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きっと、それは  作者: 篠宮 楓
第5章 手を伸ばして、君が求めたものは。
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「上条」



約束の、土曜日。



待ち合わせは、……会社の人も皆使う、最寄り駅だった。

マジか!

そう、言われた時は思ったけれど。

考えてみれば、休日に会社に来る人間なんて、総務か人事か秘書くらいのもので。

もし来るとしても、総務か人事で把握が出来る。

それにあえて会社の近くにした方がバレにくいんじゃない? という皆川さんの意見に、なるほどと二つ返事で頷いた。




これから予備校の夏期講習に行くという翔太と連れ立って駅に来てみれば、既に桐原主任が改札前に立っていた。

「……はやっ」

「開口一番、それかよ」

思わず足を止めて、後ずさった私に罪はない。

隣で翔太が私の態度に笑っているけど、気にするもんか!

そうさ、高校の時、行動が漫画みたいとか言われた私を舐めるなよ!

だいぶ挙動不審な私をさておき、翔太は桐原主任に視線を向けた。


「ども、桐原さん」

肩から掛けている鞄を後ろに払いながら、翔太が軽く桐原主任に頭を下げる。

「あぁ」

桐原主任は少し驚いたように方眉を上げたけれど、ぶっきらぼうに答えて頷いた。

そういえば、この二人って仲悪そうだったよね?

この後どんな会話をするのかと思ったら、翔太はくるりと私を振り向いた。


「じゃ、俺行くから。由比、楽しんできてね」

「あ、うん。お勉強、頑張るんだよー」

「はーい」

と、きらきらしい笑顔を浮かべて、翔太は改札へと歩いていった。


……随分、あっさりだなー

前、桐原主任と会った時、噛み付かんばかりに言い争いしてたのに。


ちょっと拍子抜けな感じだったのは、私だけじゃなかったらしい。

「なんか、落ち着いた? 翔太」

桐原主任も、不思議そうに隣で呟いている。

「……大人になったんですかね」

無難な答えを返しつつ、内心、眉を顰めた。


やっぱり、なんかおかしいなぁ。

圭介さんに、相談してみた方がいいんだろうか。

実は、学祭の日に縋りつかれた事、圭介さんには言ってない。

どう言っていいか分からなかったっていうのもあるけど、翔太が、きっとそれを望まないだろうと思ったから。

現に、あの後しばらくして普通に戻った。

翌日には、いつもの翔太に。


安堵と共に、残る焦燥。


……私が、翔太にしてあげられることって、何かないのかな。

不甲斐ない、おねーちゃんでごめんねっ。



「上条」

「はい?」

ずっと桐原主任を無視して思考にはまっていた私は、ぼぅっとしたまま掛けられた言葉に応えた。

けれど、次の言葉で一気に意識が引き戻される。

「翔太、なんかあったのか?」

「……桐原主任?」

なんで、そんな事。

驚いたように隣に立つ桐原主任を見上げたら、丁度息を吐きだすところだった。


「なんか、覇気がねぇ」

「覇気?」

そんな事が分かるほど、翔太と一緒にいないでしょう。そう言外に含めると、桐原主任は両腕を前で組んで、小さく唸る。

「前はもっと、なんか負けん気があったけどな。なんつーか、牙抜かれた犬みてぇ」

「……そうですか」

他の人にもそう見えてるってことは、圭介さんも気付いてるのかな。


「しかし、お前。こんな近くに住んでたんだな」

「――は?」

なんだ、その脈絡のない話しの持って行き方は!

突然のことに、アドリブが全く効かないのは私の特技だ!

目を見張ったまま桐原主任を見上げていたら。

思わずといった感じで噴出すと、片手で口元を覆った。

「そりゃお前、ここに迎えに来てる隣人を見りゃ一目同然だろうよ。しかも、今も一緒に来たんだろ?」

あぁ、まぁそーだよね。

他の人には見られないように帰宅の時は気をつけてるけど、桐原主任には圭介さんや翔太が迎えに来てるところ何度も見られてるんだから。

そう伝えると、今更気付くなよと笑われた。



「他言無用に願います。飲み会の後とかに、宿にされたらかないません」

「まーな。しかも隣はあの二人だし、そっち目当てでお前んちに行く人間増えそうだ」

――確かに

それはとっても面倒そうだし、何よりも二人に迷惑掛けちゃうじゃないか。

「抹殺対象者! 絶対に! 他言無用で!」



うるさい、と、人の頭を小突いた桐原主任は、目撃していた皆川さんに足蹴にされてました。

さすが、皆川おねーさま!


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