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きっと、それは  作者: 篠宮 楓
第5章 手を伸ばして、君が求めたものは。
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28


いきなり飛び出した言葉に、その場にいた私達は呆けたように圭介さんを見つめた。

見上げた先の圭介さんは、ほんわりと笑ったまま。


閉じ込めた……?


やっと、圭介さんの言葉がお脳に到達して、目をまん丸く見開いた。


そんな事実、無いし!


やっと訂正するっていう事に気が付いて口を開けたら、護さんが先を越された。

「だからあの時、圭介ってばYシャツ脱いでたわけ? おかしいと思ったんだ、中から出て来た由比が圭介のシャツ持ってんの」


うぁぁぁっ! しかも、余計なことばらされた!


「つーか、俺も一枚噛んでんだけどねー。圭介と、俺が、由比を閉じ込めたんだよ。勝手に俺を排除しないで」


へらりと、翔太が笑いながら嘘を重ねて。

「え、二股……!」

それに護さんが、思いっきり喰いついて。

「なんだそれ」

話を聞きつけたのか微妙な雰囲気に気が付いたのか、いつの間にか桐原主任が傍に来ていた。

顔を上げれば、桐原主任の向こうで興味津々といった表情を浮かべて工藤主任と皆川さんがこっちを見ている。


なんなの、なんなの、この状況!!


救いなのは、アパートの人達がこっちに興味を持っていないところだけだ。

「あわわ、ちょっ圭介さんっ」

パニックに陥って、隣にいる圭介さんを見上げれば。

にっこりと笑みを浮かべる圭介さんが、大丈夫とでもいうように私の頭を撫でた。


「翔太が由比さんに、学祭の余興で制服着せたんですけどね。あまりにも可愛いくて他の男に見せたくなくなりまして。着替えさせるために、あの準備室を使ったという訳です」

「は?!」

事実をばらされなかったのはありがたいけど、その理由も恥ずかしすぎるんですが!!

訂正! 訂正を願います!!

「えぇぇっ! まさか圭介さんも、上条さん狙い!?」

「みっ、皆川さん!!」

慌てて口を押えれば、後ろでさも当たり前のように肯定する声。

「えぇ、そうです」

「あっ、圭介抜け駆け! 俺もっ! 俺もだからね」

圭介さんに被せる様に、翔太まで言い出して。


あわあわと一人でパニックに陥っていたら。


くすり、と頭の上で微かに笑う声が聞こえてきて。

ぽん、と、頭に大きな掌が下りてきた。



「可愛い」



満面の笑顔で圭介さんにそう言われて、ぼふっと顔面真っ赤になった。


それを見て、圭介さんが目を細めて口角を上げる。

見たことのない「ニヤリ」という笑みに、頭に血が上って思わず叫んだ。



「人で遊ぶなぁっ!」



皆して、人をおちょくって!


思いっきり叫び倒すと、さすがにこっちの騒ぎに気が付いたアパートの住人に向かって私は走りだした。


「どうしたの、由比ちゃん」


神野のおばちゃんが、走りこんでくる私を目を丸くして見つめていて。

おばちゃんに縋り付きながら、後ろでこっちを見ている圭介さん達を指でさした。

「皆が苛める!」

「苛めるって」

ぽかんとしていたおばちゃんが、吹き出すように笑い出した。

「由比ちゃんは、苛められキャラだからねぇ」

……え!

「なにそれ、何そのカミングアウト!」

神野のおばちゃんに噛みつけば、周りで話を聞いていた孝美さんやほかの住人も笑い出す。

「昔からそうじゃない、ねぇ?」

「今更だよ、由比ちゃん」


うんうん、と頷く様に納得する皆をじろりと睨みつけて、傍にあった割り箸を手に取った。

「そうやって、皆して言ってればいいよ! 食べてやるー、お腹すいてるんだから!!」

「よし、食べろ!」

「由比ちゃん。これねー今作ってきたのよー」

おばちゃんの勧めに、私はテーブルに手を伸ばした。



これでいい。

これでいいんだよ、私。

楽しければ楽しいほど、幸せであれば幸せであるほど、離れる時が苦しいけれど。

それでも。


今、享受できる幸せを、受け取って。

私は、一人で生きていくんだから。


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