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きっと、それは  作者: 篠宮 楓
第6章 消せない過去、寄り添う現実
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16


窓から入ってきた風に、彼女の髪がふわりと揺れた。

それを押さえる様に右手を首元にあてたその人は、ゆっくりと近づいてくる。

たった数歩の距離が、なぜか数分にも感じるほど圭介の思考は動きを止めていた。

何も考えられないまま、目の前に立つ彼女を見下ろす。


「圭ちゃん、久しぶりだね」


柔らかく微笑むその表情は、とても懐かしい。

圭介は真白になった思考を戻すように、小さく頭を振った。



「咲……?」



目の前まで来ていた彼女は、徐に圭介の腕に縋る様に手を添える。

「驚いた?」

悪戯が成功したように笑う彼女の名前を、今度は確信をもって圭介は口にした。

「咲、どうしてここに……」

「驚いたか聞いてるのに、圭ちゃんってホント生真面目だよね」

くすくすと笑いながら、手に持っていた資料を取り上げられそれを傍の机に置かれる。

そうして直ぐに圭介に向き直ると、彼女……咲は花のような笑みを零した。


「この度、司書として採用された藤原 咲子です。短い間ですが、どうぞよろしくお願いします」


そう言って優雅に頭を下げる仕草は、圭介の記憶にある彼女より大人びているけれど。

間違えようもない。彼女は、咲……藤原 咲子。

昔、翔太と同じくらい大切だった女性。


圭介はやっと落ち着いてきた感情をより抑え込むように、窓枠に手をついた。


けれどそれは、過去の話だ……。



やんわりと、自分の手から咲の手を外した。


「咲、どうしてここに?」

同じ質問を繰り返せば、拗ねる様に口を尖らす。

「そればっかりね、圭ちゃんてば。もっと、何かないの?」

「なぜここにいるんだ」


咲の住む場所は、変わっていなければここに通うには遠い場所。

偶然、ここに就職するなんて事は到底信じることはできない。


はぐらかす様に会話を続ける咲に厭わしさを感じ、思わず口調が鋭くなる。

それを聞いた咲は、小さく息を吐き出して両手を後ろ手に組んだ。

「ここに圭ちゃん達がいるって、聞いたから」

「誰から」

「それは言えない。じゃないと、圭ちゃんに怒られちゃうでしょ、その人」

当然だ。

彼女から遠ざかる為に、ここに来たというのに。


「ホントは地元で、一応働いてたんだよ。でもこの学校で臨時募集をするって聞いたから、辞めてきちゃった」

「辞めてきたって……」

「だって、圭ちゃんの傍にいたいし」


圭介はちょっと待ってくれとでも言うように、片手を前に突き出した。

「話が見えない、少し黙ってくれないか? まったく整理がつか……」

そこまで言った時、ふわりと体に重みがかかった。

「うん、待ってる」


驚いて顔を上げれば、自分に抱き着いている咲。

とっさにその体を、両手で剥がした。


「やめろ、咲」

そう言い放てば、両手を宙で浮かせたまま咲が悲しそうに圭介を見上げた。

「なんで? すごく会いたかったのに。圭ちゃんはそうじゃなかったの?」


憂いを含む、潤んだ瞳。

いつからこの子は、こんな表情をするようになったのか。


圭介は記憶にある咲を思い出しながらも、その肩から両手を外した。

「とにかく、ここは職場だ。不必要に触らないで欲しい」

距離をとるように離れれば、咲は不承不承頷いた。

「ホント真面目なところは変わんないんだから。わかりました、遠野先生。何か御用がありましたら、お呼び下さい」

「……あぁ」

何とかそれだけ口にすると、圭介は咲の横をすり抜けて廊下へと向かった。


ぱたぱたと、自分のサンダルの音が耳に響く。




……さっきと違って、耳障りな程に。



最後の主要人物登場。

これでもう新しい子は出てこない(予定)

……はず!

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