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きっと、それは  作者: 篠宮 楓
第5章 手を伸ばして、君が求めたものは。
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全員揃ってから移動したのは、駅から二十分ほど歩いた所にあるビュッフェ専門のレストラン。

連れられてきてから思ったのは、限りなく隣の駅に近いこと。

それを工藤主任に突っ込まれた皆川さんは、「だって、こっちの駅だと定期の区間すぎちゃうんだもの」と、女王様な発言をなされていました。



そして、現在。


「……」


全員無言。

全員無言で、唯ひたすらカニをほじほじしています!

各自他の料理も取ってきているのに、皆川さんが大皿に山盛りにしてきたカニを、ひたっすら食べ続けております!



「……」



しばらくして。


「っつーか、手が疲れた!」

工藤主任が脱落しました。

「……俺も、もういいや」

次いで、桐原主任。

私も早々に切り上げ、グラタンやパスタに取り掛かる。

しかし、皆川さんと桜はひたすらカニ。

話しかけても、カニ。

私、どんだけ強力なカニスイッチを押しちゃったんでしょうねぇ。



「そういえば、なんであんなに早かったんですか? 桐原主任てば」

私でさえ、翔太に合わせて少し早めに来ていたのに、それ以上に早くついているなんて。

私の横に座る桐原主任は、煮物を口に放り込む。

「仕事」

「え? 何かあったっけ?」

仕事ときいて、同じ部署に所属する皆川さんがカニから顔を上げた。

皆川さんは、桐原主任のサポートをする仕事が多いらしい。

社内よりも、就職関連やインターン等、社外関連を桐原主任がメインで担当している為、あまりスキルのない若い子をつけるわけにはいかないそうだ。

桐原主任は皆川さんに目を向けると、はぁ、と溜息をついた。



「暑気あたりの次は、夏風邪だと」

「は?」

食べ終えたカ二の足をお皿に放って、皆川さんが布巾で手を拭う。

無言でカニを食べていた桜も、デザートに手をつけていた工藤主任も顔を上げた。

桐原主任は全員の視線を浴びて居心地悪そうに眉を顰めると、だから、と息を吐き出す。



「月曜に、インターン関連部署の会議があるだろ? あれの進行を頼んでた奴が、夏風邪でダウンしたって今朝、連絡きてな」

「え、でも月曜のことでしょ? 別に、週末で治して出勤できるんじゃないの?」

「今日の朝で、四十度越え。熱さまし飲んで月曜に来ても、俺等に風邪染ったらたまったもんじゃない。この時点で二人休みで四人しかいねぇのに、皆ダウンしたら、人事誰がやるんだよ」



……夏風邪で四十度越えって。確かに洒落になんないね、それ。



すでに来年度の就職セミナーも準備していかなきゃならない段階で、桐原主任と皆川さんが同時に休んだら、人事回らないだろうな~。さすがに。

社内のものはどうにかなっても、社外は待ってもらえないわけだし。



「だったら完治するまで休んでもらって、月曜の会議を俺がやった方が何倍もありがたい」

そう言って珈琲を一口飲んだ桐原主任に、皆川さんがなるほどねと呟いた。

「それで会議内容確認しに、今日出てたわけ」

「そ」

短く返答した桐原主任に、皆川さんが溜息をついた。

そしてすぐ、笑みを浮かべる。

「じゃあ、今日はがっつり食べて栄養取らないとね。来週から大変だわ」

「皆川、強気だなぁ」

工藤主任が面白そうにくすくす笑う。

それに応えるように、皆川さんが再びカニに手を伸ばした。

「当たり前じゃない。仕事なんて、勢いよ! やる気があれば何とかなる。ね、桐原」

「よし、そのまま突き進め。皆川」

「よし、あんた達二人もよろしくね」

ぽんぽんと桐原主任と言葉を交わしていた皆川さんが、ふいにこっちを向いた。

あんた達二人って、私達?


人事の話だけに関係ないとばかりデザートを楽しんでいた私とカニに戻っていた桜は、いきなり振られた話にハテナマークを頭に浮かべながら顔を上げる。

すると皆川さんはニコニコと笑いながら、艶やかな唇を弧に描いた。

「勿論、桐原に奢らせるから」

「え」

「じゃー俺も手伝う」

桐原主任と工藤主任の声が重なって、ぷはっと思わず噴出してしまった。

「ずるいじゃん、俺奢られないの」

意地悪そうな工藤主任の声に、桐原主任が半目で見返す。

「お前もこいつら曰くの、役職持ちだろ。奢る方に回れ」

「はー? 手伝って奢ったら、俺にメリットねーじゃんか」

ぶすくれる工藤主任の肩を、皆川さんがぽんぽんと叩いた。



「まさか総務の若い子が手伝ってくれるのに、同期で仲のいい工藤が桐原と私を助けないわけ無いわよね?」



それは疑問系でありながら、確実に断定。



引き攣りながら了承する工藤さんと共に、手伝いが決定した私と桜なのでした。


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