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きっと、それは  作者: 篠宮 楓
第6章 消せない過去、寄り添う現実
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やっと、2年更新していません云々を消せる……!(笑


「初めまして、藤原と申します」

「……初めまして」


それが、咲の母親と初めて交わした言葉だった。



圭介の生まれたのは、都会から離れた田舎に片足を突っ込んだような場所。山もあれば森もある、けれど大きなビルもあるような場所で、住みやすい場所ではあったけれど昔ながらの因習が未だ残る土地だった。

その土地に代々続く地主が圭介の家族、遠野家。圭介は、そこの跡取り息子だった。




圭介は自分のような未成年に対して微かに震えながら頭を下げる目の前の女性に聞こえないよう、小さくため息をついた。

こういったことが、初めてではないから。

圭介の父親は仕事に関してはとても優秀で、尊敬を集めるに値する人物だった。

広大な土地や資産を元手にいろいろな事業を展開し、それを成功させることで地元に利益と雇用を生み出した。

このままでいけば過疎化は免れないと言われてきた町だったが、父親の代でそれを盛り返し反対に人口を増やした位だ。地主であり親戚から議会議員を多数輩出し、会社を運営し町のために働く父親は、圭介から見ても尊敬する親だった。

ただ、一つを抜いては。


 女癖の悪さ。


圭介が十五歳の時に亡くなった母親は、生前から父親の浮気にだいぶ頭を悩まされていたらしい。

遺品整理の際に出てきた調査書に、圭介は唖然とした。

目の前の藤原と名乗る女性の他にも幾人か載せてあった調査書には、父親との浮気を決定づける証拠が添付されていた。

その中に、子供の写真が掲載されていたのだ。


それが……


「圭介にいちゃん、お客さん?」


元気のいい足音が、家の奥から玄関へと近づいてくる。その音に顔を振り向ければ、それより早く腰に軽い衝撃が走った。

「翔太」

腕の下から頭だけだして自分を見上げてくる翔太に、思わず目元が和らぐ。


既に両親がいないこともあって、数年前にうちに引き取られた異母弟。

母親は、少しの間、お手伝いさんとして勤務していた女性だった。

憎むべき子供なのかもしれないけれど、母親は圭介と共に翔太を可愛がった。

父親の所業は業腹だけれども、産まれてきた子供には罪はない。

特に翔太の両親……本当の父親は生きているが……が、すでに故人となっていること、そして自分の先が短かったことも母親の母性本能を動かしたらしい。

圭介自身は身寄りのない子を引き取ったとそれだけしか言われていなかったから、少しの先入観もなく翔太を可愛がった。

最初怯えていた翔太も少しずつ心を開いてくれて、その笑顔に母親自身癒されていたようだ。

連れてこられてきた時まだ五才だった翔太は、その年に亡くなった俺の母親をとても慕っていた。


……それだけでも、本当の両親がどう翔太に接していたかが伺えるというもの。


母親が亡くなって事情を知った後も、圭介は本当の弟だった翔太を嫌悪することなく育ててきた。

お手伝いさんたちの手を借りてではあるけれど、時間がある限り翔太の側にいて共に過ごしてきた。



不思議そうな表情を浮かべて自分を見上げる翔太の頭を軽く撫でて、圭介は黙り込んだままの目の前の女性に顔を向ける。

「わざわざ、挨拶をありがとうございました。父には伝えておきますので、どうぞお引き取りください」

「……、はい」

見るからに青ざめていく女性を見ることなく、圭介は翔太を纏わりつかせたまま体を反転させる。

母親が亡くなって三年、父親がこの女性と再婚しようとしていることは明白。

話すのは初めてだけれど、最近こうやって何か用事をつけてはうちまで来ているとお手伝いさん達には聞いていた。

娘を連れてきたのは、初めてだけれど。

大体、この咲という子も、調査から零れただけで自分の腹違いの妹なのではと邪推したくなる。



……この人は、俺が父親との不倫を気付いていないとでも思っているんだろうか。

父親もこの女性も、子供を馬鹿にしているとしか思えない。



「あなたが翔太君?」



そのまま帰ると思われたその時、女の子の声が玄関に響いた。

「……、うん」

自分ではなく、翔太にかけられた声。

自分もだけれど、翔太自身初めてのことで少し戸惑っている。

そんな圭介達の困惑を見事に流して、先ほど”咲子”と紹介された女の子は振り向いた視線の先で翔太と目線を合わせるように上体をかがませていた。


「私は、藤原 咲子。翔太君はいくつ?」

「……八歳……」

そっかー、と優しげな笑顔を浮かべた咲子に、翔太はおずおずと圭介の横から顔を出すと満面の笑顔を向けた。




不倫の末に生まれた子供として周囲から向けられる冷たい視線に、翔太自身理由がわからないまま傷ついていた。

初めて会う大人や子供たちから向けられる、侮蔑の意を含めた視線。そして、子供にはわからないだろうと話される、思いやりのかけらもないような言葉。

「初めまして、よろしくね」

「うん!」


圭介達家族以外から向けられた初めての笑顔に、翔太は嬉しそうに応えた。

そして咲が遊びに来るたびに、深く懐いていった。

母親から「親のしたことに対して、子供には罪がない」と聞かされていた圭介も、父親や咲子の母への侮蔑はなくならないが、それでも彼女の屈託のない笑顔と明るく優しい性格に警戒心を解いた。



中学一年生・十三歳の咲子を、圭介は妹として、翔太は憧れを持って共に過ごすようになった。

大変お待たせして、本当にすみませんでした><

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