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辺境軍師ハンニバル  作者: 古河新後
プロローグ 辺境赴任

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第5話 ケダモノが!

「ふざけるな!」

「兵士は俺たちを護るのが仕事だろ!」

「ミーヤは今も意識が戻ってねぇんだぞ!」

「怪我させた奴を出せ!」


 天那が門前に行くと村人達が集まって殺気立ってた。基地は誰でも駆け込める様に基本的には開けっ放しだった事もあって、村人は敷地内へ侵入していた。


「ったく」

「天那さん、司令官がお呼びです」


 何とか間を取り持とうと村人たちの前に出ようとした時、天那は伝達員から出頭命令を受け取った。


「…………わかった」


 踵を返して建物の三階にある司令室へ向かうと、扉を開いた。


「どーも。なんすか?」


 正直な所、天那は現在の基地司令に良い印象はない。元々、戦場で左遷された無能が任されるのがこの『第六南部沿岸基地』だ。

 如何にして中央に戻るかしか考えてなく、基地の隊員や周囲の村人の事など二の次なのである。


「天那、今から基地を出るぞ。お前は護衛だ」

「はぁ? 何言ってんだ。門前の騒ぎを聞いてねぇのか?」

「貴様! 上官に何て口の聞き方だ!」

「……表の騒ぎはどうするんすか?」

「ふん! 『強化兵士(レギオン)』の分際で立場を弁えろ!」

「……すみませんねー」

「中央からの物資は日に日に少なくなっている。迎えに来る馬車に至っては半年も途絶えたままだ」

「そーすね。アレはどうなったんですか? 『海蛇(リヴァイアサン)』討伐の援軍要請」

「返事は無い。恐らくこちらの戦力だけで対応しろと言う事だ」

「……俺の事を中央に伝えたんで?」

「伝えるワケないだろう! お前は私を護る貴重な戦力だ! 連れ帰る事で功績の一つとして私の評価が上がる!」

「…………それで基地から離脱するってどう言う事っすか?」

「この基地は中央から見捨てられた」


 司令官は独自のコネを使い中央や戦線の状況を把握していた。


「見捨てられた?」

「この基地は元々、基地などではない。負傷した軍人を使い所が見つかるまで預かっておく収容所だ。戦線を無理やり切り開く際の特攻要員が必要になった時に馬車が来る」

「……は? どう言う事だ!?」

「貴様! 上官への口の聞き方を――」

「どういう事かって聞いてるんだよ!!」


 天那は司令官の胸ぐらを掴み上げて今にも食い殺さん勢いで睨みつけた。その気迫に司令官は思わずたじろぐ。


「どうもこうもない……そのままの意味だ!」

「じゃあ連れて行かれた奴らは……」

「弾除けか、『研究所』の実験に使われたんだろう……」

「……」


 天那は投げ捨てる様に司令官を離した。


「ごほっごほっ……だが、その迎えも恐らくは来ない。『オーディーン』が大きく侵攻し、北の一部を侵略された。故に、こちらに物資を割く余裕がなくなったのだろう」

「…………」

「だが、私は違う。こんな所で終わる気はない! 基地の秘密を知り、お前を連れ帰ったとなれば中央は嫌でも役職をつけるだろう! 本来ならもっとネタを集めて上の地位を狙いたかったが」

「……ここはどうなる?」

「ここはもう終わりだ。傷痍軍人を囲みつつ、物資も支援も無い。更に村人から敵意を向けられた以上、押しかけられ、残りの物資を奪われるのも時間の問題だ」

「……見捨てるのか?」

「この基地の物資全てを村人共に奪わせる事で後々、反逆行為として記録できるし、戦えないクズ共をやむを得ず置いてくる理由にもなる! 私の返り咲きに一躍買ってくれるだろう!」

「……そーかよ」

「天那! お前は中央じゃ死亡扱いだそうだが、一緒に戻るぞ! お前が再び【ファング】として戦線を押し返せば私の評価も――」

「帰りたきゃ一人で帰れ。俺はここに残る」


 天那の言葉に司令官は驚いた。


「な、なにを言っている!? お前は『強化兵士(レギオン)』だぞ!? 『連合軍』の為にその存在意義はあるんだろうが!」

「クソみてぇな言い分だな。俺は死人だ。今頃、中央の奴らは新しい『強化兵士』を使ってるだろうよ。俺に価値が残ってるワケねぇだろ」


 『研究所』のやっている事は全て“実験”だった。

 特に『強化兵士』は、より強い『強化兵士』を生み出す為の試作でしかない。


「型落ちの俺を連れ帰ってもお前も功績にはならねぇよ。なんなら、この基地の事情を知ってるって事で口封じされるかもな」

「そんな浅はかな可能性を私が信じると思っているのか! そうか、あの双子のガキがお前の足枷か! ふん、仕方ない! 特別に連れて行く事を許可してやる! 『研究所』の被検体くらいには――」

「おい」


 と、司令官は見下ろしてくる天那の視線が殺意を宿している事に言葉を失った。


「誰であろうと、サンダーとエクエルに危害を加える奴は殺す。例外は何一つない」

「ぐえっ!?」


 天那は片手で司令官の首を掴み上げて持ち上げる。そのまま本気で息の根を止めるつもりで指を締め上げた。


「ま、待て……」

「…………けっ」


 このまま殺すのは簡単だが今、この司令官の役割は死体になることじゃない。手を離す。


「ごほっごほっ!」

「俺の気が変わらない内に消えろ」

「ふざけるなよぉ……人間以下の『強化兵士』の分際で……絶対に許さん」

「じゃあ、増援でも連れて俺の首を取りに来いや。何度でも返り討ちにしてやるよ」

「絶対に……後悔させてやるぞ! ケダモノが!」


 天那はその様な捨て台詞が響く司令室を後にした所で門前から怒声が響き、慌てて外へ向かう。

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