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スーパーのタイムサービス、間に合いました!
卵一人一パック¥98!
ひき肉、百グラム¥68!
キッチンペーパー 一人二点まで¥98!
五箱BOXティシュ¥178!
これが目当てでした。
三人で行ったおかげで、大変効率よく大漁買いできて幸せ。
車が、アパートの駐車場に止まる。
とても安全運転な、安心できる道のりでしたよありがとうございます圭介さん。
内心手を合わせながら、車から降りた。
「ありがとうございます、圭介さん。かさばるものばかりだったから、凄く助かりました」
トランクから荷物を出していた圭介さんは、それを翔太に持たせながらこちらこそと笑う。「いい買い物が出来たよ。なんせうちには食べ盛りの高校生がいるから、節約しないとね」
「あぁ、確かに」
教師のお給料がどの程度かは知らないけれど、男二人って食費かかりそうだもんなぁ。
「早く行こうぜ、腹へってんだって」
両手に荷物を抱えた翔太は既に階段に足をかけていて、少しイライラしているのが見て取れる。
お腹すくと、誰でもイライラするよね。確かに。
圭介さんと翔太の後ろから、階段を上る。
「翔太、駅からの道は大体覚えたのか?」
「ん? あぁ、なんとなく」
先を行く翔太が、振り返りもせずに答える。
「明日から自転車で駅までいける、大丈夫」
「あぁ、道がうろ覚えだったから、圭介さんが駅まで迎えに来たんですね」
私の言葉に圭介さんが頷いた。
「学校から乗せればよかったんだけど、駅に着いてから翔太が連絡してきたから。でもそのおかげで買い物できたし、よかったかな」
「前向きですね」
くすくすと笑いながら、自分の部屋の鍵をバッグから取り出した。
翔太は既に私の部屋の前で、荷物を持って待っている。
「あぁ、そうだ由比さん」
キーケースを手にした圭介さんが、ドアの前で私を見下ろした。
「なんですか?」
「敬語、お互いに止めようっていったよね?」
ふわりと笑うその顔は、……ある意味凶悪ではないでしょうか。
「おーい、由比! 早くー、手、ちぎれるー」
思わず固まった私は、翔太の声に飛び上がった。
「う、はいっ。……その、はい」
上では、くすくすと笑う声がする。
余計顔に血が集まりそうで、私は目を逸らした。
とにかく頷いて翔太の待つ自分の部屋のドアまで、早足で駆け寄る。
後ろでは、部屋に入る音。
くっ、あの笑顔にやられる女生徒の気持ちが分かるっ!
「ごめん、翔太。すぐに開けるから」
顔が赤いのは、駆け寄ったからだよと主張するように呼吸を早めた。
いや、ホントはそうじゃなくても呼吸が速いんだけどね。
ついでに鼓動もね。
急いでドアを開けると、玄関先に買った荷物を置いてくれた。
それにお礼を言って翔太が出て行くのを、ドアを押さえながら待つ。
「ね、由比」
玄関から外に出ようとした翔太は、何を思ったのか私が押さえているドアを左手で掴んだ。
「?」
なんだろうと顔を上げると、反対の右手が壁に置かれる。
ドアと翔太に挟まれた格好に、首を傾げた。
「……何?」
圭介さんより低いとはいえ、百五十そこそこの私から見れば結構高い。
そんな所から見下ろされれば、ちょっとした威圧感があるんですが。
でも、怖さを感じないのはさんざんからかわれたから。
翔太はじっと上から私を見下ろしていて。
真面目に見えるその表情に、眉を顰めた。
「翔太、どうしたの?」
「さっきの。彼氏?」
出てきた言葉は、あまりにもなものでした。
「ない、ありえない。絶対ない。ていうか、想像されるだけでも私への冒涜」
「……え?」
昼のやり取りを思い出して、一気にイライラしてくる。
「あの人は、確実に私の敵。抹殺対象。――なんで?」
ぶつぶつ文句を言い募ってから疑問を口にすると、面白そうに翔太が笑い出した。
「そりゃ、あの人もかわいそうに。由比ってそーいえば彼氏っていないの?」
「……悪かったわね」
はっきりと答えるのが嫌で、悪態が口をつく。
翔太はまだ笑いを抑えられないまま、上体を少し屈めて私と目線を合わせた。
「いたら、圭介相手に真っ赤になんてならないか」
「……っ、うっうるさいわねっ。だから、免疫少ないっていってるでしょ!?」
おもいっきり図星を指されて余計顔が赤くなる。今度は羞恥心と怒りとで。
「さっきの人と、俺は平気なのに」
ゆっくりと両手を下ろす翔太は、そのままドア枠に背中をつける。
圧迫感みたいなのがなくなって、肩から力が抜けた。
いくら子供とはいえ、上から見下ろされると圧迫されて嫌だ。
「だって、抹殺対象と子供相手じゃ、赤くなる事なんてありえない」
「また、子供子供言う。大人に片足くらいは突っ込んでるっての」
頬を膨らませて口を曲げるこいつに、大人を語ってほしくないと思う。
そう言ったら、機嫌が悪くなるのかな。
笑っちゃいけないと思いつつ緩む口元を何とか押さえて、玄関に入った。
靴を脱いで上がると、まだそこにいる翔太を振り返る。
「鳥肉の味噌漬け、圭介さんと一枚ずつでいい? あとで焼いて持っていくから」
「え、マジでいいの!? やった!」
ふてくされていた顔が、一気に満面の笑みに変わった。
可愛い顔が笑うと、なんとも眩しい。
きらきらしてます、背景に何か見えそう。
「帰りに車に乗せてもらったお礼。圭介さんにも伝えておいて? おかず作る量が変わるかもしれないから」
「うん!」
元気よく返事をして、翔太は隣の部屋に駆け込んでいった。
あまりの勢いに呆気に取られた私は、思わず噴出して大笑いしてしまったのは言うまでもない。