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きっと、それは  作者: 篠宮 楓
第3章 とある攻防 とある策略
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思わず黒い笑みが浮かぶ溝口の耳に、教官室のドアを叩く音が聞こえてそちらを見る。

「誰だ?」

まさか、また戻ってきたのか? あいつら。

怪訝そうな溝口の声にゆっくりとドアを開けて入ってきたのは、三年二組の委員長、沢渡。


ふんわりした茶色の猫っ毛、白い肌、黒目がちの瞳。

どれをとっても完璧な美少女。

教師を含めて、知らない奴はいないだろう。


「どうした沢渡。こんなところに」


意味もなく、彼女が来る場所じゃない。

沢渡は溝口の傍まで来ると、手に持っていた書類を見せた。

「学祭で暗幕を使いたいんです。体育館の倉庫にある枚数を確認したいので、鍵を貸して頂けますか?」

で、首をことんと横に傾げた。


「……」


こいつ、すげぇかわいいんですけど。

つーか、無意識にやってたらすげぇわ。

反対に、計算だったらもっとすげぇ……



溝口はそんなことを考えながら立ち上がると、壁に作りつけてあるキーボックスを配布されている鍵で開ける。

そこから体育館と倉庫の鍵を取り出すと、沢渡に渡した。


「お前一人で大丈夫か?」

沢渡は幾度か瞬きをしてから、大丈夫です、と笑った。

「お気遣いくださって、ありがとうございます」

その無邪気な笑いに、思わず一緒に微笑んでしまった溝口に罪はない。……はず。




沢渡は受け取った鍵を持って、体育教官室を出た。

そのまま体育館へと足を向ける。

けれど頭の中は、どろどろした感情が渦巻いていた。


さっき体育教官室の中から聞こえた、女生徒の声。



――だって聞いちゃったんですよ。それらしき人の名前



遠野先生の、お弁当を作っている人の、名前。

必然的に、翔太くんのお弁当も作っているだろう人の名前。



やっぱり、女がいた。


私じゃない、誰かがいた。




誰もいない体育館に入ると、倉庫で暗幕を探す。

やる事はやらないと、周りからの自分の評価を下げてしまう。

それは、嫌。


今すぐ女生徒を追いかけたくなる気持ちを抑えて、沢渡は仕事を終えると急いで委員会の会議をする教室に戻った。


既に会議は始まっていて、遅刻した事を詫びながら席に着く。

ニヤニヤと笑う、目の前の女を無視しながら黒板に書かれている連絡事項を走り書きでノートに書き出す。



悔しい……

悔しい……



思い浮かぶのは、その言葉だけ。


相手の女、どんな子なのか……見ないことには気が収まらない。



脳裏に、体育教官室から出てきた女生徒の一人を思い浮かべる。

あれは確か二年の唐沢さん……

去年見に行った、陸上大会に出ていた子。



確認しなきゃ。

相手の、名前を――



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