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きっと、それは  作者: 篠宮 楓
第1章 初めましてはベランダ
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こっそりと戻ってまいりました

初めましての方、以前見たことあるぞ?の方、どうぞよろしくおねがいします。



可愛らしい、お隣の男の子

高校三年でも、こんな子がいるのね……


――羨ましいっっ!

           ――二十二歳OL談






枕元で響く携帯のアラームで、私は目を覚ました。

幾度か瞬きをして、息を吐く。

「うぅ……、眠い」

思わず呟いたのは、仕方ないと自分で自分を宥めてみる。


壁際に置かれたままになっている壁に掛けるべき時計は、十時過ぎを指していて。

昨日の夜閉め忘れたベランダのカーテンから燦々と陽の光が降り注いで、その眩しさにもう一度目を瞑った。





――じりじりじり


あぁ、なんだか擬音が目に見えそうなくらい暑い……


五月のゴールデンウィークをすぐ後ろに控えた、四月最後の祝日。

まだ肌寒い時間帯もあるけれど、窓を閉め切った室内はぽかぽかを通り越して布団越しに私の身体をじりじりと熱する。



――暑い……眠い……暑い……眠い……あつ……



「暑いってばっ」


耐え切れず、布団を跳ね除けて起き上がった。




歯を磨いて髪を梳かして、適当な服を着れば休日の自分は出来上がり。

休みの日くらい、外に出ないでゆっくりしたい。


「……けど」


一言呟いて、頬を両手で軽く叩く。

平日に出来ない掃除や大物の洗濯、何よりも布団を干さないとカビが……←経験あり

ベランダに出る窓を開けると、ぽかぽか日和、布団干し日和。

サンダルを履いてベランダに出ると、目の前に広がるのは水面が綺麗な大きな川。

きらきらと午前の陽の光を反射している。

六年前アパートを探していた私は、この風景に目を奪われてこの部屋に決めた。

少し古びた築二十年の建物、あまり多くない入居者。

静かなご近所、駅からは少し遠かったけれどそれでも私を惹きつけた。

以来、ずっとここに住んでいる。

社会人になった、今でも。



つい魅入ってしまった風景から視線を外して、上体だけ部屋の方へ向ける。

そこには八畳のフローリングにベッドと机。

ドアの向こうには、キッチンというにはおこがましいような台所が見える。

見えないけれど、横にもう一部屋。

築年数が古いから、部屋数があるのに安く借りられたのがあの頃の私には助かった。



「さてと、干しますか」


腕まくりをしてベッドから上掛けを剥ぎ取る。

そのまま体の向きを変えながら、ベランダの手すりにそれを掛ける。

敷布団も同じ様に掛けて布団バサミをはめて、布団干し終了。



――はやっ



まぁ、後はシーツとタオルケットを洗濯して、それからウォッシャブル枕を洗って……



思わず溜息をつきながら、干した布団の上に上体をもたせる。

「なんで二十二歳にして、こんな所帯じみた言葉を吐かなきゃいけないのよ……」

「じゃぁ、おねーさんだ! やった!」


――ん?


思わず、でろんっと布団の上に寄りかかっていた上体を起こす。

おかしいな、今、何か声が……


二階建ての古ぼけたこのアパートには、十部屋中たったの四部屋しか埋まっていない。

一階に三家族、二階に一家族。っていうか、左の角部屋に私がいるだけで二階には誰も住んでいない。

しかも私の下の部屋もその隣も誰も住んでいないから、声が聞こえる事なんてないんだけど……


外で誰かが話してるのかな?

きょろきょろと辺りを見回してから、さっきの体勢に戻る。


「あぁ、暖かいなぁ……。今日はいいお天気」

「いい引越し日和ですよねぇ」


――!


がばっと、身体を起こす。

確実に今のは私の言葉への返答だったぞ!

やめてー、もしかしてお化け?

六年間何もなかったのに、今更?



恐る恐る声のした方に視線を向けると……



「――誰……?」



隣の部屋のベランダから、可愛らしい顔がこっちを覗きこんでいた。





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