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きっと、それは  作者: 篠宮 楓
第6章 消せない過去、寄り添う現実
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25

あぁぁ、暗い~~orz

あともう少しで、過去話が終わると思われます←

それから。


あれほど泣いていたのが嘘だったかのように微笑んだ咲子は、母親に連れられて家へと帰って行った。

明日は用があっていけないけれど、明後日には遊びに行くからねと言い残して。


まるで今あったことが、全てなかったことのように。




呆然とその場で彼女を見送った圭介は暫くそのまま立ち尽くしていたが、我に返った途端、父親の元へと取って返す。

そんなに時間が経っていなかったからか、父親は肴をつまみながら酒を飲んでいたようだった。

無言で襖をあけて入ってきた圭介に気付くと、ちらりと視線を走らせて目を細める。

「どうした。幽霊にでもあったような顔して」

ふざけた口調ではあるが、存外真面目な声音に圭介は父親の卓状台を挟んだ真向いに腰を下ろした。

「父さんは、知ってたんですか。咲のこと」

酷く緊張していたからか、張り付いた喉から出てきたのは掠れた呻きのような声だった。

それに微かに目を瞠った父親は、視線を手元のグラスに落とす。


「つい最近だがな。ただ、お前の事を好きだっていうのは、最初っから聞いてたが」

「最初って……」

「お前に会うもっと前だよ。血は繋がってはいないが一応親戚筋ではあるから、どこかの集まりでお前を見かけたみたいだぞ」

元々藤原の……咲の母の連れ子として、遠野の親戚に嫁いだらしい。その後、父親が急逝してしまい元の名字に戻っていた……それは母親が持っていた調査書ですでに知っていたことだ。

「あんたは、そんな人と関係を持って恥ずかしくないんですか」

腹の底から何かが煮えくり返って、普段ならいうこともなかった言葉が口から零れる。

今の圭介には、それを止めることは難しかった。

「死別とはいえ一度親戚になった女性とそういう関係を持って、あんたは恥ずかしくないんですか」

「近づいてきたのは向こうだぜ? 今さら藤原に戻っても他に嫁がされるだけだから、だったら自立するために俺の力が欲しいってな」

「……は?」


「俺はどんな手を使ってでも自分を突き通そうとするそういう根性、嫌いじゃねぇよ。少なくとも、お前みたいに達観面して受け流してる奴よりいい」


父親の話は、少なからずその圭介に衝撃を与えた。


父親の女癖の悪さ……いや、近づいて来られたからと言って手を出した時点でアウトではあるのだが……だけを理由として考えていたけれど、あの大人しそうな咲の母親がそんな事をすると思えなかった。

心底嫌いな父親ではあるけれど、むかつくことにこの人は嘘はつかない。


「自分の身勝手な行動で娘に嫌な思いをさせてきたっていう自覚があるだけに、あれも咲には一歩引いて接してるからな」

その言葉に、さっき咲の側にいた母親の顔が脳裏を過ぎる。

確かに不安そうに圭介を見た母親の姿は、咲に対してどう接していいかわからないような態度だった。

違和感の正体に気付いて、眉根を寄せる。


「咲にとっては、母親の行動で好きな奴と近づけるけれど両親が再婚したらお前と結婚するのに支障が出て来るだろ? だからあれは俺の愛人だって周りに冷たい目で見られても、咲の為に我慢してたんだよ」


圭介は父親から差し出されたグラスを手にすると、一気にそれを喉に流し込む。

胃に何も納めないうちにあおった日本酒は、喉を熱くさせながら体に吸い込まれていった。




少しの間、何もしゃべらずにじっとしていた圭介は持ったままだったグラスを卓状台に置くと、父親の顔を真正面から見据えた。



「私はずっと、咲を家族の一員として見ていました。翔太と同じように、大切な存在だと。けれど、さっき咲に翔太の事をお荷物だとそう言われた」

父親の表情は、まったく変わらない。けれど、目元がピクリと動いたのが微かに分かった。

「たとえそれが私に好意を持っていて近づくためだったとしても、翔太を利用した事を許すことはできません。翔太は、咲を心底信用している。そんな彼女にお荷物だなんて思われてたと知ったら、彼の心は傷つきます。……まだ、中学生なんだ」

幼い頃から親戚筋に見下され疎まれてきた翔太が、圭介とその母親以外の他人から初めて優しさをもらえたと感じた咲が、実際は利用するために懐柔しようとしていたなんて知りたくもない事実だ。

俺は、知りたくもなかった。



圭介は一度瞼を伏せると、再び父親を視界に納めた。



「父さん。翔太の婚約は、なかったことに」

「どうした、藪から棒に」

手にしていたグラスを卓状台に置くと、父親が顔を上げた。

「翔太のお相手が、咲の友人だと聞きました。外見を気にいったという理由で、この話を受けたと。もちろん、あなたという後ろ盾があるからこそなんでしょうが」

「ふん……まぁ、いい。分かった。先方には断りを入れておこう」

何でもないようにさらりと了承されて、戸惑ったのは圭介の方だった。

「随分とすんなりと受け入れてくれるのですね」

先ほどとは大違いだ……と呟くと、父親は目を微かに細めた。


「目をかけてやれなかったとはいえ、翔太は俺の息子だからな。ただ……」

続く不穏な言葉に、圭介はじっと父親を見つめた。

「咲は、お前が知ってる咲だけじゃない。あの子は母親や藤原の人脈を通して、今回の事を計画した。それこそ、外堀を埋めるってこういうことだなーって感心するくらい」

「感心してないで、私に何で言わなかったんですか」

「言ったところで信じないだろう? 俺と咲の言葉なら、お前は彼女を取るはずだ」


即答されて、圭介は言葉を飲み込んだ。

ここら辺の話がどうしてもかけなくて、2年以上放置していたわけでして。

投下するの、かなりのドキドキだったりしますです^^;

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