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きっと、それは  作者: 篠宮 楓
第5章 手を伸ばして、君が求めたものは。
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それから数日間、私達は人事課の手伝いに勤しんだ。

最初に休んだ夏バテの社員さんは、週中には復帰してくれたけれど。

夏風邪の社員さんはこじらせてしまったらしく、一週間、医者から安静を言い渡されたらしい。

そんな社員さんもすでに出勤してきていて、人事課の手伝いも週末までと決まった。

そして、食事会の日にちも決まった。

目の下の隈が痛々しい皆川さんは、それでも嬉々として日にちを決めていました。

それこそ第三希望まで。


……そこまで、圭介さんに会いたいか


「ひゃっふー、上条さんのご飯ーっ!」


……いや、ご飯が目当てですか







「遅くにごめんなさい、圭介さん」

残業で遅くなった私を迎えに来た圭介さんの車に乗り込みながら、私は溜息混じりに呟いた。

運転席でハンドルに軽く片手をそえたまま、圭介さんが苦笑する。

「大変そうだね、最近は。ずっと残業続きだから」

「仕方ないけどね、さすがに一週間以上こんなのが続くと結構くるかなー」

肩を竦めてもう一度溜息をつくと、シートベルトを引っ張って装着した。

それを待って、圭介さんはゆっくりとアクセルを踏む。

微かに感じる重力に背中をシートに押し付けられながら、膝に置いた鞄を両手で抱えた。

「でも、今週末までの辛抱だし。夕飯も迷惑掛けっぱなしでごめんなさい」


最近は残業が続いていることもあって、夏休み中の翔太と、仕事が少し早めに終わる圭介さんが夕食を作ってくれている。

私が帰宅するのを待っていたら、遅くなっちゃうから。

丁度赤信号で止まったところで、圭介さんが手を伸ばしてゆっくりと頭を撫でる。

往復して軽くぽんと頭に手を置くと、それがハンドルへと戻っていった。

「いつも頑張ってくれる由比さんの為だからね。今日は翔太が夕飯を作って待ってるよ、夏期講習から夕方には帰宅したみたいだったから」

圭介さんは、お仕事だったらしい。

てっきり先生って、夏休みは学生と一緒で休みばっかりになるのかと思ったらそうでもないらしい。

まぁ、何かの研究論文を書いている圭介さんは、他の先生よりも出勤しているのかもしれないけど。



「昼ごはんは由比さんが作ってくれてるし、返って残業続きなのに弁当を作ってもらって申し訳ない」

「そんなことないよ、私の分のついでだもの。あまり代わり映えしないから、もっと精進しないとね」

お弁当のおかずって、結構決まってきちゃうから。


そう笑うと、圭介さんも目を細めて笑みを浮かべた。

「そんな事ないよ。未だに溝口先生に狙われてるからね、私の弁当」

一度由比が詫びのつもりで進呈したお弁当をいたく気に入った溝口は、第二弾の要望とそれがダメなら一口寄越せとうるさい、と。

それを聞いて、私の頭にぽんっと“いい考え”が浮かんだ。

おもわずにんまりと笑ってしまった私を、圭介さんが訝しげに横目で見てくる。

「どうかした? 由比さん」

伺うようなその声に私はゆっくりと頭を振ると、前方に視線を向けた。


「いい事思いついちゃったもんで。帰ったら話しますね?」


納得してなさそうな表情を見ない振りして、私は笑いをおさめるでもなく暗い風景を目に映していた。






「会社の人と、ごはん?」

私の帰りを待っていてくれたという可愛い翔太の言葉ににんまりとしながら、遠野宅のダイニングで夕飯にありついた私は、帰りがけに思いついたことを口にした。

その案を却下されたとしても、食事会の事は伝えなければ。

私の言葉を鸚鵡返しに問い返してきた翔太に頷きながら、豚しゃぶに箸をのばす。



今日翔太が作った夕飯は、大量の豚しゃぶ大根おろしのせ。

副菜は市販のもずく酢に、角切り長芋とカニカマを投入したもの。

卵を落とした味噌汁。

副菜は以前私が作ったのを気に入ったとかで、翔太担当のご飯の時は出現率が高い。

男子高生にしては、よく出来る方なのではないだろうか。

さっぱりしてて、夏には丁度いい夕飯だ。


「そう、前に食事に言ったメンバーで、うちに来ることになって。といっても、全部で五人だから庭のテーブル使わせてもらおうと思ってるんだけど」

「でも、確か住んでる所ばれたくないって言ってなかったっけ?」

二杯目のご飯を口に運びながら、翔太が首を傾げる。

それに頷きながら、手に持っていたお茶碗をテーブルに置いた。

「う~ん。まぁ、この人達ならばれてもいいかなって」

「ふぅん」

翔太は呟きながらも、その手を止めない。

山盛りの豚肉が、どんどんなくなっていく。

昨日買った、百グラム百円の特売豚肩ロースが見る間に……。

思わず家計に頭がいきそうになって、いやいやと意識を切り替える。


「だから、溝口先生も呼んだらどうかなって思ったんだけど」

そんなに、ご飯を所望されているのなら。

怪訝そうに私を見る翔太に理由を説明しながら、ねぇ? と圭介さんに視線を向けると。

ずっと黙って話を聞いていた圭介さんが、眉を顰めながら箸を止めた。

「由比さん、溝口先生に甘い」

むすりとしたその言葉に、真向かいに座る翔太がぶふっと噴出す。

「圭介っ、黒いっ。駄々漏れしてるし」

「そうか?」

右手で顎を撫でるその姿に、意味が分からず私の方こそ首を傾げた。


「黒いって? 何漏らしてるの?」

「……由比さん、なんか違う意味に聞えるからやめて、それ」

「はぁ?」

溝口先生を食事に誘うくらいで、なんでこんなに微妙な雰囲気になるわけですか。


なんだかよく分からないまま圭介さんを見ていたら、ふぅと溜息をつかれた。



ブログでのお礼SSお題を下さいアンケートへのご参加、ありがとうございます^^

途中経過です。ただいま圭介がトップ(笑

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