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きっと、それは  作者: 篠宮 楓
第5章 手を伸ばして、君が求めたものは。
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18


「おーい、上条! 少しは、出迎える素振りとか見せねぇ?」

その声に、すっかり皆の事が頭から抜け落ちていた事に気がつく。

慌てて声のするほうを振り返ると、工藤主任と皆川さんを先頭に四人が歩いてきた。

各々、荷物を持って。


「上条さん、今日はありがとうね! 凄い楽しみにしてきたのよ」

これ差し入れー、と荷物を置くために出しておいたレジャーシートの上に、どさどさっと手に持っていた袋を置く。

「こんなにすみません。丁度準備ができたところだったから、よかった」

「わぁ、おいしそう! ちょっと凄いじゃない」

私の言葉にウッドテーブルを見た皆川さんが、感嘆の声を上げる。

「私ひとりじゃなくて、皆で作ったんですけどね」

「そう! ちょっと早く紹介して! 何このきらきら兄弟。ちょっと目が痛いんだけど」


……今、さらりと溝口先生はずしましたよね。

目線、圭介さんと翔太にしかむいてなかったですよね。


溝口先生が突っ込んできそうだなと思ったけれど何も聞えてこなかったので首を傾げたら、我慢できなかったのかテンションが高いのか皆川さんが圭介さんの前に立った。

圭介さんの身体が少し引き気味に見えたけど、スルーしておこう。


「私、上条さんと同じ会社の皆川 紗都です! 二十七歳! あ、でも今年二十八歳になりますけどね!」

あぁぁ、大人の女、皆川さんのイメージが崩れて行く……

そこでふと気付いて工藤主任に視線だけ向けると、……固まってるし。

圭介さんはすぐにいつものふんわり笑顔に戻って、口を開いた。

「由比さんがいつもお世話になっています。隣に住んでいる遠野です。私とは同い年ですね? そういえば翔太とはもうお会いになっているとか」

「お久しぶりです、皆川さん」

圭介さんの言葉を継ぐように、翔太がきらきら可愛い表情で皆川さんに頭を下げる。


……今日は猫かぶり翔太でいくらしいです。

久しぶりに見るかも。


挨拶している三人の傍に工藤主任が歩いていって、同じ様に自己紹介をしている。

なんかそこに変なオーラが入っちゃってるのは、意味なく嫉妬しているんですね?

そして皆川さんは、あっさりスルーしているわけですね?


そんな四人を桜と一緒に生暖かく見ていたら、桐原主任が隣に立った。


「今日は悪いな」

「いいえ、口にあえばいいんですけどね」


そこまで言って、桐原主任が視線を私から外す。

「遠野と翔太は知っているが、もう一人の人は?」

「あ……」

そこで、まだ溝口先生を紹介していないことに気がつく。

なんか勝手に話していそうな雰囲気だから、すっかり忘れてた。



そんな事を考えながら、溝口先生を見たら。

「……?」

口をぽかんと開けて、こっちを見ていた。

あれ? 名前知らないとか言われて、茫然自失? いや、そんな人じゃないか。

首を傾げながら溝口先生の傍に行ったけれど少しも反応してくれないので、不思議に思いつつ声を掛けてみた。


「あの、溝口先生?」

「……ゆいさん、大変だ」


ぼそりと返ってきた言葉は、至極真面目な声音で。

大変という言葉に、何かあったのかと眉を顰めた。


「どうしたんです? 溝口先生?」


不安になってもう一度声を掛けると、ふらりと溝口先生が立ち上がる。

「俺、ちょっと目がおかしくなってるのかも。だって、そこに天使が……」

「はぁ?」

天使? おかしいのは頭の方じゃ……いやいやいや。

一人突っ込みをかましていた私は、いきなり歩き出した溝口先生の後を慌てて追った。


「どうしたんですか、ちょっと!」

皆も何事だと話を止めてこっちを見ているらしく、しんとした空気の中、溝口先生の歩く足音だけが聞えて。


そして止まったのは、桜の前。


「圭介の同僚の、溝口 護です。あの、あなたは……」


みぞぐち まもる


初フルネーム!



後ろの方で圭介さんがそうだそうだと呟いた声は、とりあえず流そう。

この状況で名前思い出したとか、さすがに言い出す場所じゃないし。


って、桜……桜かぁ!


やっと溝口先生の行動の意味がつかめて、思わず片手で口元を覆う。


桜は一瞬無表情になったけれど、笑みを浮かべて小さく会釈をした。

「都築 桜です。由比と同期の」


「……桜、さん」


うわっ、熱に浮かされたようなその口調!


今までに何度か見てきた光景に、わくわく感が半端ない。


溝口先生はぎゅっと拳を握って思い切るように、桜を見つめた。

この後の行動を想像してどきどきしていたけれど。

「……」

何も、言わない。

皆が大注目中だけど、溝口先生は気付いていない。

桜は思案顔で、私の方に視線を向けてきた。


多分、どういう対応をした方がいいのか、確認したいんだろう。

思いっきり毒づいていいのか、それともやんわり避けた方がいいのか。

とても心惹かれる想像ができたけれど、一応やんわりの方でお願いしてみた。


大体好意を持ってくれた相手に毒づくことはないけれど、あまりしつこいとそれ相応に返すから。

今回は私の知人としてここにいる人……溝口先生が相手だから、もし毒づいた場合私に迷惑が掛かるか考えたんだろう。


毒づかれた溝口先生がどうなるか見てみたい気がするけれど、さすがに私は翔太のように腹黒ではない。

だって、翔太。多分桜に対して、同じ匂いを嗅ぎ付けてるんだろうね。

すっごい楽しそうに、成り行きを見守ってるから。


しかし、溝口先生が何も言わないと、桜も対応しかねると思うんだけど。


桜も私から視線を戻して溝口先生を不思議そうに見上げていたけれど、小さく息を吐き出した。

あ、一瞬の無表情を垣間見ました!

桜、面倒くさくなっています。



桜は微笑をキープしたまま、料理の並ぶテーブルに目を向けた。

「溝口さん……あ、失礼しました、溝口先生とお呼びするべきかしら」

困惑気味の視線に、溝口先生は盛大にどもる。

「いえっ、あの……俺、護っていいます」

さり気に下の名前呼びを強請ってる!

再び一瞬無表情になった桜は、にこりと笑ってそうですかと頷く。

「けれど初対面でお名前を呼ぶのは失礼に当たると思いますので、溝口さんでもよろしいでしょうか?」

「あ、はいっ」

見るからにしゅんとしたけど、仕方ないよ! 溝口先生っ。

桜は名前呼びしないからね、男の人に対しては。


「溝口先生もお作りになったんですか?」

「いえっ、俺は、その……力仕事、で」

「そうなんですか? なら、お疲れでしょう? ありがとうございます」


なぜか、ほのぼのとした会話が繰り広げられている。

そのまま話し始めた二人を見て、桐原主任がぽつりと呟いた。

「溝口、で、いいんだな」

「いいんじゃないでしょうか、呼び捨てで」

桜に名前呼びを要求するくらいだから、気にならないんじゃないですかね。


そんな感じでぼけーっと桐原主任と見ていたら、横から声が掛かって二人してそちらに顔を向けた。



「お久しぶりです、桐原さん」



それはいつもより強い意思を視線にのせた、圭介さんだった。



溝口先生のフルネームは、溝口 護でした。

書き手も今知った……(笑

今日は長めにしてみました。

読みにくかったらご指摘頂ければ幸いです。

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