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きっと、それは  作者: 篠宮 楓
第5章 手を伸ばして、君が求めたものは。
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その表情は、呆れ半分で。

「由比さん、お人よしすぎだよ。大変でしょう、そんな人数のご飯作るの」

心配半分。

そう言ってくれる気持ちは嬉しいけれど。本当に嬉しいんだよね、私。


「心配してくれてありがとう。でも、献立とか考えるの、楽しいと思うんだよね」


だって、もし全員来るなら八人分。

いつもなら作れないような大皿料理、たくさん食べられそうだもんなぁ。

顔がにやけていたらしい。

翔太がくすくす笑いながら、私の頬に指を押し付ける。

「楽しそうだね、由比ってば。それっていつなの?」

その指を片手で押し返しながら、皆川さんが決めた第三希望までを伝える。

「よっぽど由比のご飯食べたいんだねぇ。第三希望までって」

「まぁそれもあるけど。前に会った皆川さんて覚えてる?」

「あぁ、桐原さんが由比に告白した時に、一緒にいた人?」


……また、懐かしい話を……


その後の騒動の事を考えると、大変落ち込む過去なのですが……。

思わず肩を落とすと、

「そうなの?」

意外そうな声を上げて圭介さんが、呟いた。

翔太はなんでもないように、笑いながら頷く。

「そ。びっくりしたよ、目の前だったし」

「ちょっと、翔太……」

それをなんとなく止めつつ、新たな事実に血の気が引いた。


翔太、圭介さんに言ってなかったんだ。

私も言ってないから、圭介さんにとっては初耳ってことで!

しかもその後のごたごたで落ち込んでいた時、圭介さんに慰めてもらったわけで!

理由は知らなくても、桐原主任がらみって事は気づいていたみたいだし!


結論=この話は流すに限る!


「由比さん」


掛けられた言葉に笑みを返すと、早口でまくし立てた。

「昔のこと昔のこと! 忘れなさい、翔太」

「由比さ……」

「で、その皆川さんが翔太と圭介さんに会ってみたいって言っててね? ほら、翔太とは会ったことあるけど、圭介さんとはないから。そんな不純な動機も入ってるので、断ってくれて全然OK!」

翔太を見ながら言っていた言葉を、最後は圭介さんに向ける。

そうそう、顔のいい方々はそんな理由で会いたいなんていい気持ちはしないだろう。

皆川さんの機嫌は損ねるかもしれない&溝口先生には悪いけど、断って欲しくなったかも!


考えてなかったー。

そういえば、圭介さん、桐原主任にあんまりいいイメージ持ってないよね。

すっかり過去のことだったよ。


箸を持ったまま目を細めた圭介さんは、いつもより無表情気味に翔太に顔を向けた。


「……翔太、お前はいつなら大丈夫だ?」

え?

「んー、全部平気」

あれ?

「なら、第一希望になってる、来週末の土曜でいい?」

あらら?

「うん、いーよ。溝口先生には聞かなくっていいのかよ」

ちょっ……

「由比さんのご飯を食べられるのに、日にちを選ぶなんてことさせない」

うわ、黒いっ


……じゃなくて。



「えっとー、参加決定?」

いつの間にか食事会参加方向で、話が進んでいますが。

二人を横から眺める椅子に座る私は、箸を持ったままの手で首の後ろを押さえる。

すると二人は満面の笑みで、あたりまえだよ、と頷いた。


「いつも由比さんが、お世話になってるわけだしね。溝口先生も喜ぶよ」

え、あれ? さっきまで溝口先生の参加、拒否してましたよね?

圭介さんの言葉に首をひねれば、

「久しぶりにちゃんと話したいし、桐原さんに」

桐原主任と話したいと言う翔太の言葉に、余計ハテナマークが増えていく。



そう言えば、と圭介さんが疑問を口にする。

「当日、皆さんは何で来るの? 駅まで迎えに出ようか?」

穏やかないつもの態度に戻った圭介さんの言葉に、小さく頭を振って遠慮した。

「桐原主任が車で、ここまで連れてきてくれることになってるんだ」

「ここ、知ってるの?」

驚いたような声に、うんと頷いた。

「場所の確認の意味も込めて、前の食事会の時にここまで送ってもらったから」

「……あぁ。そっか」

ん? 今、変な間がなかった?

夕飯を再開していた私は、違和感のある間に箸を口に入れたまま顔を上げた。

目があった圭介さんは、なぜか嬉しそうに目元を緩めている。

「じゃぁ、早めに溝口先生を連れてきて準備を手伝だって貰おう。翔太、楽しみだな。何作ろうか」


あれ? なんか、え?


「あー、俺、シチュー食いたい」

「夏だよ、今」

ね? と私に問いかける圭介さんに、浮かんでいたもやもやをよく分からないまま気のせいだと意識的に消す。

「翔太はシチュー好きだよね。クラムチャウダーとかなら、夏でもおかしくないかもね」



一緒に作ろうと笑いあうと、私達は当日の献立を話し合いながら賑やかな夕食を終えた。



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