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きっと、それは  作者: 篠宮 楓
第5章 手を伸ばして、君が求めたものは。
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23

由比の部屋へと入って行く翔太の後姿を見ていた圭介は、桐原の抑えた笑い声に引き戻された。

顔を向ければ、面白そうに笑いを堪えていて。

思わず眉間に皺を寄せれば、桐原は笑いをおさめて口端を上げる。


「ホント、あんたでもポーカーフェイス崩れんだな。ちゃんと謝れよ、上条、可哀想なくらいびくびくしてたから」

圭介はその言葉に、困惑したように視線を迷わせた。

「そんなに、ですか」

確かに、避けられているとは感じていたが、怯えさせていたとは……。

自己嫌悪に陥りそうになりながら、圭介は桐原を見つめた。


「別に、他の奴らはそこまで気がついちゃいないと思うけど。ほら。俺は、上条が好きだから」

「……」

圭介の視線が、険を含む。

その変化に桐原は我慢できないとばかりに、腹を抱えて笑い声を上げた。

「感情って、そうそう抑えられるもんじゃねーんだな。振られたって、俺は上条がまだ好きだ。いけないか? ってかさ、振られた俺にそこまで分かりやすい視線向けられても、反対に笑っちまうんだけど」

甚も簡単に自分の気持ちを口にする桐原を、圭介はじっと見据える。


暗い、感情。

桐原に対する、嫉妬心。


噴出しそうな気持ちを、なんとか表情の下に押し込めて。

「人の気持ちは、自由ですから。私が何か言える立場では、ありません」

「教師的模範解答を、どーも。そうだな、自由だからな。でもさ、そう言えるなら、……なぁ遠野」

桐原は笑みの消えた顔で、圭介を見据える。

「くだらない嫉妬で、上条、怯えさすなよ」

いいたい事はそれだけだ、と続けて桐原は圭介に背を向けた。

「あぁ、でも――」

そうしてアパートの階段を降りようとした時、思いついたように桐原が顔だけこちらに向ける。

「同い年だってのにいやに達観してやがると思ってたから、今日は人間臭くてけっこう愉快だったけど。俺にしてみれば」


それ以上は何もいわず、階段を降りていった。





庭へと歩き去る足音が聞えなくなってから、圭介は部屋へと戻った。

仮に由比が部屋から出てきた場合、廊下に自分がいるのは得策ではないと考えたからだ。

庭に面した和室に入り、ごろりと畳の上に寝転がる。


「怯えさせてた、か」


ぽつりと呟いて、溜息をついた。


今日は朝から、由比に避けられているという自覚があった。

話しかけても、傍にいても、どこか態度が素っ気無い。

それが自分の所為だったとは、気がつかなかった。


ぎゅ、と瞼の上に手の甲を押し当てる。


怯えさせたかったわけじゃない。責めていたわけでもない。

ただ、由比を求める気持ちが、桐原の存在で強くなっていた。

どうしたら、由比を自分のものにできるのか、そんな事を考えていた。

だからここ最近、つい向けてしまっていた恋情を、由比は感じ取って……怯えさせてしまった。


昨日は普通に笑ってくれていたのだから、なんらかのきっかけで、今朝気がついてしまったんだろう。



翔太からの好意を、本当の意味ではないにせよ笑って受けとめる由比。

桐原からの好意を、受け入れられず泣いていた由比。


どちらに対しても、由比はちゃんと気持ちを相手に見せているのに。

受け止めて、答えを返しているのに。

自分からの好意に対しては、怯えられる。

向けるその気持ちから、逃げられる。



「私は、恋愛対象外でいた方がいいんだろうか」

家族ごっこの範疇で。

由比の望む、優しい兄であった方がいいんだろうか。


ふ、と。

泣いていた由比の姿が、脳裏を掠める。

微かに痛んだ胸を片手で押さえて、圭介は深く息を吐き出した。


自分を、見て欲しい。

自分だけを見て欲しい。


由比の望む兄の立場で、彼女が幸せになるのを見ていたくない。




圭介はもう一度息を吐き出して腹筋に力を入れると、ぐっ……と身体を起こした。

立てた膝に、肘をついて頬をのせる。

見つめた視線は、すぐ傍の壁……の向こう。由比の部屋。

その目は、今までに自分でも感じた事のないほどの熱を孕んでいて。


「おにいちゃん……、ね」


さっき、お兄ちゃん、と自分を呼んだその声が脳裏を掠める。

自嘲気味な笑みを浮かべて、何かを吹っ切るように息を深く吐き出した。



「……ごめん、由比さん」



由比がどんなに望もうと、それは叶えてあげられない。



「……好きだよ」



俺の腕の中で、大切にしたい――



桐原を牽制しようとして、反対に煽られた圭介の図(笑

ていうか、書くのが恥ずかしかった><

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