんだ。

よく分からないまま、言われた通り正門から一番近い昇降口から校舎内に入る。


十一時をすでに過ぎているからか結構な人出で、校舎内にもパンフレットを持った確実に生徒じゃない人たちが沢山歩いている。

自分の高校の学祭なんて模擬店もないくらい身内だけの催しだったから、賑わっているのが珍しくて面白い。

最近色々なことがあったから、気持ちを高揚させてくれるこの雰囲気がとても心地いい。

そういうのもあって、翔太は呼んでくれたのかな。

腹黒だけど生意気だけど、周りに気を遣っているのは接していてよく分かるから。

気分転換に連れ出してくれた圭介さん、こうやって呼んでくれる翔太。

本当に、いいお隣さんを持ったよ私。


そんなことを考えながら、五階まで上がって右端へと歩く。

特別教室の並んでいる階らしく、ほとんど人がいない。

「被服室って、手芸部とか展示とかやらないのかしらね」

しんと静まり返っている被服室に視線を向けながら、言われた教室の前に立った。

そこは……

「図書準備室……」

一番奥は図書室らしく、やはり人気はない。

え、ここでいいの?

勝手に準備室とか入っていいわけ?

躊躇していたら、突然目の前のドアがガラリと開いて飛び上がる。

「何してるの、由比」

驚きに後ろに飛びのいた私の目に映ったのは、開いたドアからのぞいた……翔太だった。



目を丸くさせている私を面白そうに笑いながら、少し身体をずらして準備室内に私を招き入れる。

「え、入っていいの? 私、部外者なんだけど」

何か催し物をしている教室ならまだしも、確実に使っていないだろう準備室に……。

翔太は大丈夫と繰り返して、ドアを開けたまま中に戻っていく。

残された私は逡巡しつつ、廊下に人影もないからいいかと準備室に入る。

ドアを閉めると、今まで聞こえていた微かな喧騒も耳に届かなくなった。

「迷わずにこれた?」

窓際においてある紙袋をごそごそさせていた翔太は、こちらを見ずに話しかけてくる。

「はは、バス乗ってきた」

「え、バス?」

驚いたような声を上げて、翔太が振り返る。

「うん、だって迷ったら嫌だし」

そういいながら、視線は翔太の手に釘付けになった。


「それにしたって、歩いて五分くらいなのに。どんだけだよ」

そう翔太は笑うけれど、それよりも気になるんですが。その手に持ってるもの。

「翔太。その、手に持ってるものは、何?」

「え?」

私の声に、翔太は自分の手に持つものを胸の辺りに持ち上げた。

一瞥して、もう一度私を見る。

「制服」

端的な言葉に、そんなことは見りゃ分かると裏拳で突っ込んでみる。

そうじゃなくて。

制服は分かってんだけど。

「翔太、それ着るのがクラスの出し物?」

翔太はにっこりと……久しぶりに見る腹黒笑顔で、私の方にその制服を突き出した。



「俺じゃないよ、由比が着るんだよ?」



言葉とともにひらりと広げた制服は、紛れもなく女子高生の制服で。



「……」



――翔太が変態になったぁぁぁぁっ




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