表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/131

矛盾そして誘惑

 道を歩けば、それだけで通り過ぎていった人たちの視線が私を追う。

 そして全員が私に魅入り、私のことしか考えられなくなる。多分。そうなっている。

 私という未知の存在に身を任せてしまってもいいと思うほどに、私に恋してしまう。

 昔なら、前の世界なら、こんなことにはならなかった。

 自分のようを隠さずに曝け出すことなんてしなかった。してもせいぜい妹だけだ。

 自分を抑えて隠して殺して、それでも我慢しきれずにって時だけやっていればそれだけでよかった。

 それで十分だった。

 だから、こんな力を私に渡した神様に、私は感謝し嫌悪する。

 割合は9:1くらい。

 ………………やっぱり自分を抑えなくていいと言うのは嬉しいものなんだよね。

 たとえ自分の欲望がどれだけ罪悪と思われているか知っていたとしても。

 とりあえず、私に魅入ってしまった可哀想な人々を私の基地に連れて行く。

 基地というか、今私の住んでいるこの街の領主の家なのだが。それに、連れて行くといっても、まずは一人二人だけだけどね。

 私の能力『不可避の誘惑』は、私から半径50メートル以内に入ること。それだけでたとえ誰であろうと、どんな能力を使っていたとしても、私に魅入ってしまうことを避けることは出来ない。

 今まで思ってきてわかっているとは思うが、私は転生者だ。

 名前は鬼道(きどう)羅刹(らせつ)

 年は17歳で性別は女 

 私の性的対象は全人類。私にとって老若男女や醜美は一切関係なく。私にとっては全人類が恋人のようであり、どんな欠点を持っていようが、どんな美点を持っていようが全員等しく愛し尽くす。

 だって、私にとってはみんながかっこよくて、可愛くて、最高の恋人なんだから。


 彼女の家には人骨がある。

 一人、二人どころではなく、数百もある。

 白骨の山。骨で作られたベッド。骨の椅子。彼女の部屋は人骨で埋め尽くされていた。

 彼女の性癖はカニバリズムである。

 全人類を食したいと思うほどの。

 文字通り骨までしゃぶる彼女の愛し方は、前の世界、地球では受け入れられなかった。



 森の中を1人の少女が歩いている。少女の服装はこの世界にはない物で、日本ではほとんど毎日見る女子高生が来ているセーラー服の制服だ。

 学校名は磊落高校。高校の程度としてはそれほど高くもなく、偏差値30くらいの学校のセーラー服を着た少女は周囲の木々を避けて、首を巡らせながら歩いていた。

 少女の名前は椿(つばき)刹那(せつな)

 即決即断を体現したような少女であり、高校からの帰り道、急に光が目の前で輝き、光がなくなったと思ったら森の中にいたのだ。

 そして少女は思ったのだ。

 私の(こう)は?私の大好きで大切な(ひいらぎ)劫は?一体どこに行ったんだ?どこに消えたんだ?どこに行ってしまったんだ?探さなくては。

 と。

 ここはどこだろう。

 ではなく。

 自分の恋人のことを心配したのだ。そして森の中を歩いているのだ。

 そして今はどうしてここにいるのかを少し考えていたりする。

 さっきまで、いや、少なくとも学校から帰って10分くらいは一緒にいて、いつも通り話して帰って、それで劫の髪触って、匂いを嗅いだらしていたら、

 なにあったんだっけ?

 そこまでは彼女のこと以外にほとんど興味のない羅刹でも思い出せたが、それ以上のことは思い出せないでいた。

 そんな中でも迷わずに見知らぬ森の中を平然と歩いていくのが椿羅刹という女だ。

 よしわからん動こう。

をモットーにしているような女で、

 こんな何があるかもしれない森の木に生えている木の実を見つけて、とりあえずそれを食べてしまう。

 劫なら散々迷って、結局食べなきゃならなくなるまで迷い続けるんだろうな。

 と自分の恋人に想いを馳せながら、桃のような見た目で真っ赤な木の実をもぐもぐと咀嚼していく。

 森の中では枝が四方八方に伸びていて、歩く中で邪魔になる枝は容赦なく切り落としていく。

 切り落としていく中で新たな木の実を見つける。

 バナナのような見た目をした半分から上は青色、半分から下はピンク色というとても食べ物とは思えない見た目をした物体X。が手じゃ届かない場所にあったので、切り落としてキャッチし。

 それを躊躇うことなく刹那の間に食べる。

 その瞬間、体験したことのない甘味が刹那の口内を埋め尽くす。とんでもなく甘い。甘ったるい。

 砂糖を濃縮して甘さだけを取り出したような甘さ。

 吐き気を催すほどの甘さだった。

 甘い物好きの劫でも苦い顔をしながら食べるだろうなぁと思いながら念の為一つ収集しておくあたり、刹那は本当に劫に甘い。

 そしてさらに歩く中で、刹那は唐突に腹痛に襲われる。

 体の内側に生きた虫を何匹も入れられ、その虫たちが暴れ回っているような激痛。

 ふらふらしてきた。

 目の前が二重、いや三、四重に見える。

 いよいよ危うく、何度もえずき、何度も胃の中身をひっくり返し、地面に黄色い液体を吐き出して、意識が飛びそうになった時。

「おい大丈夫かい?」

 いつのまにか近づいていた男が刹那に話しかける。一瞬だけ上げられた視線の鋭さに、一瞬殺されると錯覚して後退りするが、もう一度大丈夫?と聞きながら近づく。

 なんかチャラい。

 関わりたくない。

 劫への悪影響だ。

 そう思いながらも刹那の体は重く、思ったように動かない。そのおかげでいつものようにすぐに殴ることができなかったから、劫にいつも怒られていることを思い出し、劫に言われた通りのことを訊く。

「どちら様ですか?」

 吐き気と頭痛と腹痛を耐えながら訊いたことに、男が親指を立てて自分に向けて自己紹介をする。

「俺はここらのギルドに属してるハバヤっていうんだぜ、だいじょうぶかよー、なぁ」

 あーどうしよう、殴りてぇ。

 でも殴ったらきっと頭にズキズキくるんだろうなぁ、それに腹痛ぇから多分殴れねぇし。

「それ結構やばい状態だぜ?多分あと少し放置してたら死ぬぞ?薬あるからついてこいよ」

 はぁ?何私死ぬの?木の実食っただけで?

 でも、確かにさっきからやばいなぁとは思ってきてるんだよなぁ。目がよく見えないし。

 とりあえずこいつが本当に治せるならついていこう。

 治ったら殴ろう。

 5発。

「あ〜、なんか真っ赤なのと青と白色の木の実食いました」

「バカだろお前!それとびっきり苦しんで死ぬやつだぞ!」

 ハバヤが刹那の言った木の実の特徴に驚いた顔をして怒鳴る。

 青と白色のバナナのような木の実はここら辺でも美味しいけど甘すぎる木の実として有名で、真っ赤な桃のような木の実は頭痛、腹痛、吐き気、眩暈が初期症状として現れて、嘔吐をしだしたら少しずつ五感が失われていき、魔物を呼び寄せる匂いを放たせるため、森の中で食うと生きたまま魔物に食われ、街の中でも生きたまま虫に体内を這いずり回られるという拷問並みの状況に陥ってしまう木の実として、その見た目と『カチョウソウ』という名前が広まっていた。

 当然刹那はそのことを知らない。そして今は指先の感覚がなくなり出している。

 そんな中で、あっそうなんだ。やべーやべー。どーしようかなぁそれ。どうにかなるかなぁ。と落ち着いた思考をしていた。

 その間も症状は進んでいき、空っぽになった胃の中から黄色い液体を吐き出す。

 あー吐いた。

 口ん中苦い。

 口ん中が気持ち悪い。

 頭ん中ぐしゃぐしゃでぐちゃぐちゃでぐにゃぐにゃになるわぁ。

 うえぇ。

「あーこれ飲め、楽になんぞ」

 二つ、薬の錠剤を渡される。

 片方やべぇ気がする。

 なんというか、毒じゃねぇけどやばい気がする。

 まっいっかなんかあったらそん時は切り刻んでやる。

 そんな力が残ってればだけど。

 刹那が一瞬の躊躇いもなくハバヤの渡してきた薬をどっちも飲む。

 ハバヤの渡した薬は片方は『カチョウソウ』の毒を完全に中和する薬であり、すでに効果の証明されている薬であり。もう片方は体力などを回復させる代わりに抗いようのない睡魔に襲われる薬だ。

 どちらも即効性がかなり高い。

 それを飲み、刹那の感じていた症状はすぐに完全になくなり、もう片方の薬の効果もすぐに現れる。

 そしてその効果を知らない刹那が、勘違いを起こす。

 あー、やべぇ。すげぇ眠い。

 あー、なにされんだろ。

 テレビで結構見たぞ、眠らせて、その間にヤるって奴。そうだったら、いや多分そうなんだろうな。

 起きたら、ころして、やる。

 瞼が完全に落ちる前に、男の身体がズタズタに切れて、バラバラに裂けた気がした。



 バラバラに裂けて、失血死したハバヤの前にフィンが現れる。

 死んだことは否定できる。そうすれば生き返る。

 だがなくなったと血液は戻らないため、生き返ってもすぐに死ぬ。

 だからフィンはハバヤに手を合わせて、冥福を祈り、それから近くで眠っている刹那の方へと行って背中におぶってリオルから言われていた小屋に向かって歩く。

 その中でひどりごちる。

「やっぱり、何も知らないって1番ダメな状況ですよね」

 昔見た、人の過去を思い出しながら。確かな足取りでフィンは歩いた。



 ここはどこなのだろう。

 光が見えて、消えたらここにいた。普通に考えれば誘拐とかなんだろうけど、誰かに触られた感覚はなかった。刹那ちゃんの腕が離れてく感覚はあったのにだ。だからそこから考えると全く私たちを移動させずに全く別の場所に連れてきたということ。最近よく見る異世界転移というものならそれは可能だろうし。それ以外の可能性は今のところ、もしかしたら周囲にあった家や塀に見えていたものはなんらかの舞台のセットのようなもので、光を私たちが浴びている間にセットは分解されてセットを変えたということなんだけど。日本のような倫理観のある場所でさっさと歩道して牢獄に連れてくるなんて大胆な誘拐はできないだろうし、あの道は毎日通っていて何度か家から出てくる人にもあったから違う。だから考えられるのはやっぱり異世界転移ぐらいだけど。なんで転移させられたかとかそういうのが一切わからないし。ああダメ、考えすぎてる。考えすぎていいのは近くに刹那ちゃんがいる時だけ。まずは現状をまとめよう。

 まず私は光に包まれて、光が消えたらよくわからない草原にいた。そこにいた人たちはみんな甲冑を着ていて、本物の剣を使って戦っていた。でも私が現れてすぐに戦いをやめたから戦争とかじゃない。ただの模擬戦。それか訓練だったんだろう。

 そしてすぐに私は捕まえられて、補導されて牢屋に入れられてしまった。

 私が何を言っても黙れだったからね、きっと法整備はあまり進んでいない。進んでいたとしても、それは内側だけに適用されるもので、私みたいなどこから現れたかすらわからない人だったらまぁ確かに黙れとしか言えないかもしれない。法整備が進んでないとか思ってごめんなさい。とりあえずその場で殺されるとかはなくてよかった。

 そして光が来た時に私は刹那ちゃんに抱きしめられていた。でもその感覚はここに来た時にはなくなっていて、近くに刹那ちゃんもいなかった。だから刹那ちゃんは私と同じでこの世界に転移されたか、日本であの帰り道にいるか、それとも別の異世界に転移したか、それとも、あの光は本来殺人光線であり、私は実際はもう死んじゃっていて走馬灯のようなものでこの状況を体験していて、刹那ちゃんは、もう死んじゃっているか。

 いやいや、最後のはない。ありえない。何さ殺人光線ってそんなとんでも兵器を作っていたなら国防なんて言ってないでさっさと他国の侵略でも、いやそれはないな、どんな規模の光かはわからないけど、1発で核を発射させるところを抑えなければこちらがやられるし、たとえ一国の核を抑えてもその情報はすぐに他の国にも行って、危険だと判断されれば日本中に核が降ってもおかしくない。

 と思う。

 だからなんらかの光線型軍事兵器の実験に巻き込まれて死んだとかの可能性はないから、刹那ちゃんはこの世界か日本か別の世界にいる。

 それは猫耳や犬耳を生やした人、顔が犬や猫の人もいたんだからある程度異世界なんじゃ無いかと簡単に推測できる。あれはコスプレなんかじゃ無い。たくさんの犬と猫を見てきたからわかるがあれは本物の見た目だった。

 なら当面の目的は日本に変えること。それよりも先にこの世界に刹那ちゃんがいるかどうかの確認だな。そのためにはまずこの牢獄から出なくては。でもどうやって出ればいいんだろ。酸は無いし、やすりもない。がたついている鉄柱も無いし。

 私が頭を抱えて悩んでいると、

「どーもどーも」

 と言いながらぺこぺこ頭を下げながら男の人が来た。見た目はどこにでもいそうな人なのに、不思議と目を離せない。離したらダメな気がする。

「ど、どちら様ですか?」

 男から視線を外さないように気をつけながら私も頭を下げながら訊くと、男の人は

「あー、僕はリオル・クライシスこの世界でそこそこ強い人だよー。

 ちなみに、ここは君のいた世界とは別の世界だからねー」

 ああ、やっぱりそうなのか。そうだったのか。

 塀のある国は見たことがないし、甲冑を着ている人も見たことがない。

 連れて来られる時に見た木には、見たことのない木のみがついていたし。

 だからここが異世界だっていうのは納得できる。

 でも、これから私はどうなるのだろうか。

 異世界なのだからこの国の倫理観が全くわからない。私のようなどこの誰もしれない人は殺されるのだろうか。

 それとも拷問とか?

 でも奴隷なんかになるよりはマシだ。いざとなったら舌を噛み切るなりして死んでやる。

 でももしかしたら、普通に牢屋から出されてスローライフを始められたりするのだろうか?

 そうしたら楽に元の世界に帰るための情報を調べられるのだが。

 帰れたらいいな。

 あー、刹那ちゃんに会いたい。

 刹那ちゃんに触ってほしい。

 すごく不安で怖い。

 刹那ちゃんがいればいいのに。

「私はこれからどうなるんですか」

 勇気を出して私は、リオル・クライシスと名乗った男に訊く。

「あーやっと喋ったねぇ。

 さっきからずっと黙ってただけで動きもしなかったから、僕、ちょっと心配になっちゃった」

 リオルさんが言ってきて、私はまたやってしまったと思った。

 ずっとウダウダ考えてしまう。

 優柔不断。

 陰気ネガティヴ思考シンキング

 これが私のダメなところ。

 これのせいで今まで刹那ちゃんに迷惑ばっかりかけてきちゃったし。

 デートの時にも、私がメニューのことで悩みすぎて30分くらい待たせちゃったこともあったし。

 あぁ私って本当にダメダメだ。

 刹那ちゃんのいない状況でこの世界で本当に生きていけるのかなぁ。本当に日本に帰れるのかなぁ。

「あのぉ、大丈夫?」

 私が頭を抱えていると、リオルさんがまた言ってくる。

「あっはい!大丈夫です。ごめんなさい!」

「いいよー、許すっ!」

 よっ、よかった。

 いや、もしかしたらこれは嘘で私を騙そうとしているとか。

 そう思っていたがリオルの一言は信じたいと思うものだった。

「き!み!に!は!

 とりあえずここにいてもらうだけでいいの!

 柊刹那は僕が連れてくるから!」

「本当ですか‼︎

 刹那ちゃんはどこにいるんですか⁈」

 私にしては珍しく、色々と考えることなく、見ず知らずのどういう人かもわからない人の言ったことに対して、私は勢いよく立ち上がり、叫んでしまうほどには信じたいことだった。

 自分でも、刹那ちゃんに依存していることには自覚があったが、ここまで刹那ちゃんがいないことがこたえてているのかと少し驚いてしまう。

「うん、本当だよ。安心して。

 そう長く待つことはないからさ」

 こくこくと私は頷いた。

 私はこの人を信じることにした。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ