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きっと、それは  作者: 篠宮 楓
第2章 びっくりの法則
17/153

10

そこは、静かで。

そこは、穏やかで。

ただただ、波の音を聞いて過ごす。

そうして沈んでいく夕日に溜息をついて。

半分だけ満たされた心を抱えて、私はまた日常に戻っていく。


毎月繰り返す、一日だけの非日常。




空を見上げる。

海と空の境界線が、ゆっくりと青く暗く溶け合って。

綺麗で寂しい景色が、心の中に沈んでいった――








バスに揺られて、長時間移動。

座りっぱなしの腰が、大変痛い。

いつも会社から歩く道をバスに揺られて通り過ぎると、終点の駅のロータリーで降りた。

既に八時を回っていて、あたりは暗い。

いつもならもう少し早く帰るんだけれど、ここ数日楽しい事があったからかつい長居してしまった。



腕時計を見て、両腕を前で組む。



さて。

この時間、圭介さんに怒られないだろうか。一人で帰っても。

一昨日、翔太に迎えに来てもらった時間と一緒だったり。

怒られるよね、うん。(確実)


さてはて。


目に浮かぶ、圭介さんの笑ってない笑顔。

仕方ない、途中から電話しようかな。

ふむ、と小さく頷いて歩き出そうとしたその時。


「上条」


低くドスのきいた声が聞こえて、私の首元に長い腕が巻きついた。

「うぁっ」

後ろに引かれて支えきれなかった身体がよろける。

けれどすぐに背中が温かいものに当たって、止まった。


「……な、に?」


巻きついている腕をとっさに掴んでそこから抜け出そうともがくと、頭の上から不機嫌そうな声が降ってきた。


「一昨日は、よくも逃げやがったな」


……おとといは、よくもにげやがったな?



その内容とその声が、頭の中にある人物を浮かび上がらせる。

外そうとしていた腕を見ると、スーツに包まれていて。

掴んだまま顔を斜め後ろに向けながら上げると――


「桐原主任……」


――不機嫌そう……ではなく、不機嫌な桐原主任と目が合った。




固まったのは、言うまでもない――




――とと、固まってる場合じゃなかった。



人を捕食対象としてみている桐原主任相手に、この体勢はまずい。

指じゃなくて、腕でも食べられそうだ。


大体……


ふと疑問を感じて、顔を前に戻す。




今、思い浮かぶ疑問点。


その一 なぜ、休みなのにスーツを着てここにいるのか

その二 なぜ、こんなにタイミングよくここで会うのか

その三 なぜ、この体勢なのか



――さて?



とりあえず是正できる所から、頑張ろう。私。





腕を掴んでいる手に力を込めて、思いっきり引き剥がす……つもりだったけど、無理だった。

んじゃぁ――

おもむろに足を上げて、桐原主任の靴の上に思いっきり落としてみました。


「……っ」


頭の上から、息を呑む音。

効いたみたいです、踵落とし。

さて、この隙に腕を外して逃げときますかね。


もう一度手に力を込めたら。

「てめぇ……」

地を這うような声とともに、腕を持っていた手を反対の手に掴まれてそのまま歩き出されてしまった。

「うぁっ、首! 首が絞まる……っ」

首に巻きついている腕もそのままに、近くの定食屋に引きずられていきました。



――なんで?



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