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きっと、それは  作者: 篠宮 楓
第3章 とある攻防 とある策略
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それから一時間、桜が残業して手伝ってくれた事もあって、一人だったら二日は掛かりそうな仕事を何とか片付けて職場を後にした。

これで、明日は倉庫の片付けに手を付けられる。

遅くなればなるほど、嫌味言われるんだろうなぁ。

話したこともないようなおねーさんに。



「じゃ、私今日は用があるから」

そういうと、桜は駅とは反対の方向へと歩いていく。

そう、この後の待ち合わせまで、時間つぶしと称して残業に付き合ってもらっていたのだ。

桜の後姿を見送って、駅へと歩き出す。


さすがに九時近い事もあって、駅へと向かう人は少ない。

必然、ぼうっとしながら歩いていても、人にぶつかる事もなく。

ここ最近の出来事が、脳裏を駆け巡る。



――俺は、お前が好きだ



そう桐原主任から言われたのは、先月の事。

ゴールデンウィーク明けの日だった。

帰り際、駅のロータリーで言われた時、頭が真っ白になった。 

だって、ネズミとか言ってた人から告白とか、ありえないでしょ……?

それを見越したのか、桐原主任から返事はいいと言われて。

そして翔太と話しながら帰った私は、すっかり記憶の奥底に追いやっていたわけで。


翌日から、桐原主任の態度が変わったことに戸惑いを隠せなかった。



「……甘い……甘いんだよ……」


ため息とともに、言い捨てる。


あの翌日の昼から、なぜか私達の傍で食事をするようになった桐原主任。

今までも近くにはいたけど、傍まで寄ってこなかったのに。

しかも、“ねずみ”って呼ばなくなったし。

憎まれ口やぶっきらぼうな口調は変わらなかったけど、その顔が甘いのだ。

言葉の端々が、甘いんだってば!


そのおかげで、入社当初、同僚に受けていた警告が実際のものとなったわけです。

こんなくだらない悪戯をして相手を潰したくなるほど、桐原主任てば人気があったんですねぇ。

びっくりだ。

こっちは、いい迷惑だし。


そう、もっと言えばすでに私は桐原主任に断っている。

付き合うことを。

だって、ありえないし。


そしたら、すんごい目でにらまれました。



――今のは聞かなかったことにする

――は? 何言って……

――すぐに返事をするなと言ったはずだ



えぇ、このように一刀両断されてしまったわけです。


どこの俺様なの……



と言うことで、心身ともにしんどい上条由比 二十二歳 独身……

ふらふらと再び現実逃避したくなってきた頭を支えて、駅の改札前を抜けた。




今日のお迎えは圭介さんのはず。

さっき学校を出るとメールで連絡が来たから、そろそろ駅に着いているところだろう。

翔太は学祭の準備で忙しいらしい。

……学祭かぁ、ずいぶん珍しい時期にやるなぁ

懐かしい記憶を掘り起こそうとした時、目の端に圭介さんの姿が映った。

ロータリーに車を止めて、ドアのところに寄りかかっている。


……う~ん、やっぱり格好いいね。圭介さんてば。

私の高校の時の日本史の先生って白衣着てたけど、圭介さんも着るのかなぁ。

眼鏡、スーツ。

私の好きなものを全部装備している圭介さん、是非、白衣姿も見せてくださいっ。


頭の中をミーハー女子並みにお花畑にしながら、圭介さんの方へと足を向けた時。


「上条」



後ろから響いてきたドスの聞いた声に、私の思考は一時停止した。





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