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きっと、それは  作者: 篠宮 楓
第2章 びっくりの法則
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スーパーのタイムサービス、間に合いました!


卵一人一パック¥98!

ひき肉、百グラム¥68!

キッチンペーパー 一人二点まで¥98!

五箱BOXティシュ¥178!


これが目当てでした。

三人で行ったおかげで、大変効率よく大漁買いできて幸せ。



車が、アパートの駐車場に止まる。

とても安全運転な、安心できる道のりでしたよありがとうございます圭介さん。

内心手を合わせながら、車から降りた。


「ありがとうございます、圭介さん。かさばるものばかりだったから、凄く助かりました」

トランクから荷物を出していた圭介さんは、それを翔太に持たせながらこちらこそと笑う。「いい買い物が出来たよ。なんせうちには食べ盛りの高校生がいるから、節約しないとね」

「あぁ、確かに」

教師のお給料がどの程度かは知らないけれど、男二人って食費かかりそうだもんなぁ。


「早く行こうぜ、腹へってんだって」

両手に荷物を抱えた翔太は既に階段に足をかけていて、少しイライラしているのが見て取れる。

お腹すくと、誰でもイライラするよね。確かに。

圭介さんと翔太の後ろから、階段を上る。

「翔太、駅からの道は大体覚えたのか?」

「ん? あぁ、なんとなく」

先を行く翔太が、振り返りもせずに答える。

「明日から自転車で駅までいける、大丈夫」

「あぁ、道がうろ覚えだったから、圭介さんが駅まで迎えに来たんですね」

私の言葉に圭介さんが頷いた。

「学校から乗せればよかったんだけど、駅に着いてから翔太が連絡してきたから。でもそのおかげで買い物できたし、よかったかな」

「前向きですね」

くすくすと笑いながら、自分の部屋の鍵をバッグから取り出した。


翔太は既に私の部屋の前で、荷物を持って待っている。

「あぁ、そうだ由比さん」

キーケースを手にした圭介さんが、ドアの前で私を見下ろした。

「なんですか?」

「敬語、お互いに止めようっていったよね?」

ふわりと笑うその顔は、……ある意味凶悪ではないでしょうか。


「おーい、由比! 早くー、手、ちぎれるー」

思わず固まった私は、翔太の声に飛び上がった。

「う、はいっ。……その、はい」

上では、くすくすと笑う声がする。

余計顔に血が集まりそうで、私は目を逸らした。

とにかく頷いて翔太の待つ自分の部屋のドアまで、早足で駆け寄る。

後ろでは、部屋に入る音。


くっ、あの笑顔にやられる女生徒の気持ちが分かるっ!


「ごめん、翔太。すぐに開けるから」

顔が赤いのは、駆け寄ったからだよと主張するように呼吸を早めた。

いや、ホントはそうじゃなくても呼吸が速いんだけどね。

ついでに鼓動もね。

急いでドアを開けると、玄関先に買った荷物を置いてくれた。

それにお礼を言って翔太が出て行くのを、ドアを押さえながら待つ。

「ね、由比」

玄関から外に出ようとした翔太は、何を思ったのか私が押さえているドアを左手で掴んだ。

「?」

なんだろうと顔を上げると、反対の右手が壁に置かれる。

ドアと翔太に挟まれた格好に、首を傾げた。

「……何?」


圭介さんより低いとはいえ、百五十そこそこの私から見れば結構高い。

そんな所から見下ろされれば、ちょっとした威圧感があるんですが。

でも、怖さを感じないのはさんざんからかわれたから。


翔太はじっと上から私を見下ろしていて。

真面目に見えるその表情に、眉を顰めた。

「翔太、どうしたの?」

「さっきの。彼氏?」

出てきた言葉は、あまりにもなものでした。

「ない、ありえない。絶対ない。ていうか、想像されるだけでも私への冒涜」

「……え?」

昼のやり取りを思い出して、一気にイライラしてくる。

「あの人は、確実に私の敵。抹殺対象。――なんで?」

ぶつぶつ文句を言い募ってから疑問を口にすると、面白そうに翔太が笑い出した。

「そりゃ、あの人もかわいそうに。由比ってそーいえば彼氏っていないの?」

「……悪かったわね」

はっきりと答えるのが嫌で、悪態が口をつく。


翔太はまだ笑いを抑えられないまま、上体を少し屈めて私と目線を合わせた。

「いたら、圭介相手に真っ赤になんてならないか」

「……っ、うっうるさいわねっ。だから、免疫少ないっていってるでしょ!?」

おもいっきり図星を指されて余計顔が赤くなる。今度は羞恥心と怒りとで。

「さっきの人と、俺は平気なのに」


ゆっくりと両手を下ろす翔太は、そのままドア枠に背中をつける。

圧迫感みたいなのがなくなって、肩から力が抜けた。

いくら子供とはいえ、上から見下ろされると圧迫されて嫌だ。


「だって、抹殺対象と子供相手じゃ、赤くなる事なんてありえない」

「また、子供子供言う。大人に片足くらいは突っ込んでるっての」

頬を膨らませて口を曲げるこいつに、大人を語ってほしくないと思う。

そう言ったら、機嫌が悪くなるのかな。

笑っちゃいけないと思いつつ緩む口元を何とか押さえて、玄関に入った。

靴を脱いで上がると、まだそこにいる翔太を振り返る。

「鳥肉の味噌漬け、圭介さんと一枚ずつでいい? あとで焼いて持っていくから」

「え、マジでいいの!? やった!」

ふてくされていた顔が、一気に満面の笑みに変わった。

可愛い顔が笑うと、なんとも眩しい。

きらきらしてます、背景に何か見えそう。


「帰りに車に乗せてもらったお礼。圭介さんにも伝えておいて? おかず作る量が変わるかもしれないから」

「うん!」

元気よく返事をして、翔太は隣の部屋に駆け込んでいった。


あまりの勢いに呆気に取られた私は、思わず噴出して大笑いしてしまったのは言うまでもない。



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