表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
きっと、それは  作者: 篠宮 楓
第2章 びっくりの法則
22/153

15


「あれ? お昼、持ってきてないの? 由比にしては珍しいね」

ランチバッグを手にした桜と、一緒に社食に向かう。

「うん、隣の子にあげてきた」

「……そうなんだ」

少し呆気にとられたような桜に頷きながら、食券を買って列に並ぶ。

桜は席を確保しに、先にテーブルへと歩いていった。

その後姿を見ながら、周りの人の視線に思わず苦笑する。

普段社食に来ないから、桜に向かう視線がまるで見えるようだ。


「あらぁ上条さん、今日はお弁当持ってこなかったの?」

後ろに並んだ女性に声を掛けられて、振り向く。

そこには、人事の皆川さんが立っていた。

「皆川さん、お疲れ様です」

「お疲れ様。珍しいわねぇ」

入社して一ヶ月、初めからお弁当派だったのに、と首をかしげる。

大人の女性がやると、異常に可愛く見えるのはなぜだろう。


私は出されたパスタをトレーに乗せると、少しずれて皆川さんを待つ。

「あはは、ちょっと……」

皆川さんはトレーにのった定食を持つと、一緒していい? と私の後に続いて歩き出した。

「はい。今、桜が席を取っておいてくれてますから」

そう言って見回すと、窓際の席でこっちに小さく手を振る桜を見つけて足を向ける。


「都築さん、私も混ぜてもらっていいかしら」

私の横に立った皆川さんが、桜にも了承を得てから椅子に腰を降ろした。

「有名二人組みが食堂にいるから、つい声掛けたくなっちゃって」

「何言ってるんですか、有名なのは桜であって私は入っていませんよ」

皆川さんの言葉に突っ込むと、くすくすと笑い声が帰ってきた。


「あら? 上条さんも結構有名だけどね、うちの主任との攻防戦」

「攻防戦? それ、できれば一方的に絡まれているだけって言い直して欲しいです」

何に対して、攻めて守ってるのやら。

「まぁ確かに、桐原の一方通行ではあるけどね」

「そうです、一方的にからかわれてホント頭にきます」

「気に入られてるものね、由比」

お弁当箱を手に持って箸を動かしていた桜に、冷たい視線を送る。

「やめて、本気で。あれは気に食わないから苛めてるだけ。気に入ってる相手に“ねずみ”とか言わない。嫌われてるんだよ」

「え?」

冷静に淡々と桜に説明していたら、隣から呆気にとられたような声が上がった。

思わず横に目を向けると、皆川さんが瞬きを幾度かして私を見ている。


「まだ、何も言われてないの?」

「は? 何がですか?」

「だから、桐原に。私煽っちゃったみたいだったから、ちょっと心配してたのよね」

……煽っちゃった?

「何を?」

眉を顰めて皆川さんを見ると、彼女は苦笑しながら頭を横に振った。

「これだから、ちゃんと言いなさいって言ってるのに。都築さんには分かってもらえるのかしら、この話」

途中から桜に向けて言うと、是の返答に皆川さんは笑った。

「知らぬは本人だけってね」

「え、どういう意味ですか?」


言われている事の意味が分からず持っていたフォークを置いて聞くと、皆川さんは少し困ったような顔をして箸を手に持った。

「それは本人に聞いてよ。私が言う事じゃないわ。まぁ……」

箸を持った手で頬杖を作ると、面白いものでも見つけたかのようににやりと口端を上げる。

「桐原が思った以上にバカで使えないヘタレ男だってことは、よぉっく分かった」

「……それ、今更です」

私の言葉に、なぜか大爆笑された。



――何ゆえ?





よく分からない雰囲気にされた疑問だらけの昼食も終わり、既に終業時刻。

疑問はとりあえず置いておいて、指示された仕事の終了とともに片づけを始める。

今日は桜が当番だから、声を掛けて総務を後にした。


総務の先輩達が帰るのを待ってから出たからか、廊下にはそんなに人がいない。

さぁ帰ろうと頭の中に今日のタイムサービスはどこが一番安かったかなと、チラシを思い浮かべながら歩いていたら。

「上条さん」

ビルを出たところで、呼び止められた。。

「皆川さん……、と桐原主任」

皆川さんの後ろにいる人に胡乱な声で呼びかけながら、立ち止まる。

「ね、上条さんこの後空いてる? 飲みに行かない?」

「皆川さんとですか?」

暗に桐原主任とだけは嫌だ、と言葉に含む。

二人ともそれに気づいたのか、皆川さんは苦笑し桐原主任は不機嫌さを増す。


「お財布がいれば楽よ? 役職持ちなんだから、私達より実入りはいいはずだし」

「いや、まぁそうかもしれませんが」

それ以上に、また意地悪されるかと思うと気が重いんですが。

「私が居るから大丈夫よ。それより、日々の鬱憤を桐原のお金で発散しましょ」

ね? と目を細めて笑う皆川さんに、私は少し迷った後頷いた。





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ