表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
きっと、それは  作者: 篠宮 楓
第6章 消せない過去、寄り添う現実
151/153

24

精神的に暗い話がこの後続きます。

苦手な方は、飛ばして頂ければと思います。

咲さんの暗い一面が、ここから続きます。

部屋が、痛いほどの静寂に包まれた。



本当は、こんなに切って捨てるような言い方はしてはいけないとわかっている。

それでも曖昧に終わらせてしまえば、父親に言いくるめられ強引にコトを運ばれてしまうだろう。

咲子に悪いことをしている自覚はあるが、大切な存在だからこそ、流されてはいけない事くらい圭介にもわかっているしきっと彼女も分かってくれるはずだ。


目を見開いて自分を見ている咲子は可哀そうで手を伸ばしたくなるけれど、それは妹という範囲の事。

決して、異性として愛しいと思うからこその行動じゃない。


「圭介、悪い奴だなぁ。今まで懐に入れといて切り捨てちゃうの?」

「人聞きの悪いこと言わないでください、咲は妹として家族だと思ってます」

「一番辛辣な言葉だな。なぁ、咲ちゃん」

にやりと笑う父親に、咲子は口を真一文字に噛みしめて立ち上がった。

「私、圭ちゃんが好き。だから、絶対に断らないもの! 断られても受け入れない!」

そう叫ぶと、部屋から出て行ってしまった。

その後ろを母親が追いかけていくが、圭介はとっさに腰を浮かせたけれど追いかけるようなことはしなかった。

「いいのか? 行かなくて」

父親の言葉に気持ちは揺れるけれど、手を握りしめてそれを抑え込んだ。

「今は、あなたと話をつけなくては」

「……お前、その歳でその冷静さって怖いよな。ホント、俺の息子?」

「あなたの息子じゃなかったら、どれほどの僥倖でしょう」

縁を切れるものなら、母親が亡くなった時に切っている。

それでもそうしなかったのは、中学生の圭介に小学生の翔太を育てられるわけがなかったからだ。

母親から遺された翔太と圭介名義の貯蓄、そして高校に入ってバイトで貯めた資金は大学の学費に充てら以外はほとんど使っていなかったため、ある程度の額が貯まっている。

母方の親戚にそれを預け、ある程度翔太が大きくなったら外に出るかどうか、その算段だけはつけていた。

それでもここに留まっていたのは甘えだ。

この家で生活をすることに慣れてしまっていた。

父親の影響下でその経済力で生活をしている時点で、この人に頼って生きていたのだから。

自分の就職のこと以外、ほとんど口出ししてこなくなっていた父親に警戒心が薄れていた。


圭介は考えの甘かった自分自身に激高しそうになる心を何とか抑え込んで、父親を睨みつける。


「私は咲と結婚はできません。そして、翔太の婚約については、彼の意思を尊重します」

それでいいですね、と念を押すように言うと、父親は肩を竦めた。

「うーん、それだと俺の立場ってないなぁ」

「本来、婚姻について父親が口を出す方がおかしいんですよ」

政略結婚など、この現代においてはごく一部にしかないはずだ。

そしてうちは、少なくともその一部に入るような家柄じゃない。


「藤原は、確かにうちにとっていい縁故が得られるんだけどさぁ。それだけじゃないんだよね」

「それだけじゃない?」

それ以外に、この婚姻に何の意味があると?

父親は首元を押さえながら、へらりと笑った。

「ずっとお前の事が好きだったんだぜ、咲ちゃん。今回の事も、咲ちゃんから言い出したんだし」

「……は?」

咲から?

初めて聞く事実に、圭介の口から間抜けな単音が零れる。

そんな圭介を面白そうに眺めながら、父親が引導を渡すようにはっきりと口にした。


「お前がずっと好きだったんだと。だから俺達はお前らが一緒になれるように、再婚しなかったんだよ」


ありがたいと……思うわけないか。


そう続いた父親の言葉を背中で受け止めるように、圭介は咲子を追って部屋を出た。






咲子は、難なく見つけることができた。

部屋を出てそんな遠くない裏の庭先に母親と一緒にいたから。

小さく息をついて、庭に出る為に置いてある履物をつっかけるようにして歩き出すと、その音で気付いたのか振り返った咲の母親と目が合う。

「……?」

その表情に少しの違和感を感じたけれど、今はそれよりも……と咲に目を向けた。

「咲」

名前を呼べば、ぴくりと肩が震える。それに少し罪悪感を覚えながらも、圭介ははっきりと断りの言葉を口にした。

「咲。傷つけてごめん。でも、やっぱり私にとって咲は家族としてしか思えない。だから、咲とは結婚は出来ない」

「嫌」

「咲、ごめん」

「嫌だってば!」

謝罪を重ねる圭介に焦れたのか、咲が声を荒げて振り向いた。

「……」

その表情に、圭介は思わず一歩足を後ろにずらす。そうしたくなるほどの、咲の姿に目を瞠る。


――笑っていた。


さっきまで泣いていたのに、口端を上げて目を細めたその表情は、笑み……だった。

赤くなった眼だけが、泣いていた名残を見せている。


「ねぇ、圭ちゃん」

思わず見つめていた圭介は、咲の声に我に返った。

「あ、あぁ。何?」

困惑気味の声の圭介を、咲は目を細めて見上げる。

「私、初めて会った時から圭ちゃんが好きなの。だから、絶対に圭ちゃんと結婚する」

「咲……」

「圭ちゃんに好かれるように頑張ってきたんだよ? 一緒にいる為に、翔くんにだって優しくしてきた」

その口から懸命に紡がれる今までの三人の関係を壊していく告白に驚くばかりで、ぐちゃぐちゃの脳内はその感情を言葉にしてくれない。

呆然と立ち尽くし咲子の言葉を止めることもできずに、圭介は彼女を見下ろしていた。


「翔くんが婚約するのって、私の友達なの。翔くんの外見が気に入ったみたいだけど、ほら、性格なんて一緒にいれば慣れるでしょ?」

くすくすと、笑みが零れる。

「今まで三人で暮らしてきたけど、やっぱり新婚の内は二人がいいよね? 十八歳にならないと結婚は出来ないけど、婚約したら友達の家で将来経営に携われるように勉強するのが決まってるから、すぐに二人になれるよ?」


咲の目が、昏く、沈んでいる。


笑っているのに、その表情は。


「圭ちゃんの大切な翔くんも、ちゃんと幸せになれるでしょ? だから、圭ちゃんが私と一緒にいるのを遠慮しなくていいんだよ」

咲子の言葉に呆然としていた圭介が、はっ……と我に返った。

「いや、そうじゃない。そうじゃない、咲」

「圭ちゃん優しいもんね。翔くんの事、ずっと守ってきたもんね?」

圭介が声を上げても、咲は口を閉じようとしない。それどころか圭介が結婚しないと言ったのは、翔太に遠慮しているからだと勝手に理解してしまったらしい。

「でも、翔くんだって喜ぶよ」

戸惑う圭介を見上げながら、咲は嫣然と微笑む。そんな表情も初めて見た圭介は、ただ呆然としたまま彼女の言葉を待った。



「今までずぅっと、圭ちゃんのお荷物だったんだから」



圭介の中で、咲への感情がすべて塗り替えられた。

咲さん、怖い;;

書いてる私が言うのもなんだけど;;

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ