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きっと、それは  作者: 篠宮 楓
第1章 初めましてはベランダ
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「早く、早く」

玄関先で私を急かす声に、つい笑いそうになって口元を引き締める。

こう、なんていうの?

子供がご飯を待ちきれなくて、箸とかでお茶碗叩いている状態?

大きいから余計に面白い。


圭介さんに準備するからと戻ってもらったのは数分前。

十分後に廊下で待ち合わせだと言っているのに、翔太は騒がしい。


「ねー、早くしないと上がるよー」

「ちょっと待ってって」

別に上がってきても構わないけど、圭介さんの手前、女として無自覚と思われても嫌過ぎる。

確かに今日初めて会ったわりには、凄い馴れ馴れしい気はするけれど。

でも、なんだかんだ言ってちゃんと玄関で待っているとことか。

こっちが不快になるようなことはしていないというか。

ある意味、無邪気というか翔太は行動にあまり意味がないんだろうなと思う。


まぁ子供ならではの順応性というか。

馬鹿にされているというか。

確実、女にみられてないからの態度なのだと。

ははは、圭介さん考えすぎ~



――それはそれで、へこむ



内心がっくりきながら、シチューの入った鍋を布で包んで玄関に持っていく。

待っているのに飽きたのか座っていた翔太が、飛び跳ねるように立ち上がった。

「よっしゃ、早く行こう」

鍋に伸ばそうとした翔太の手を、遮るようにぽんっと叩いて止めた。

「あともう少し、我慢」

叩かれた腕を渋々下げながら頬を膨らますこの子を、どう高三だと見ればいいのか。

ホント、唯の子供だよね。

さながら待てをされた、大型犬。



「翔太くんは、ツナとハムとチーズ、どれが好き?」

「え? 全部」

脊髄反射並みに答えた翔太に、腕まくりをしながら「全部か」と笑う。

「圭介さん来るまであと五分。まぁ、間に合うでしょ」

そう言いながら、短い廊下をキッチンに戻った。


テーブルの上には、サンドウィッチ用の食パン。

夕飯でシチューと一緒に食べようと思っていたけれど、まぁいいや。

「由比、何してんの?」

玄関先から翔太が不思議そうな声を上げている。

それはそうだろう、なんと言ってもお腹がすいて人を急かしていたくらいだ。

けれどさっき私に聞かれたのが食べ物に関係している事で、翔太の忍耐力はまだ保たれているようだ。

うるさいけど。


「すぐ作るから」


自分が食べたかったから既に作ってあったツナマヨ(マカロニ入り・私の好物)を、レタスと一緒にマーガリンを塗ったパンに挟む。

ハムとチーズは一緒にパンに挟み、出来たものをパン用の包丁で4/1に切り分ければ終了。

それをペーパーナプキンに包んでラップで包む。

手近にあったマチの広いトートバッグに入れて、準備終了。

バッグにお皿とスプーン、お絞りを入れると翔太の待つ玄関へと向かった。

「お待たせ。さ、行こう」

立ったままこっちの様子を伺っていた翔太は嬉しそうに頷くと、廊下にさっき置いた鍋を手に持つと玄関のドアを開けた。

それに続いて、外に出る。


「すみません、お待たせしてしまって」

既に待っていたのか隣の部屋のドアに寄りかかる圭介さんの姿に、慌てて頭を下げる。

圭介さんは温和そうな顔を少し崩して、私の手からバッグを取ろうと手を伸ばしてきた。

「あ、大丈夫ですよ。持てますから」

そう言って遠慮しようとしたけれど、あっさりとバッグを持っていかれてしまった。

「こちらが無理を言ったんですから、この位させて頂かないと」

なんだか義理堅い人だ。

そして温和そうだけど、多分頑固だ、この人。

さっきから流されているようで、自分の主張だけは曲げないもの。

私は早々に諦めて、頭を下げる。

「じゃあすみませんが、お願いします」

「いえ」

私の言葉を聞くと、満足したように歩き出した。


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