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きっと、それは  作者: 篠宮 楓
第3章 とある攻防 とある策略
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「相談って言うから何事かと思ったら、そんなことか」

放課後、三人の女生徒を目の前に、溝口は体育教官室の自分の席で思いっきり項垂れた。


部活が休みだって言うのに体育教官室を訪ねてきた女生徒を招き入れたのは、つい先程。

なぜか所属していない生徒も二人くっついてきた事に、溝口は何か深刻な悩みなのかと部屋にいた他の教員に出ていってもらってまで話を聞く体勢を整えたのだ。

なのに。


「遠野先生の彼女の話、何か知りませんか?」


開口一番、口から出たのはこの言葉だった。

脱力するのは、仕方ない事だと思う。な、思うだろ?

心の中で誰に向けるまでもなくぼやいた溝口は、机に頬杖をついて女生徒を見た。

「んなくだらねぇこと探ってないで、学祭か期末の準備でもしたらどうだ」

特にお前、と、所属部の女生徒を見た。

「唐沢、お前日本史苦手じゃなかったっけ? 遠野先生の彼女の心配するくらいなら、担当教科で恥じかかない位の点でも取って喜ばせてみたらどうだ」

唐沢と呼ばれた女生徒は、気まずそうに視線を逸らす。

するとその横に立つ、野田が声を上げた。

「気になって勉強どこじゃないですよ」

ね? と、一番端に立つ、神谷を見た。

それを受けるように頷くと、神谷は俺を見る。


「先生だって、本当は気になってるんじゃないですかぁ?」

小馬鹿にしたようなその表情が、少し癇に障る。

しかし溝口は“俺は大人”と怒りを抑えながら、別に、と呟いた。


まぁ、本当は気になるけれど、と心の中で零す。

あののほほんとした温厚な……といえば聞こえのいい、ぼうっとした圭介が昼に弁当の事で嫌味を口にしたことを思い出す。

あの口から、そんな言葉が出たのを初めて聞いた。

もう何年も、隣に机を並べているのに。

それを言わせるほど弁当を作ってくれる女を大切にしているのかと、信じられない気持ちだった。


苦々しい気持ちでため息をつくと、唐沢が少し声のトーンを落として溝口に近づいた。


「だって聞いちゃったんですよ。それらしき人の名前」

「は? 名前?」


どうこいつらを追っ払おう、と考え始めていた溝口は唐沢の言葉に思わず声を大きくした。

「名前って、彼女の?」

神妙に頷く唐沢を、溝口は見上げる。

「なんでお前がそんな事、知って……」

「昼に学食で、翔太くんと遠野先生が話してるのを聞いちゃったんです」

「へぇ、なんて?」

無意識に、身を乗り出す。

「妹がいたら、シスコンにでもなりそうだな、俺は。って」

……俺? 圭介の一人称、私、しか聞いたことねぇぞ?

「で、名前は?」

唐沢はにやりと笑うと、屈めていた上体をゆっくりと戻した。

溝口はその笑みに、怪訝そうな視線を返す。

「なんだよ」

何か嫌な雰囲気が、ばんばんと漂ってくる。


唐沢はそんな溝口の警戒を裏切らず、目を細めて見下ろしてきた。

「聞いたら、先生も協力してくださいね?」

「は? 協力? なんの」

「遠野先生の彼女を、学祭に連れてくるように仕向ける」

「はぁ? なんで俺がそんな事……」

「だって気になるでしょ?」



……こいつら、会社に入ったら仕事しないで給湯室を根城にしそうだな



溝口はため息をついて、右手を振った。

「別にいいよ、知らなくたって。いい加減お前ら出てけ。もっと深刻な話かと思ったらこんなのかよ。出て行ってもらった先生方に、凄ぇ悪いことした」

「えーっ、先生付き合い悪いっ!」

身体を机に向きなおして、溝口は手元の日誌のページを捲る。


「何でお前らの言う事、聞かなきゃならん。おら、早く出ろ。俺は仕事があるんだ」


それだけ言い切ると、どれだけ三人がわめこうが溝口は相手にしなかった。

しばらく何かぐちぐちと言っていたが、溝口が何も言わない事に諦めたのか三人は部屋から出て行った。


ドアの閉まる音に、溝口はため息をつく。


「気になるっちゃぁ気になるが。あいつらの企みに加担した後の方が、俺は怖い」



広げていた日誌を、音を立てて閉じた。

まぁ、俺は自分の方法で聞き出してみるかねぇ。

あののほほんとした顔の、焦った表情を見てみたいからなぁ。

大体、“俺”って。

圭介の口から、俺なんて聞いた事もないし、似あわねぇな。

つーかやっぱりあの性格は、作ってんのかねぇ。





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