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篠宮です、どもです^^
ご無沙汰しております。
落ち着いてまいりましたので、少しずつ更新していきたいと思います。
お待たせして、大変申し訳ございませんでした。
その後に始まった食事会は、思った以上に楽しかった。
手巻き寿司ならぬセルフサンドウィッチもすぐになくなり、作り置いておいたおかずも出したけれど時間が立つにつれてお酒が回ってきた皆川さんがおつまみを作る! と言い始め。
それを手伝うついでに少しだけ残ったおかずを味を変えてもう一度出してみたりと(貧乏レシピ)、なんていうか忙しくて楽しかった。
「由比さん、飲み物買ってこようか?」
桜と話していた私は、いきなり後ろから掛けられた声に動きを止めた。
不必要なほど、高鳴る、鼓動。
それを押さえ込むように、胸元で右手を握りこむ。
不思議そうに私を見る桜の視線を気にしないように、意識を切り替えてから後ろを向いた。
そこには、クーラーボックスの傍でしゃがんで、私を見上げる圭介さんの姿。
「えと、何?」
少し後ろに下がってから問い返すと、圭介さんは首を傾げつつ同じ言葉を繰り返してくれる。
「飲み物が少なくなってきたから、そこのコンビニで買ってこようかって」
「飲み物?」
そういいながら、クーラーボックスを覗き込む。
言われてみれば、確かに炭酸系が減っている。
あと、ビール。
運転する桐原主任と護さん、普段からあまり飲まない圭介さんや未成年の翔太を抜かすから少なめに入れておいたけれど、足りなかったらしい。
って、飲んでるの皆川さんと工藤主任だけだ。
それで、足りなくなるとか。
思わず笑いそうになった口元を引き締めて、頭を振る。
そうして、圭介さんに告げた。
「私、買いに行って来るね」
持っていたお皿をテーブルに置こうとすると、立ち上がった圭介さんに止められた。
「いいよ、私が行ってくる。重いから」
ぽん、と肩に手を置かれて体が強張る。
普通にしなきゃ、普通に……!
脳内でそう自分に言い聞かせてみたけれど、体は簡単にいう事を聞いてはくれず。
おかしな態度に気がついたのか、肩に手を置いたまま圭介さんが怪訝そうな表情で私を見下ろした。
「由比さん?」
その声に、圭介さんの手からゆっくりと逃れる。
「私行く! 甘いものは別腹なんですよ、圭介さん!」
では! と意味もなく敬礼をすると、私はその場から駆け出した。
後ろから私はプリン~と声を上げる桜に、手を上げて答えながら。
でも、後ろは向けなかった。
圭介さんは、どんな表情をしているんだろう――
普通にしようとすればするほど、おかしな態度になっているのは自覚してる。
どう考えたって、圭介さんに対して挙動不審になってる。
もしかしたら、私が過敏すぎるだけなのかもしれないのに。
それでも、……それでも圭介さんから向けられる視線が、どうしても気になって仕方がなくて。
罪悪感でいっぱいになりながら駆けた先の、コンビニの自動ドアを慌ててくぐった。
往復十分も掛からないコンビニから帰ってきた私を迎えにきたのは護さんで、アパートから少し離れた場所でかち合った。
「あぁ、コンビニまで間に合わなかった。重かっただろー」
「あれ? 護さんも何か食べたい物が?」
「いや、桜さんに”女の子一人で行ってるの、可哀想だと思いません?”って、言葉なく強制された」
迎えに行けと、そう屈託無く笑って私の手から袋を取り上げる。
「あ、持ちますって」
慌てて手を伸ばせば、やんわりと押し返された。
「三十歳のおっさんにまかせなさい。まだまだ、若者には負けないさー」
にやりと笑うその仕草に、思わず笑い声を上げた私の頭をぽんぽんと宥めるように叩く。
「撫でやすいなぁ。この頭」
そう言って、なでなでと前後に掌を滑らせる。
「ちょっと、何するんですか護さん!」
その手を避けようと頭を振れば、護さんは笑いながらそれを退けた。
「いや、前に圭介がやってるの見たからさ」
撫でやすい……
その言葉に、何かが、ちくりと心に刺さった。
「撫でやすい、ですか」
ちくりと痛みを上げた胸を手で押さえながら、護さんを見上げる。
少し複雑そうな表情を浮かべた護さんは、そうだなぁと前を向いた。
「撫でやすいだけが、理由じゃないと思うけど」
「え?」
言い方が気になって、思わず問い返した。
それは、どういう?
ちらりと視線だけ私に向けた護さんはふっと口元を緩めると、がしがしと片手で私の髪をかき混ぜた。
「なぁなぁ、桜さんって彼氏いる?」
「は? もしかして、それ聞く為に……」
迎えに来たんですか? そう続けたら、満面の笑みで頷かれた。
「流石に、桜さんの前じゃ聞けないし!」
「って、うーわー。三十男の恥らう姿とかって、見ててこっちが恥ずかしい……」
どん引きしそうな護さんの姿に、顔が引き攣る。
けれど護さんは一向に気にする事も無く、照れたように笑った。
「迷惑掛けないし! 由比ちゃん、おーしーえーてー」
語尾に音符でもついていそうなその声に、思わず笑ってしまったのは言うまでもない。