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「どっちとも付き合っていません!」
即答してくるりと踵を返す。
今、そーいう冗談は聞きたくないんですがっ。
まったくと息巻きながら、手に持ったままだった台布巾をウッドテーブルに置いた。
「あんまりそーいう事、言わないで下さい。二人から敬遠されちゃったらどーするんですか」
「えー、そんなことないでしょ。っていうか、遠野先生。付き合ってるんじゃないの?」
不思議そうに問いかけてくる溝口先生を、圭介さんは何も言わずにただ笑みを浮かべる。
溝口先生はそれじゃあと、翔太を見た。
「翔太の方?」
「俺は、それを望む!」
元気いっぱい手を上げる翔太に、思わず肩から力が抜けた。
今日は翔太に助けられてるなぁ、色々と。
本人、気付いてないだろうけど。
「翔太ってば、可愛いこと言ってくれるんだから」
「またそれかよー」
ぽんぽんと頭を叩くと、アパートの駐車場に一台の車が入ってきた。
少し大きめのその車の助手席から、工藤主任の姿が見える。
「あ、皆が来た」
翔太から手を離して車に体ごと向くと、伝えておいた空いている駐車スペースに車がゆっくりと停まった。
「おー、あれがゆいさんの会社の人」
溝口先生が手の埃を払いながら、腰を上げた。
「あ、溝口先生、どうぞ」
手拭を渡すと、溝口先生が気付いたようにそうだと呟いた。
「溝口先生はやめない?」
「え?」
「だってさー、仕事してるみたいなんだよね。こいつもいるし」
そう言って、がしりと翔太の頭を掴む。
「こいつって何!」
「それにほら、こっちもいるでしょ?」
翔太の叫びを無視して、空いている右手で圭介さんを指す。
「遠野先生、お互い先生つけるのやめません? 俺も圭介って呼んでいいですかね。タメ口でいいから」
ゆいさんもさ、と。
圭介さんは少し逡巡しながら、ふむ、と呟いた。
「……なんだか複雑な気持ちですが、そうしますか。さすがにプライベートで敬語に尊称付けは面倒な気がします」
圭介さんは是と返しながら、しかし……と難しい顔をした。
「大変な問題が、一つあります」
「あ? やっぱ年上に敬語はきついか?」
きょとんとした溝口先生に、圭介さんはそれはまったくと頭を振った。
「溝口先生の名前、知らない」
しーん
静まり返った瞬間、翔太まで知らないと言い出した。
「まじで!? 六年も隣の席に座っといて、先輩教師の名前しらねぇってか!」
「え、ホントに? 圭介さん、冗談でしょ?」
さすがにそれはないよね、という目で見上げれば、思いっきり真面目な表情で否定された。
「至極、朧げ」
「端的に言うなよ、文系教師! 俺泣くぞ?!」
ちょっと泣きそうな溝口先生が、大変面白い。
うん、圭介さん達が苛めて遊ぶ気持ちが分かった気がする。
1話分の文字数、少ないですかね。
少し前まで3000文字前後で更新してたんですけど、読みにくいかなと思って、今は1200~1500文字位にしてるんですが……。
今度は少なすぎだろうか……。
なんとなく、今の悩み。