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『世界最弱になりた〜い』

 はあ、はあ、はあ、はあ、はあ、はあ、

 と、

 自分の息切れの声だけが聞こえていた。

 他の音も聞こえてはいたが、どんな音かまでは理解できなかった。

 五日間、最短ルートを通ってきたが、なぜそこを誰も使わないか理解できた。

 かなりの悪路。雨が降り続けて止んだのなんて5日で合計しても10時間にも以下しかなかった。

 雨に降られ続けて、水溜りのせいで木の上での寝食を強いられて、まともに寝られるはずなく、疲れは取れなかったし、きのみもなかったし、転んで食料落としてきたし。本当に散々だ。

 でも、そろそろ着くはずだ。

 あの人のところへ、あの伝説の人がいるギルドに着く。

 金がないから歩くことになってしまったけど、お金があればこんな道を通ることにはならなかったのに。たぶん150キロ近くはあの悪路を歩いた。

 疲れた。

 私よ、本当によく頑張った。

 5日間でよくここまできたものだ。

 もうあの人のいるトジルの街にはついて、ギルドは見えてきた。

 よかった、ちゃんと着いた。

 そう思った瞬間、地面が近づいてきた。

 ゴッ!

 どこか遠いところから鈍い音が聞こえた。

 目の前に赤黒い液体がとろぉと流れてきた。

 あぁ、疲れた。


 少し眠っていて、起きたら女の子の顔が目の前にあった。

 顔立ちがとても良い。めちゃくちゃ可愛い。

 見惚れてしまっていたが、やらなくてはいけないことを思い出して、誰だろうと思いながら体を起こそうとするが額の上に人差し指を当てられて、それだけでなぜか起きれなかった。

「動いちゃだーめ」

 そう言った声は、女の子の声よりは男の子の声に近い気がした。

「ずっと歩いて疲れてたんだよねぇ、頑張った頑張った。

 お疲れ様、フィンちゃん」

 はい、疲れました、

 自分でも聞き取れないくらいの声量でなぜか声が出た。初対面の人なのに、なんでこんな素直に言えたんだろう。それにどうして私の名前を知っているんだ?

「なんで私の」

 ゴホッゴホッと、「名前を知っているの」と訊こうとした時、言葉より先に咳が出る。

 そして私の名前を知っていた人も、心配の言葉より先にコップの水を飲ませてきた。

 この人の能力なのか、コップの中の水が一本の線のようになって、無理やり唇をこじ開けて私の口の中に入ってくる。

 なんで私の名前を知っているの。

 口の中に入ってきた水を飲み込んで、そう聞こうとしたが、また………ねむく………。


 起きたら女の子の顔があった。

 その整った顔はさっきの女の子のものだった。

「おはよう、よく眠ってたね。もう3日は寝てたかな、本当に疲れてたんだね」

 3日⁈

 私は3日も寝ていたのか。

 ………………そこまで急用ってわけでもないからいいか。

 水飲む?と訊かれたから飲むと答え、差し出されたコップの水を飲み干し、本題を言おうと息を吸う。

「リオル・クライシスは僕だけど、一体世界最弱になんのようかな?

 人類最弱のフィンちゃん」

 あれ?なんで私がリオル・クライシスを探していることを知っているんだ?それにこの人がリオル・クライシスって、確かリオル・クライシスは男だったはず。もしかしてこの女の子、本当は男の子?

「あぁごめんごめん。君が道で頭から倒れて怪我してさ、それを治した時についでに君の頭の中見させてもらったんだ。ほら、見知らぬ人は警戒するだろう?」

 あぁなるほど。記憶を見られていたのか。なら、きっと私がここにきた理由ももうわかっているんだろう。

 多分、見られて困る記憶はなかったはず。

「うん、特になかったよ。ちょっとはエッチなとこあったけどwww」

「ちょっと!何勝手に人の記憶見てるんですか‼︎」

「あれぇ?見ちゃいけない記憶はないんじゃなかったぉ?」

 明らかに馬鹿にしてきてる!

 なんなんだコイツ‼︎

 て言うか、私の考えてることバレてない⁈

 いかん、平常心平常心。

 おじいちゃんからも格上と戦う時は余裕の表情でと耳にタコができるほど言われてたじゃないか。

 もしこの女の子(男の子?)が本当にリオル・クライシスなら、頼まなくちゃいけないことがある。

「僕と戦いたいなら、いつでもどこでもどんな勝負でも構わないよ」

 やっぱり心をよむ能力を持ってるのか、能力は1人一個だから、あの水を飲ませてくれた人とは双子なのかな?

「いいや双子じゃないよ、僕はいっぱい能力持ってるラッキーさんなのだ」

 いっぱい持ってるって、おじいちゃんから聞いたことだとそれってかなり確率低いんじゃ。ラッキーさんで済ませて良いことじゃない気がする。

 いや、今はそれは置いておこう。

「そうなんですか、私もひとつだけ能力持ってます。

 正直、能力を使って良いかどうか最近ちょっと疑問なんですけど」

「あぁ、『全否定オール・ノット』だね、あれ結構使える気がするするんだけどな」

「じゃんけんぽん!」

 私の不意打ちのジャンケンにリオルさんはちゃんと対応してきて、私はグー、リオルさんもグーだった。

「あいこでしょ!あいこでしょ!あいこでしょ!あいこでしょ!あいこでしょ!あいこでしょ!あいこでしょ!あいこでしょ!あいこでしょ!あいこでしょ!」

 何度やってもあいこになる。

 やっぱり、引き分けまでは否定してないから、引き分けになるのか。

 でも、引き分けを否定すれば。

「君はなかなか面白いところ出身で、しかも他人の人生を追体験して自分の正義が正しいかどうかがわからなくなっちゃってる。それで、できればもう誰とも戦いたくないから、僕の世界最弱って称号を貰い受けてみんなに侮ってもらおうって思ってるんでしょ?」

 リオルさんは真剣な表情で訊いてくる。

 私も真剣な表情で頷いてから、胸に手を当て、啖呵をきる。

「はい、そうです。その通りです。私はあなたに負けて世界最弱の名を襲名します」

 

「フィン〜。こっちの洗濯物もよろしく〜」

 そう言って、イデアさんが新たに自分の体が隠れてしまうほどの洗濯物の山を持ってくる。

 はい!と答えて、まだ洗っている途中だった洗濯物を洗うのを再開する。

 あんなに子供みたいに小さな体なのに、一体どこからこんな量を持ってくる力が出ているんだろう。

 少し考えるが、もしそのことがバレればイデアさんにぶちのめされることは確定だ。イデアさんの殴りは1発がとても痛いからもうくらいたくない。

 リオルさんと初めてジャンケンしてからもう一年と8ヶ月経った。

 最初こそ、リオルさんの性別がわからなかったが、どうやら男らしい。たまにああやって能力で自分の姿を変えてロリコンなどの変態を釣り上げて捕まえたりしているらしい。だから双子ではない。あれは正真正銘のリオルさんだった。それとリオルさんの持ってるって能力数がおかしいということも知った。

 故郷に帰ることも最初のうちは考えてたけど、最近は故郷のことを思い出すだけで、帰ろうとはおもはなくなっていた。

 私は人類最弱という二つ名をもらっていて、ギルドのみんなもそのことを知っていて、クエストは受けなくて良いからと、こうして日々の雑用をこなす役割を与えられた。

 その合間合間でジャンケンだったり腕相撲だったり、かけっこに鬼ごっこ、殴り合い、料理、掃除などの家事の速度勝負。

 それら全てが引き分けになっているのである。

 意味がわからない。

 引き分けすら否定しているのになんで私が負けないんだ。

 普通私が負けるはずなんだぞ。

 だから、私が負けた時のために「その程度で世界最弱を名乗るとはな」と言って高笑いをするところを想像していたのに。

 なんてこった。

 無駄になってしまった。

 しかもリオルさんに「ふふん、その程度で世界最弱になろうとはな」ってドヤ顔で言われたし。言われてたし。

 絶対私の記憶を見た時に知ったからやり返してきたんだ。

 あの顔本当に腹が立つ!

 あーでも、最近は本当に楽しい!

 リオルさんとの勝負を思い出すとそう思う。

 おじいちゃんたちと一緒にいた時も楽しかったけど。ここの方が何も考えずに済んで楽しい。

 何より、リオルさんとの勝負が楽しい。

 誰の正義も、悪もなく、純粋に勝負するための勝負。それがこんなに楽しいだなんて。それにずっと負けてばっかりだっから、正直同じ実力で戦えるのはとても楽しい。

 まあ、おんなじ実力の人がいないのは私が色々否定しているからなんだけど。

 洗濯物を全て干した後、ギルドの中を歩き回ってリオルさんを探す。

 リオルさんは意外と忙しく、いつも国のどこかで誰かと遊んでいたりする。

 遊んでいるだけで、たいして忙しくないだろうって言われるかもしれないけど、リオルさんにしかできないこともあって、そういう時はこの国からも出て世界中どこでも行って、仕事をしていたりするらしい。

 でも、ギルドマスターなのにギルドの管理や、新人の選別とかは全くやらずに、だいたい他のギルド職員さんがやっている。

 ギルドの中にはいなかったので、街に出る。

 私は走りが早くない。100メートルを19秒くらいだ。

 別に歩いて探しても良いのだが、時間がかかるし、そろそろ今日の勝負の時間だし。だから私の足が遅いと、体力は有限であるという事実を、『全否定』する。

 すると私の走力は上がって、体力も尽きない。

 もちろん100メートルを1秒で走るとかの化け物にはならないが、今の私は、100メートルを9秒くらいでいつまでも走ることができる。

 それで町中を走り回って、時々町の人から話を聞いて、パン屋でパンを買ったり、アイスを食べながらリオルさんを探す。

 そして、見つけた時は、リオルさんは頭から血を流して気絶していた。

 今度は誰に負けたんだろう。通りすがりの殺人鬼?それならすぐに起き上がって引き分けになるまで戦うかぁ。

「あー、えっとねー。とっても恥ずかしいんだけどさぁ」

 気絶状態から治ったリオルさんに訊くと、言葉通り恥ずかしそうにはにかんで、若干頬を染めながら頭をぽりぽりかいて

「0歳児」

 そう言った。

「うっそー」

「ほんとー」

「0歳児に負けたのって私だけじゃなかったのか」

「ねー、僕も君の記憶を見た時おんなじこと思った」

 あっはっはと二人で笑う。

 とても乾いた笑いだった。

 そしてリオルさんは起き上がって、私の頭を撫でてくる。

 2年近くいてわかったこと。リオルさんは気に入った人の頭を結構撫でる。

 結構好きなんだよなぁ、リオルさんの撫で方。

 なんかお父さんを思い出す。

「さぁてと」と言ってリオルさんが立ち上がったから私も立ち上がる。

 ずっとしゃがんでたから少し立ちくらみを起こすがすぐに治る。

「それじゃあ、今日も一戦お願います」

「いいよー」

 そう言ったリオルさんは『指定』『交換』の二つの能力を使って国の外の平地に出る。

 平地に出た時、私から「今日はあなたの能力を否定しないので、どんどん使ってくださいね」という。

 そして、精一杯カッコつけて、ポーズまで取り、


「今日こそ、私が負けます‼︎」

 

 私の言葉にリオルさんは面白そうに笑って、

「そんなこと言う人二人目だよ、今まで結構生きてたのになぁ」

 そう言って、腹を抱えて本当に苦しそうに笑う。

 笑いすぎて目の端から涙が流れていた。

「そ、そんな笑わなくてもいいじゃないですか‼︎」

「いやいやいやいや、笑う笑う。これはもう笑うしかないよ」

 リオルさんはさらに笑い声を大きくする。

 自分の言ったことでそれだけ笑ってくれると嬉しくもあるが、嬉しい(それ)恥ずかしい(これ)は別物だ。

「は、早く始めましょう!」

「いいよー」

 あー、僕もまだつよいなぁ。

 リオルさんがそう言った気がする。

 でも、だとしたら意味がわからない。

「まっ、これだけは言わせてね」


「君程度の弱さでは、世界最弱の僕に負けることはできないよ、

 僕が君に勝てるわけないだろう」


 くっ、なんか。 

 なんか。

「カッコいい‼︎」

「ありがとね!」

 そう言って、リオルさんが走り出す。

『高速』『大地の(グランド)皇帝エンペラー』『角化斬かくかざん』『白縫(しらぬい)』『口合成こうごうせい』『口火』『倍化』『強化』『累乗』『酸化』『硬化』『液状化』『炭化』『炎化』『縮小化』『拡大』『風使い』『炎使い』『油化源ゆかげん』『噛様』『孤魔』『劣化』『斬刀』

 リオルさんは相変わらず多くの能力を使ってくる。

 私は、自分がダメージを受けることを否定して、攻撃された時に私の位置が変わることを否定する。

 これだけで、『大地の(グランド)皇帝エンペラー』で操られた約百の岩の鞭も、

『炎使い』で発生させた炎を『風使い』で上昇させ、できた台風の中に閉じ込められたとしても喉が焼けることも、汗も出ない。

『液状化』で地面が水になり、『劣化』で水が毒になり、『酸化』も組み合わされて触れただけでもドロドロに溶けてしまうような海に入ることもない。

 ノーダメージで、私の位置が一ミリ動かない。

 ただこれだと私は動けなくなる。

 否定すればなんとかなるだろうけど。

 否定していた自分の位置が変わることを解除して、新たに自分が今立っている高さから上や下に移動することを否定する。

 これでいいはず。

 足を前に一歩踏み出す。

 大丈夫だった。

 一歩一歩歩く。

 その間も『拡大』されて大きくなり、『二倍』と『累乗』で威力を上げられている火球や、

『縮小化』で見えないくらい小さくなった風刃が飛んできたりするが、

 私にダメージはない。

『角化斬』の多方面からの斬撃の中に『孤魔』で作り出した魔力の狐たちが潜み、触れるたびにこちらの魔力を奪っていき、そこらじゅうの毒の水が全て『油化源』によって油に変わり、炎魔法によって点火される。

 そして『口合成』によって口の中に入った空気が咀嚼されることによって分離していき、水素同士が歯に押し潰されて融合する。

 起こるのは核融合。

 その爆発を『白縫』によって縫い付けて、放射線も広がらないようにする。

 それでもわたしにダメージは入らない。

 だが、わたしにもリオルさんにダメージを与える術が無い。

 リオルさんは『液状化』しているので、私がダメージを与えることは出来ない。

 時間をかければ、今から火を起こしてその日を当てることで蒸発させるという攻撃方法が取れるが、それを見逃してくれるほど優しくはない。

 だから、今日も引き分けになるんだろう。

「よし、決めた」

 リオルさんが言った。

「君は世界最弱にはなれないよ、君は強すぎる。人を傷つけるのが嫌で自分を否定しちゃってるんだもん。そんな人が世界最弱にはなれないんだよ。それに僕みたいに義務で負けてない。

 真剣に自分の負けだと言える強さがある。

 僕にとってはだいぶ昔に無くした強さだ」

 何を言っているのだろう。

 リオルさんも自分の負けだと言えているじゃないか。

 その思いをリオルさんは読んだのだろう。

「僕の負け宣言は諦めだよ。

 勝てないことが分かりきってるから。

 君みたいに自分から負けに行ってる人とは違うんだよ」

 初めて、こんなふうに直接言ってくるなぁ。

 ああ、でも初対面の時も、記憶覗かれて少し似たような話したっけ。どうだったかなぁ。

「でも私は」

「否定する、君は強い。

 世界最強になれるくらいね。

 人を傷つけることを覚えなよ」

 ヘラヘラ笑いながらリオルさんが言う。

「でも、私は」

 精一杯リオルさんの言葉を否定しようするが、言わせてねもらえない。

「世界最弱ってのはね、全てを受け入れなきゃいけないんだ。自分の感情を出しちゃいけないんだ。

 常にヘラヘラ笑って知らない他人に自分の全てを任せるような。

 どんな攻撃も受けて、まぁ避けてもいいんだけど、誰と戦っても勝っちゃいけない。

 僕は受け入れてるけど、君はまだ受け入れきれてないでしょ。君は誰も傷つけたいんじゃなくて、誰とも戦いたくない。そんな弱さをちゃんとわかってるって結構な強みだぜ?

 だから、駄目」

 と、リオルさんは、

 今まで見たことがないくらいに真剣な表情で言う。

 そして、頭をぐしゃぐしゃとかきむしって、

「あーもう、僕もまだ強いなぁ」

 そういっていつものようにヘラヘラ笑う。

 私はリオルさんの言葉に、それはそうだと思う。

 今までいろんな依頼をこなしてきているのを見てきた。

 ヘラヘラしながらも、ちゃんと助ける人は助けている。

 時々気持ち悪いと思うこともあるが、それは悪人や、どうしても従ってもらわなくてはいけないときだけだし。

 常に自分よりも他人を優先するし、

 子供にとても甘いし、

 この人はとても強い。

 世界最弱がふさわしくないくらい。

 今まで一緒にいて、何度も戦って、

 不覚にも、かっこいいと思ってしまうほど。

「君は人と対立するのが嫌なんだよね。

 誰かと対立して、これ以上自分の中の正義を揺らがせたくない。おじいちゃんとお父さんが正しいんだと信じていたい。

 だから君は、自分が勝つ未来を否定しているんだよねぇ」

 私に確認するようにゆっくり少しずつ言ってくる。そして私はその言葉に頷く。

「昔、君は相手の攻撃が当たるのを否定して、それ以外にも、相手の幸福を否定して、

 傷つけて。

 それが嫌になったから、自分を否定したんでしょ」

 それはこの世界に来てから、どうしても戦わなくてはいけなくなった時のこと。

 こくんと、私は頷く。

「なら、君は自分だけじゃなくて、相手にもダメージが入ることを否定したらいい。

 そしたら君は全ての相手に対して、勝ちもしなければ、負けもしない。

 つまりずっと決着がつかないってことだ。

 それはさ、最強と言ってもいいんじゃないかな」

 そうなのかな。

 丸め込まれてる気がする。

 でも、それなら、確かに誰も傷つけないでいい。

 なら、流されてもいいかな。

「あの、リオルさん、師匠って呼ばせてください」

「何で?」

 リオルさんは本当に困惑したような表情をする。

「だって、なんか考え方が私と違って、いいなぁって思って。

 それと、私は別に世界最強なんて目指してませんから。そんなのはどうでもいいんですよ」

「ふぅん、そうなんだ。まあ別にいいけどさぁ。んじゃあ僕のことを師匠と呼ぶことを許可してあげる。

 僕は君のこと結構気に入ってんだぜ」

 そう言ってリオルさんは歩いてきて、私の頭に手を置いてゆっくり撫でる。

「あの、何で頭を撫でるんですか?」

 私は頭を撫でられながら訊く。

「うん?僕にも昔子供がいてね、君によく似てるんだよ」

 そうなのか。

 子供がいたと言うことは結婚していた人がいると言うことだろうか。

 意外だ。

「何年前のことですか?」

「約128兆4000億年前」

 規模が違う。

 なんだそれ。いつから生きてるんだ。そもそも何でそんなに長生きしてるんだ。

「その人今も好きなんですか?」

「うーん、正直わからないよねぇ、昔すぎる」

 そうですか。

「とりあえず、あと4ヶ月は近くにいてね。君は世界について無知すぎるから、色々教えてあげる。あっ、勘違いしないでよね。あくまで魔物とかのことを教えるだけなんだから」

「えっ⁈」

 私、今月中には旅に出る予定だったんだけど。

 というか、何今のツンデレムーブ。いったいなんの意味が。

 ………………まぁ、いいか。

「とりあえず、よろしくお願いします」

 そう言って私は頭を下げた。


 4ヶ月後。

「じゃあ、やっぱり君は世界最強に向いてるってことで、旅に行っておいで」

「はい、頑張ります」

 私はピースサインをつくり目に当て、キランッと口に出す。

「あはは、僕のが移っちゃったねぇ」

「あはは、今のはわざとですよ」

 手も下げて、わざとらしく私は言う。

「では、行ってきます。師匠」

「うん、行っておいで。弟子」

 はい。

 そう返事して、私は歩き出した。振り返って手を振りながら。

 見えなくなってから、そっと呟いた。

「もし世界最強になれて、強くなったら、元の世界に戻ろう。それで、敵を倒せたら、私、リオルさんに告白するんだ。それまで頑張るぞ!」

 おー!と、私は手を振り上げた。

この話の主人公はリオル・クライシスです。

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