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きっと、それは  作者: 篠宮 楓
第5章 手を伸ばして、君が求めたものは。
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27

仲直り? をした私達は、翔太と三人で庭へと向かった。


まぁ、そこまでおかしくない時間だと思う。たぶん。

お皿洗いに、二十分。大丈夫、ありでしょ。


途中、神野のおばちゃんの声が聞こえてきて、思わず苦笑する。

「アパートの人達も、楽しそうだね」

「確かに」

くすりと笑う圭介さんは、いつもの表情。

あの、気になる視線は今は無い。

私を気にしてくれていたのに、嫌われているとか思い込んで悪いことしたな。

でも、そのおかげで思い出さなきゃいけないことに、気づけたけど。




内心、安堵しつつ、そしてこれからの事を考える。


幸せだけれど。

精一杯、幸せをもらって、自分も返そうと思うけれど。

いつでも、いなくなる覚悟をしなきゃ。




それは、圭介さんと翔太が、でも。

私が、でも。



ねぇ、圭介さん。

だから言ったでしょ?



頼ることを覚えると、弱くなっちゃうんだよって。




前、桐原主任の事で悩んでいた私に、言ってくれた言葉。




―― 一人で我慢すること、ないからね ――




それに、甘えたのが多分始まり。



―― 考える事を放棄した時、人は弱くなる。それは、現実から逃げているだけだから ――



脳裏に浮かぶ、心配そうに私を見ていた圭介さんの表情。

心に入り込む、穏やかで優しい言葉。

私の事を、心配してくれた圭介さん。



目を伏せて、ごめんなさい、と心の中で呟く。




私は、いいの。

現実から、逃げているだけだから。





「由比」


思考に沈んでいた私は、名前を呼ばれて顔を上げた。

視線の先には、歩いてくる桜と護さん。

手のひらを向けて私を呼ぶから、圭介さんと翔太から離れて駆け寄った。


近づけば、その表情は少し安堵したようなもので。

首を傾げると、桜がふんわりと笑った。

「元気になったのね、よかったわ」

こそっと私の耳元で囁いた桜の言葉に、思わず彼女を見つめた。

ぽんぽん、と頭を撫でるその温かい掌に、桜の隣にいる護さんを見上げる。

「それでこそ、学祭で教室忍び込んでた由比だな」

「ちょ、護さん!」

変なこと、言わないでよ!

このいい雰囲気を、壊さないで欲しいっ。


案の定、柔らかな表情だった桜が、胡乱気に目を細めた。

「由比、そんな趣味があったの?」

「違う! ないから!」

ほら、誤解された!

「護さん、訂正お願いします! 別に、忍び込んでないよ私!」

どちらかっていうと、閉じ込められたんだってば!

それいうと、違う問題になりそうだから言わないけどねっ。


じろりと睨み上げれば、護さんが私の頭に乗せていた手を浮かせて、じりっと後ずさった。



「そうですよ、護さん」



ひっくーい声に、びくりと顔だけ振り向ける。

そこには口元だけ微かに上げた圭介さんと、翔太の姿。

「ちゃんと訂正してくださいね、護さん。由比さんは忍び込んだんじゃないんですから。わかっていますか? 護さん」


……さんづけの名前呼びで、ここまで威圧感出せるのって相当だと思う。

だって、桜でさえ呆気にとられたように見上げてるもの。

思わず体を引いてしまった私に、罪はないと思う。


圭介さんはそんな私に少しだけ視線を向けたけれど、すぐに目の前で逃げ出しそうになっている護さんに戻した。


「謝ってください、護さん。軽はずみな言動は、教師のすることではありませんよ、護さん」

「いっ、いちいち語尾に名前足すなよ! 敬語もやめたんじゃなかったのか!」


しっぽを足の間にしまって怯えながらも吠えようとしている、ドーベルマンがいます!

あ、護さんそこまできりっとした人じゃないや、ドーベルマンごめんなさい。



「やはり、護さんには敬語が一番効果的だと思いますので」

「だねー」


圭介さんの後を次いで会話に入ってきた翔太が、のほほんとした表情で護さんを見上げる。

護さんは逃げ腰になっていたけれど、相手が翔太だからか少し表情を和らげた。

「じゃあじゃあ、忍び込んだんじゃないなら、なんで準備室から出てくるんだよ」

げ。

今更、それ問題になるの?

だったらまだ、忍び込んだって事にして置いた方がいい気がするよ!

すると、圭介さんが私を見てふっと目を細めた。




「私が、閉じ込めたんですよ」


こっそり更新。


大変お待たせいたしました。

前よりは更新速度は落ちますが、再開させて頂きます。

どうぞよろしくお願いいたします。


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