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きっと、それは  作者: 篠宮 楓
第5章 手を伸ばして、君が求めたものは。
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「あー、満足。あー、お腹一杯、これで来週頑張れる」

機嫌のいい皆川さんは、鼻歌交じりに来た道を戻っていく。

あれからもう一ラウンド、カニと繰り広げた皆川さんは、だいぶお店の注目を集めておりました。

ちょっと、恥ずかしかったです(笑




そしてお腹一杯になった私達は、再び会社の最寄り駅へと歩いている途中なわけで。

夏とはいえ、既に七時近く。

薄暗くなってきた住宅街で、工藤主任が恥ずかしそうに皆川さんの頭を小突いた。

「流石に三十近い女が、外で歌うな。恥ずかしい」

「じゃー、二十歳に近きゃいいわけー? だったら、総務課二人に歌ってもらおーじゃない」

「それはさすがに遠慮させて頂きたいです、皆川さん?」

二人の言い合いに、やんわりと桜が釘を刺す。

あれだけカニを平らげたはずの桜のお腹が膨れていないように見えるのは、私の幻覚なんですかね。

なんでー?

私なんか、ウェスト凄く苦しいのに。


ぶつぶつと内心の文句が口から駄々漏れだったらしく、桐原主任に可哀想な子を見るような視線でぽんぽんと頭を撫でられた。

……かわいそくないもん。

余計切なくなったのは、内緒です。



「そういえば、お隣の可愛い子、元気?」

工藤主任と桜とじゃれていた皆川さんが、思い出したように私に話しを向けた。

顔を上げると、指先を口につけて何か思い出すようにきょろきょろと視線を彷徨わせている。

そして私といえば、それに対してなんて答えようか一瞬迷ってしまった。

けれどまぁ、内情知らない人に本当の事言っても仕方ないことだしと口を開く。

「えぇ、元気ですよ。もう少し早く来ていたら、会えたかも。桐原主任は会いましたもんね」

そう話を振ると、前を向いたまま桐原主任が頷く。

「高校生かぁ、若くていいわよねぇ」

しみじみと呟く皆川さんに、工藤主任がおばさん臭いといって肘鉄を食らわされていますが、まぁ、見ない振りをしておこう。

「あぁ、ホント若いですよね。四歳しか違わないって言うのに、学生さんだと思うと隔てる壁を感じました」

ホントもう、恋愛感情で動くとか、若くなきゃ出来ないよねぇ。

思わずふわふわなお人形さんみたいな彼女を、脳裏に浮かべる。

あぁ、大人でもいたっけ。

桐原主任とのごたごたまで思い出して、苦笑を浮かべた。

「? 過去形? なに、なんかあったの?」

思わず遠い目をしてしまったのがいけなかったらしい。

皆川さんに食いつかれた。


……さすがにごたごたは、話さなくていいよね。


「いえ、ちょっと前に学祭に呼んでもらって行ってきたんですよ」

「え! 何で呼んでくれないのっ! てことは、噂の圭介さんとやらにも会えたってことでしょう?!」

「は?」

両肩を掴まれてがくがくと揺さぶられる。

うげぇ、沢山食べた後にこの仕打ちは……

「中身がでるぅぅ」

呻くように訴えると、あら、と皆川さんの手が止まる。

「翔太くんには会ったことあるけど、圭介さんには会ったことないんだもの。あれだけ翔太くんがかわいいという事は、期待充分!」

興奮してきたのか、最後はがっつり大声を上げて拳を握り締めています。

それを見ていた桐原主任が、溜息混じりに皆川さんを指差す。

「誰だ、こいつに酒飲ませたのは」

「ビールなんて酒じゃない!」

酒でしょ、工藤主任の溜息に思わず皆で苦笑い。


大人な皆川さんは、お酒に弱いようです。


「ねぇねぇ、そうしたらさ! 今度上条さんちに遊びに行かせて!」

「は?」

思わず問い返した声に、皆川さんはいい事思いついた、と工藤主任を振り返った。


「人事の手伝いしてくれたら、上条さんのご飯をご馳走!」

「あ、それいいね」

断ると思っていた工藤主任が、あっさりと頷いて私に目を向けた。

「いつも弁当、上手そうだと思ってたんだよねー」

「おいしいですよ、唯のご飯」

なぜか桜まで、皆川さんの案を推すように口添えする。

「え、ちょっと桜……」

桜はくすりと笑うと、いいじゃない、と続ける。

「隣人に食事を作ってるんだから、私達にもご馳走してくれるでしょ?」

「は? 隣人にご飯!?」

工藤主任が驚いて私を見て、すぐに視線を上げた。

そこは私の横、桐原主任がいるところ。

つられるように私も顔を上げると、見下ろしてくる桐原主任と目が合った。

少し考えるように口元に手を当てていた桐原主任は、こくりと頷く。


「……そうだな」


桐原主任まで言い出して、……結果断れなくなりました。


いや、いいんだけどね。

ご飯作るのは好きだから。


「でも、うち、こんなに人数入らないですよ」

「えー、何とかならないのー?」


何とかって……


アパートの庭にある木の机セット、あれなら大人数いけるけど……

そんなことを考えながら、もう一度皆川さんを見る。

「……本気ですか?」

「本気です」

ハートマークがつきそうな語尾に、思わず口端が引き攣る。

すると工藤主任が私の内心を察してくれたのか、皆川さんの頭を小突く。

「上条さんの住環境的に、お前、隣人に迷惑掛けるなよ?」

それです、工藤主任!


翔太はもう会ったことあるからいいけど、圭介さんは初対面。

皆川さん、大人な女性だけど……


ちらりと盗み見ると、うるさいわよ、と工藤主任に反抗する皆川さんの姿。

……お酒入ると、ダメらしいです。


「あ、でもその日、隣人がいなくても文句言わないで下さいね。仕事もあるんですから」

そう付け加えると、ぶんぶんと頭を振る仕草。

可愛いっていえば、そうかも。


そんな皆川さんを見ながら、聞えないように息を吐き出す。

うちが会社と同じ駅って言うの、ホントは桐原主任と桜しか知らないからあまりいいたくないけど。

まぁ、皆川さんと工藤主任ならいいかな。





そんな感じで、食事会の次はうちに来るのが決まったみたいです。

なんだか、イベント続きな感じだわ。



更新、遅くなりました。

どうも、すみませんm--m

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