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きっと、それは  作者: 篠宮 楓
第2章 びっくりの法則
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14

あんなに楽しみにしていたゴールデンウィークも早々に終わり、あっというまに出勤日。

なんで楽しい時間って早く過ぎ去るんだろうって翔太に言ったら、毎日楽しくすればいいんじゃない? といわれました。

……しめてイイデスカ?





「え? じゃあ、会社の人、由比が同じ駅に住んでるって事知らないの?」

朝、翔太と肩を並べて、駅までの道のりを歩く。

朝は危なくないからいいと辞退したけれど、あっさり鞄を取られて一緒に歩いていくことになった。

その道すがら先日圭介さんに迎えに来てもらった時の事を聞かれて、ついでだからとその事も伝えたのだ。

だからもし私の会社の人と会っても、言わないでね、と。


「でもそれって難しくない? 由比はなんて言って誤魔化してるの?」

翔太の横でからからいってる、自転車が憎い。

これに乗れれば、他人に迷惑などかけないのに。

「あぁ、適当に。コンビニに用があるとか。それに、一緒に帰る事が多い人だけには言ってあるから」

桜には、誤魔化しがきかなかったから。

それに、彼女になら別にばれてもいい。


「へぇ? それ、男?」

「? 何で?」

性別、なんか必要?

よく分からず聞き返すと、足を止めてきょとんとした顔で私を見下ろす。

ゆっくりと右手で鞄を指差すと、にっこりと微笑んだ。

「男なの?」

首を傾げるその姿は可愛いんだけど、鞄を物質にしてる時点でやってることはキャッチのおにーさんと変わらないよ。翔太。

「すっごい綺麗な女の人。見たら紹介してって言われそうなくらい」

しないけどね。桜が嫌がるから。

あぁ、でも翔太なら普通に話せるかな。



「っそ」

翔太は何事もなかったかのように、自転車を押しながら歩き出す。

それにあわせて足を動かしながら、この兄弟結構危ないと溜息を零した。

人を勘違いさせる行動が多い。



「女の子にやったら、絶対誤解されると思う」

「何が?」

何がって……

聞き返されながらどう答えようか、頭の中で考える。

自意識過剰みたいで、なんだか嫌だけど。


「そうやって、一緒に帰る人の性別聞きだしたりって事。自分に気があるんじゃないかって勘違いする人がいても、おかしくないと思うよ。気をつけないと」

そうそう、女の子は思い込みが激しい生き物なんだよー

しかもこんな可愛いお顔の男の子。

頼まれなくても、勘違いしたくなるじゃない。


そう言って自分で納得するようにうんうんと頷くと、翔太はそっかなーと顎に手をやってる。

分からない所が危ないっての。



見えてきた駅に、視線を移した。

誰かと話しながら来ると、案外近く感じるなぁ。

翔太は自転車を預けるために、ロータリー傍にある駐輪場へと入っていく。

そこで気付く。

鞄、籠に入れたままだ。


なんか荷物持ちまでさせて、私、何様だろう。


案の定、翔太は私の鞄を手に戻ってきた。


「ごめん、翔太。荷物持たせて」

それを受け取りながら謝ると、別にと可愛い笑顔が返ってくる。

あぁ、腹黒さえなければ天使とでも言いたくなる顔なのにっ


惜しいっと、内心残念になりながら歩き出すと、その肩を翔太に掴まれた。

「何?」

上にある翔太の顔を覗きこむ。

「別に、勘違いじゃないと思うんだけど」

言った言葉は、意味不明。

「は? 何が?」


聞き返すと、可愛い笑顔を全開に上体を屈めてきた。

いや、身長差があるから話すにはありがたいけど、別に普通に聞こえるから。


離れようとすると、掴まれた肩に力が入る。


「だから、由比限定の行動だから、勘違いじゃないんだけど」

「は?」

だから、何が? と続けると、翔太は苦笑して私の鞄を指差した。


「……由比の鞄って、美味そうな匂いがする」

いきなりの話題転換に私は首を傾げながら鞄を開けると、中からランチバックを取り出して持ち上げる。

「これ?」

それに鼻先を近づける姿は、もう、子供!


可愛いっ!


「これこれ。ホント、由比って料理美味いよなぁ」

その言葉に、一気にテンションが上がる。

「翔太、持ってく?」

そう言って、翔太にランチバックを差し出す。

珍しくうろたえた様に頭を振る翔太に、ぐいぐいと押し付ける。


「ここまで歩きで一緒に来てもらったし、そのお礼ってことで!」

「いや、そうしたら由比の昼飯なくなっちまうじゃんか」

さすがの翔太も遠慮という言葉は知っているらしい。

でもっ

「いいのいいの、ご飯を美味しいって言って食べてもらえるのって、ホント嬉しいのよ。はいっ、じゃあね!」


翔太の手にランチバックを握らせると、私は手を振ってそこから走り出した。






振り返らずに走り去った私は、翔太がしばらくこっちを見つめていた事にはまったく気付かなかった。



「本当に、鈍いな」

故に、呟いた言葉もまったく知らない――




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