第4話 ノックしろって言ってるだろ!
「まずはコイツを飲め」
色々聞きたい事はあるが、先に天那が立てる様になって貰わないといかん。オレは私物の薬を溶かした水を天那に差し出す。
「……何企んでやがる?」
「お前の回復だ。オレは兵士じゃなくて司令官なんでね。サンダーやエクエルを前線に立たせるワケには行かないだろ?」
「…………」
天那は納得が行かなくても薬水を飲んでくれた。
サンダーとエクエルとの関係を見ていたが、この手の奴は身内以外は信用しない反面、ソレを利用すれば多少は舵を取れる。
それで、こっちの利だけを考えるのはNG。良くも悪くも、互いに利のある“利用”をしないとな。
「…………お前、水に何を入れた?」
「ハハハ。少し苦かったか? ちょっとした栄養剤だ。マーリン印のオリジナル。味付けは改良中。材料はバルド渓谷にしかない非売品だ」
「御大層なモンだな」
「サンダーとエクエルにも飲ませといた。倒れる寸前だったぞ、あの二人」
「……そうか」
いつ倒れてもおかしくなかった。
天那を看病すると言う意思が精神的な支えになっていたのだろう。
「天那、近い内に敵の襲撃があるのか?」
「…………お前はどこの研究所の所属だ?」
「質問を質問で返すのはよくないぜ。話が進まない」
「面倒事を省略してんだ。先に答えろ」
やれやれ。どっちが上なんだか。
「研究所なんて知らんよ。オレは軍属一週間未満の新兵だからな」
「はぁ!? じゃあ何で司令官の肩書きでここに来た!?」
「師匠がそれなりに有名人でね。コネってやつだ」
すると、天那の隻眼が明らかな敵意を宿してオレを見る。ハハハ。実に分かりやすい。
「『貴族』は嫌いか?」
「同じ戦場に現れたら敵よりも先に殺す」
すると天那は片手で大剣を持ち上げ、オレの首筋に構える。かなり長い間整備されてない大剣は刃こぼれしまくっていた。
「じゃあ仲間だな。オレも『貴族』は嫌いだ」
「テメェも貴族だろうが! なに他人ぶってやがる!」
「オレの師匠の名前はマーリンだ。聞いたこと無いか?」
「後方でのうのうと、ぶっ殺した敵の数に喜ぶクソ共なんぞ知るか!」
師匠の名前が通じるのは上層部だけか。やれやれ、マジで1からだな。
「いいか……もう一度だけ聞いてやる。お前は何者だ?」
天那の眼はこの場でオレを殺す事を厭わないモノだ。大剣がギリ……と動く。返答次第では間違いなく首が飛ぶな。
「貴族でも無ければ、研究所ってトコも知らん。5日前に『連合軍』に従軍して身の身一つでここの司令官をやれって言われてやって来た」
「だから辻褄が合わねぇだろ! なんで新兵じゃなくて司令官に抜擢されるんだ!?」
「師匠のマーリンは『軍神』って呼ばれた戦術家でな。今回の戦争ではまだどっちにも就いてない。そんな折に弟子がやって来て、前線に送って死なせました、なんて言って師匠が『オーディーン』に流れるのを嫌ったんだろ」
まぁ、体のいい島流しみたいなモノである。
お前じゃなくてマーリンが欲しい。弟子は戦線の隅っこで大人しくしてろ、と。
「ここだけの話、2年だけ『オーディーン』に居た」
「! やっぱり敵か! クソ野――」
「まぁ聞けよ」
オレは大太刀が首筋に当てられたまま、腕を組んで椅子に体重を預ける。
「『オーディーン』に居たのは世界の変化を見るためだ。最先端を行くのがあの国だからな。おっと、今は『オーディーン帝国』って名乗ってるんだったわ」
地図では『オーディーン』のままだが、この戦争が終わり次第、『オーディーン帝国』は正式な国名となるだろう。
「そこで『強化兵士』を見た」
「……『オーディーン』もクソの国か」
「ハハハ。『強化施術』は『オーディーン』が発端だが、あっちじゃもう使用は禁止されてた。戦争初期じゃ戦線を開くために結構な数がいたそうなんだが、一般兵や国内の技術が上がった事で、必要なくなったんだと」
「…………」
「多分、『連合軍』に“流した”ヤツがいるな。『強化施術』の研究部門は凍結した事で、その分野の責任者に資金が入らなくなった。まぁ、それでも続けてたみたいだが、研究の第一人者はまだ捕まってないらしい。確か名前は――」
「ベネディクト・トスデリカ」
天那の口からオレの言いたい名前が出た。ハハハ。予想通り過ぎて笑えるぜ。
「こっちに逃げてたか」
「俺がぶっ殺したいヤツNo.1だ」
「ハハハ」
恐らく『研究所』ってトコにベネディクトが居る。もしかしたら所長とか統括室長かもな。
後々の事を考えると、ベネディクトも引き釣り出した方が良さそうだ。また、変な所に逃げられても困るし。
だが、今は天那の誤解を解くのが先だな。
「だからオレは『強化兵士』を知ってる。その内訳は『オーディーン』にいた時に仲良くなった研究者に色々とな。そこで適合する生物の特徴を自分の身体に反映させるって事も教えてもらったんだ」
「…………」
そこまで語ると天那は大剣をオレの首筋から除けた。ちょっと斬れてら。
「信用したってことで良いのか?」
「勘違いすんな。手が疲れただけだ」
敵意は無くなったが警戒心は強い眼。天那が疑問に感じる部分は包み隠さず話したのだ。武器くらい降ろしてもらわにゃ、ここから先の話は出来ない。
「お前の疑問はある程度解消したな。次はオレの質問に答えて貰うぜ」
「…………敵が来るかだったな」
「ああ。基地内に襲撃があったんだろ? やっぱり、お前らを残して部隊は全滅か?」
「…………部隊か。元々、そんなモノはこの基地には無かった」
「どう言う事だ?」
「ここは戦争で役に立たなくなった奴らを利用するまで収容しておく為の施設だ」
ギリ……と天那は嫌な事を思い出す様に歯を噛みしめる。
「簡単に言うなら“矢束”だよ。公的には死人扱い。前線で手数が必要になった時に甘い言葉を囁いて連れ出すんだ」
「ハハハ」
「おい、さっきからそのニヤけた笑いは辞めろ。殺したくなる」
「いやー、悪いな。オレのクセみたいなモンなんだ。感情を誤魔化すには黙るか笑う方が楽でな」
ハンニバルは笑みを崩さないが、どこか怒りのような雰囲気が漂い出ている。
「天那がここに来たのも、“死人”扱いにされたからか?」
ハンニバルの何気ない質問。天那はここに来る事に至った理由とサンダーとエクエルとの出会いを思い出す。
「……そんなトコだ。何も知らなかった当初はみんな喜んでたよ。地元の奴らとも上手くやってたし、魔物なんかを倒したりして感謝されてな。兵士として民間の為に培った技術を振るえるってな」
「そいつは良いことだ」
「だが」
天那は少しだけ俯いて告げる。
「戦争が激化するにつれて、基地への補給は日に日に減って行った。俺達も周りを気にする余裕は無くなって更に沖合に『海蛇』が現れた事で状況は一気に悪化した」
「漁が出来なくなったんだろ?」
「…………いつになったら戦争が終わるんだ、とか。自分達の税で何をやってるんだ、とか。毎日のように訴えられる様になってな。こっちも『海蛇』討伐の為の増援要請を送った。1年以上も前にだ」
「今の司令部が送るハズは無いか」
基地内部の様子から、当時はギリギリだったと悟る。
「そんなある日、近くの村で兵士が村人を傷つける事件が起きた」
「天那さん! 大変です!」
「おい、ジョイント……俺の部屋に入る時はノックしろって言ってるだろ! ぶっ殺すぞ!」
「天那さんの着替えを見れるなら死んでも良いっス!」
「いい笑顔でセクハラ発言しやがって……じゃあ、死ねやコラ!」
「うわっ! メイスを振り上げないで! それに今は死んでる場合じゃないんすよ!」
「あ?」
「村人が基地の前に押し寄せてて、ワルツを出せって」




