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きっと、それは  作者: 篠宮 楓
第5章 手を伸ばして、君が求めたものは。
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29

由比が脱兎の如く逃げ出した後、その場に残った面々は圭介と桐原の間を交互に視線を動かしていた。

ほんわりと笑んだ圭介と、不機嫌そうに眉を顰める桐原。


「お前さ。くだらねぇ嫉妬するなとは言ったが、何いきなりぶっちゃけてんだよ」

「抑え込むから、くだらないことをしてしまうと気が付いたものですから。抑えるのをやめようと思いまして」

にっこりと笑う圭介に苦虫を噛み潰したように桐原は顔を顰めると、ふぃっと踵を返して由比達が食事をしている方へと歩き去った。


それを満足げに見遣る圭介を、がっくりと項垂れた皆川が大きく溜息をつく。

「なんかキラキラほんわり兄弟とか思ったけど、本音の辺りは黒そうだわー。上条さんて、桐原といい、黒い人を寄せ付けるのかしらねぇ。Sっ気全開」


その言葉に、圭介は何も言わずに笑みを浮かべる。


「上条さん、鈍いからねー。って、しっかし上条さんばっかモテて、ずるい! ねぇ工藤! 私には魅力なし?! 私に、一人くらいくれてもいいと思わない!!?」

途中から工藤に詰め寄って、その胸倉をがくがくと揺さぶりだした。

「うぇっ、みっ皆川よせ! 酒がまわる! 気持ち悪いっ!」

そういえばと皆川を見れば、ほんのりどころじゃなく顔が赤い。

言うまでもなく、酔っ払いだ。


「あーたーしーのー、あーいーてーはー、どーこーでーすーかーぁぁっ!」


「俺に聞くなよーっ」


情けない声を上げた工藤は、自分の方が泣きたいと思ったに違いない。

皆川への片思い歴、まだまだ更新だなと内心項垂れていた。


皆川は思いのたけを叫んで気が済んだのかぽいっと工藤から手を放すと、くるりと圭介と翔太を見上げた。

「上条さん、泣かせないでよね」

桐原の事で迷惑をかけてしまった事をずっと忘れていない皆川は、二人を交互に見ながらそう念を押す。

圭介は翔太と目を合わせて、すぐに皆川へと視線を戻した。


「もちろん」


それは、二人同時の返答で。

思わず苦笑したのは、皆川だけじゃなく桜や溝口、工藤も同じ事。



「いやーねー。なんだか、今日の食事会って上条さんがどれだけ大切にされてるか見にきたみたい」

ねぇ、工藤? と隣に立つ男を見上げれば、そうだなと返される。

「上条さんが、幸せならいいんじゃないの?」

「そうねー。可愛い恋をしてもらいたいわよ。ホント」

くすくすと笑いながら、桐原の後を追って由比のいる方へと歩いて行った。




残された圭介達は、アパートの住人と部外者達の食事会を見遣る。

楽しそうに笑う由比に、今日ずっと貼り付いていた怯えのようなものは見えない。

元気がないなと少し心配していた溝口は、大きく息を吐いて笑った。

「由比は、皆に可愛がってもらってんだなぁ」

しみじみとそう言うと、桜は目元を和らげて微笑む。

「だって、由比は可愛いもの。私から見たら、本当に純粋で可愛いわ。私の友達には、勿体ないくらい」

「桜さんは、素敵です!」


真剣に言い返す溝口にきょとんとした桜は、ぷっ、と吹き出した。



「なんだか凄いわ、ちょっともう……っ」

桜の笑いを困ったようにそれでも嬉しそうに見ていた溝口は、あの、と口を開いた。

「また、会ってもらえませんか?」

「ちょっとー、生徒の前で口説きモード入んないでよ」

翔太が揶揄するように突っ込めば、照れた様にじろりと睨みつける溝口。

桜は笑いを何とか抑え込んで、小さく頷いた。



「でも、友達ですよ?」


「もちろんです!」



嬉しそうに返答する溝口を見遣って、桜はふわりと笑った。

それはきっと、由比がいたら驚くような事。

気を許した人にしか見せない、素の笑みだったから。



「じゃ、戻りましょうか」

そう告げた桜に、頷いて溝口が歩き出す。

「私は、もうしばらくここに」

視線を向けられた圭介は、柔和な笑みを浮かべてやんわりと断った。


そう? とでもいうように首を傾げて同じように動かない翔太にも視線を向けつつ、桜は溝口と皆の所へと戻っていった。


次話で5章が終了です。


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