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きっと、それは  作者: 篠宮 楓
第6章 消せない過去、寄り添う現実
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18

圭介は準備室に入って、些か乱暴に椅子に座った。

ぎしりと常にない音を上げて、座面が沈み込む。

そのまま両腕を組むと、じっと机の上に視線を落とした。



なぜ、咲にここの事がばれた……?


そればかりが、脳裏に浮かぶ。

自分はいい。自分はいいのだ。

一番の心配は……



「翔太……」


今、咲に会う事が翔太にいい影響があるなんて少しも思えない。

由比さんと会って、やっと翔太も過去じゃなく前を向こうとしていた矢先に……



ぎりっと奥歯を噛み締める。



どうやったって、翔太が会わないようにする事はできない。

二学期の始業式で紹介されるだろうし、その日を回避できたとしても少なくとも噂で名前を耳にすれば気づくはずだ。

なら、先に翔太に伝えるべきか?

いや、他から聞くならば自分が伝えた方がいいのは分かっている。

けれど……、言えるか?

 


咲が、来たって。



浮かぶのは、学祭の時。

昔に戻ったような、翔太の姿。


どうしたらいい……どうしたら。



答えの出ない難問を突き付けられて、圭介は深くため息をついた。









「よっす圭介、帰ろうか!」

一日何もできずに終えてしまった圭介が職員用の駐車場に向かうと、なぜか溝口が駆け寄ってきた。

しかも、大分息を切らせて。


溝口は通勤に車は使わず、電車を利用している。

故に、ここで会う理由がない。


圭介はそう判断すると、にこやかに笑みを浮かべた。

「えぇ、溝口先生。お疲れ様でした」

そう告げると、車の鍵を開けて運転席に乗り込む。

溝口は圭介の行動を予測していたかのように苦笑を零すと、助手席のドアを開けて勝手に乗り込んできた。

「溝口先生、どうしたんですか」

「人に聞かれたくないだろうから、選択肢を与えてやる。俺ん家かお前ん家か」

「は?」

心底嫌そうに返答する圭介に少し挫けそうになりながらも、溝口は気持ちを奮い立たせる。

「藤原先生って、圭介の親戚なんだって?」

「……っ」

思った通り、圭介の動きが止まった。


「それを、どこで?」

けれど立ち直りも早い。

直ぐに問い返してきた圭介に、溝口は“本人”と端的に告げた。


「遠野先生がお世話になっています。私、彼の親戚なんです……ってな」

そう告げると、圭介の顔色が見るまに青くなった。

「それは……」

他の人にも? 

言外に含めた言葉を、溝口は分かっているとでもいう様に手で制した。

「横の席が俺だったから一番に来たみたいでな。止めておいた。あまり言うべき事じゃないよって」

圭介は、体から思わず力を抜いた。

知らず強張っていたらしく、肩が震える。

「ありがとう……ござい、ます」

「もういいからさー、そろそろ出ようぜ。来るよ、お前の咲子ちゃん」

「……っ」

いつしか項垂れていた頭を、勢いよく上げた。



「お前の住んでいる場所聞かれたから、知らないってとぼけたけど。今頃社会科準備室行ってるんじゃないか?」



圭介は何も言わず、エンジンキーをまわす。

「うおっ」

さすがに動揺しているのか、食事会の時とは全く違う荒い運転に溝口は苦笑した。


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