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きっと、それは  作者: 篠宮 楓
第6章 消せない過去、寄り添う現実
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ゆるゆると顔を上げれば、茶化すつもりはないのか真面目な顔をした隆之と目が合う。

真面目に答えるのもどうかと思うけれど、隆之には誤魔化さない方が賢明だと思い直して圭介はゆっくりと口を開いた。


「……昨日、気持ちを告げただけで答えは頂いてません。まだくれなくていいと、伝えていますので」

そんなに昨日の夜隆之と会った時の自分の態度はあからさまだっただろうかと圭介が考えていると、隆之は背もたれに体重を掛けるように、上体を後ろへと倒した。


「つーか、なまっぬるいなー。何それ、遠野兄ってば草食過ぎない?」

面倒くせぇといわんばかりに唸る隆之に、圭介は困ったように笑みを浮かべる。

「まぁ、そう言われても仕方ないかもしれませんね。けれど、私はこれでいいと思ってますから」

「なぜ?」

直ぐに問い返されたその言葉に、圭介はよどみなく言葉をつづけた。




「それは隆之さんの方が、ご存じなのではないでしょうか?」




圭介の表情は変わらない。

「そして、それを言うために私を連れ出したと思ってましたが」

隆之の表情も変わらない。


二人は各々の表情のまま見合っていたけれど、アイスコーヒーのグラスの氷が溶けはじめて音を出したところで隆之がふっと笑った。

「草食っぽくない草食か」

「お褒めに預かり」

「褒めてねぇよ、腹黒いって事だよ」

嫌そうに顔を顰めるけれど、圭介はただ笑んだまま。

次の言葉を待っている。


隆之は体重をもたせ掛けていた背もたれから体を起こして、テーブルの上で両手を組んだ。


「俺は由比ちゃんに対して、情でも法的にでも責任がある。まぁ、法的な部分はもう終わったっちゃー終わったけど」

「情? 法的?」

「そ。俺は由比ちゃんの後見人。彼女が二十歳になった時点で、その任は解かれてるけどな」

二十歳でってことは……未成年後見人。それが意味するところは。

「本来なら一緒に住むべきなんだけど、由比ちゃんもいろいろあってなぁ。正隆のうちに連れてきたときにあのアパートを気に入ったもんだから、いろいろと手続きは面倒だったがこっちに住まわせることにした」

圭介はその言葉を聞きながら、一度目を瞑って再び開いた。


「隆之さん」


まだ何か話そうとしていたらしい隆之の言葉を、遮る。


「そのお話は、由比さんから聞きます」



そう告げると少し驚いたように目を見張った隆之は、眉を下げて柔らかく笑った。


「そうかい、俺が先走りすぎたか?」

「いえ、私がただ由比さんから聞きたいなと思っただけですので。すみません」

申し訳なさそうな声音をしていても、圭介の表情は変わらない。

「遠野兄、あんたの弟も由比ちゃんの事が好きなのか?」

昨日の態度を見れば、言わずもがなだけれど。

「えぇ。私たち兄弟は、由比さんが好きなんですよ。手放したくないくらいに」

「……なんか、厄介なのに惚れられてる気がする。まぁ。俺がどうこういう事じゃねーけど」

「すみません」

厄介で。

無意識に自分の背景を思い出して、圭介は内心呟いた。




「まぁ、変な奴じゃないならよかった」

「変な……ですか?」

道の駅を出て次のカフェへと車を走らせる圭介の隣で、隆之がふと呟いた。

「いや、昨日うちに来た時さ。なんか様子が変だったから、何かあったかなーと思ってこっちきたのもあるんだ。そうしたら遠野兄弟が出てきてよけい行動がおかしくて」

昨日の由比の行動を思い出しているのか、隆之の顔には笑みが浮かんでいる。

「こりゃ、原因はこの二人かと思ってちょっと探りを入れたって事。悪かったな」

「別に、いいですよ。それに、由比さんが動揺する原因が私だったならチャンスはあるって事ですからね。喜ぶところでしょう?」


前を向いたままそう応えれば、やっぱり腹黒そうだわと隆之はぼやいた。


「まぁ、今日は丸一日付き合ってもらうから覚悟してな」

「お手柔らかにお願いしますよ」


まぁな、と隆之はその眼を細めた。


「由比ちゃんの事、頼むな。やっと、変われそうだから」


もう、俺の役目も終わりかなと隆之は笑む。

「泣かさないでくれよ? 俺の大切な子だからな」

「えぇ。もちろん」


そう頷く圭介を見て、隆之は目を伏せた。



やっと。

やっと、由比は大切な人を見つけられるかもしれない。


その最初の一人が自分ではない事に一抹の寂しさを覚えながら、それでも隆之はその変化を心から喜んだ。




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