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きっと、それは  作者: 篠宮 楓
第2章 びっくりの法則
23/153

16

連れてこられたのは、会社から少し離れた小さな居酒屋さん。

奥座敷に腰を降ろして、一息つく。

「私、適当に頼むからね」

との言葉通り、皆川さんがいろいろ頼んでくれて遠慮せずに食べる事ができた。

しばらく三人でたわいもない話をしていたけれど、皆川さんがお手洗いに立った後、その時は訪れた。


The 沈黙


しんとした部屋の中は、ものすっごく居づらい。

これを恐れていたわけです。

主任とは怒鳴りあうことばかりで、ほとんど会話らしいものはなく。

この何もない状況で、何を話せばいいかまったく分からないわけです。


視線だけ上げて主任を見ると、何か考え込んでいる様子。

ていうか、今日、すっごく会話少ないよね。

いつもなら人がむかつく言葉をガツガツ言ってくるのに、なんでこんなに神妙なの?


私は聞こえないように息を吐くと、テーブルに手をついて立ち上がった。

「私もお手洗いいってきます」

「んあ、あっ、上条っ」

私の声に驚いたように顔を上げた桐原主任は、いきなり私の腕を掴んで引き止めた。

「わっ」

引っ張られた身体をテーブルに置いた手で支えて、主任を見る。

「?」

引き結ばれた口、じっとこちらを見る視線に、普段じゃない桐原主任を感じて首をかしげた。

「どうしたんですか? 体調悪いとか……」

「いや、そうじゃない」


そうじゃないなら、なんだろう。

とりあえず、腕を離してくれないだろうか。


そんな私の思考もお構いなしに(分からないんだからそうなんだけど)、主任は何かを決意したように口を開いた。


「俺は、別に……お前を嫌ってるわけじゃない」

「は?」

なんだろう、突然。

「だから、気に食わなくてお前を構ってるわけじゃなくて」

「はぁ」

何が言いたいんだろ。

少し顔を俯けていた主任が、がばりと勢いよく顔を上げた。



「お前の事が、好きなんだ」



そう言い切った主任の顔を見ながら、思わず口が開いた。



「うわ、勘弁。ありえない」



思わず、背に悪寒が走った。

目の前の主任が、固まってる。



「なんですかそれ、私が騙されるとでも思ったんですか? おかしいと思ったんですよ、いきなり飲みに行こうなんて」


「……は?」


力が抜けた主任の手から、自分の腕を奪還する。


「なんですか、新手の苛めですか? 甘いんですー、今までどれだけ主任のいじめに耐えてきたか! これくらいじゃ、騙されませんっ」


「かみ、じょう?」


「うっわー、無理無理。今のは酒の席ってことで、水に流して遠くに沈めますから。明日以降、この手の意地悪は止めてくださいね。皆川さんに迷惑です」


そこまで言い切ると、今まで呆然としていた主任がいきなり立ち上がった。

「こっちだって、誰がお前なんかと。少しは告白された喜び味わえたかよ」

けっ、と言葉がついているんじゃないかという感じで、ぷいっとそっぽを向く。

その姿にうんざりして、鞄を手に取った。

「えーえー、ご親切にありがとうございましたっ。私は先に帰ります、ご馳走様でした!」

踵を返してふすまを開ける。

するとそこには、なぜか両手を挙げた皆川さんが立っていた。


「皆川さん、いらっしゃったんですか」

いつまでも帰ってこないと思ったら。

皆川さんは気まずそうに笑いながら、その手を下ろした。

そして口を開こうとするのを、先に話すことで遮る。

「まーた桐原主任が分けわかんない事言い出すんですよ。私、先に帰りますね? いっぱい食べて懲らしめてくださいっ」

「え、あの、上条さん?」

「お先です」

私を引きとめようとする皆川さんから離れて、さっさと居酒屋を出る。



私は頭を沸騰させながら、帰りの迎えの為に翔太に電話した。





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